糖尿病診療を変える「低価格」持続血糖測定器

参考:2016/12/20 古川 湧=日経メディカル

 2016年12月、測定値を読み取るリーダーとセンサーを合わせ、約1万3000円という低価格の持続血糖測定(CGM)のデバイスが発売されました。 他にも、持続測定中に患者自身が随時、非観血的に血糖測定できる新しいタイプの製品も登場予定で、価格低下と使い勝手の向上を背景に、CGMの普及に弾みがつきそうです。
腹部や腕部にセンサーを装着し、継続的に血糖値を測定する持続血糖測定(Continuous Glucose Monitoring:CGM)。2016年12月に発売されたある新製品が、専門医らの注目を集めています。商品名は「FreeStyleリブレPro」(販売:アボットジャパン)(写真1)。従来型の製品と比べかなり低価格で、患者による血糖測定の負担をなくすなど、使い勝手の面でも様々な工夫を取り入れているのが特徴です。
写真1 最新型CGMのFreestyleリブレPro(写真提供:アボットジャパン)使い捨てのセンサー(左)は専用器具を用いて患者の上腕部裏側に装着する。装着中でも入浴、水泳、運動が可能。医師が別途購入したリーダー(右)をセンサーにかざすと非接触通信技術により測定結果が読み取られる。医師はリーダーが読み取った情報をUSB接続によりパソコンに移し、専用ソフト上で確認する。
写真1 最新型CGMのFreestyleリブレPro(写真提供:アボットジャパン)使い捨てのセンサー(左)は専用器具を用いて患者の上腕部裏側に装着する。装着中でも入浴、水泳、運動が可能。医師が別途購入したリーダー(右)をセンサーにかざすと非接触通信技術により測定結果が読み取られる。医師はリーダーが読み取った情報をUSB接続によりパソコンに移し、専用ソフト上で確認する。
 
我が国では2009年、CGMのデバイスが初めて承認され、その後徐々に糖尿病診療の現場で導入が進んできました。 装着するとセンサーの針が皮下組織に挿入されたままの状態になり、間質液中のグルコース濃度を測定。間質液中のグルコース濃度が血糖値と相関することを利用し、血糖値の変動をシミュレートします。検査期間が終了したらセンサーを回収し、装着期間中の血糖値の変動をパソコンで後ろ向きに確認できます。 何日間かにわたって血糖値の変動を記録できるため、夜間低血糖や食後高血糖などの発見が容易になる利点がありますが、「実際にCGMを導入するには、ハードルが高い部分があった」と東京慈恵会医科大学内科准教授の西村理明氏は明かします。  
「簡単にセンサーを装着できるので、医師と患者ともに手間が掛からなくなった」と話す東京慈恵会医科大の西村理明氏。
「簡単にセンサーを装着できるので、医師と患者ともに手間が掛からなくなった」と話す東京慈恵会医科大の西村理明氏。

医療機関の持ち出しになっていたケースも

その1つが費用の問題です。従来型の定価は1個当たり数十万円。測定器自体は特定保険医療材料には指定されておらず、技術料、つまりCGMの実施を評価した診療報酬項目(皮下連続式グルコース測定、一連につき700点)を算定することで、購入費用を賄う形となっています。 数十回実施しなければ採算が合わない計算になりますが、そもそもそれ以前にこの点数の要件が厳しく、算定自体が難しいと指摘する医師は少なくありません。例えば、施設基準として「糖尿病の治療に関して専門の知識および5年以上の経験を持つ常勤の医師が2人以上配置されていること」という要件があるが、これは特に診療所にとってハードルが高いです。対象患者も、「治療方針策定のために血糖プロファイルを必要とする1型糖尿病患者」もしくは「低血糖発作を繰り返すなど重篤な有害事象が起きており、血糖コントロールが不安定な2型糖尿病患者」と限定的です。 要件を満たせない施設では、医療機関が持ち出しで購入・使用しているケースもあります。測定の際は患者にデバイスを貸し出すのが一般的ですが、高額なだけに「紛失や破損がないか常に不安がつきまとう」(西村氏)。 今回発売となったFreeStyleリブレProは、血糖変動を記録する使い捨てセンサーが1つ6380円。センサーは特定保険医療材料として保険償還され、要件を満たせば前述の「皮下連続式グルコース測定」(700点)も算定できます。リーダーは7089円で、1台購入すれば複数のセンサーに対応できます。「価格が大幅に下がったため、試してみたいと考える医療施設は多いだろう」と西村氏は言います。 従来型は測定結果を送信するトランスミッターとセンサーの機能が一体化されており、このトランスミッターに多くのコストが掛かっていました。FreeStyleリブレProは、交通系ICカードなどで使われる非接触通信技術を用いることでトランスミッターの機能を代用し、低価格化を実現しました。 患者が補正を忘れても問題ない仕様に FreeStyleリブレProのもう1つ大きな特徴は、キャリブレーション(血糖値による補正)が不要になっている点です。 CGMでは血液ではなく組織間質液のグルコース濃度を測定しており、従来型の製品では指先穿刺により自己測定した血糖値で1日数回結果を補正する必要があります。CGMはグルコースを電流に変換し、その大きさで濃度を計測しますが、FreeStyleリブレProでは電流の大きさのばらつきが生じにくい設計にすることでキャリブレーションを不要にしました。 「指先の穿刺採血の痛みや手間を嫌がる患者は多い。指示通り採血が行われずに測定期間の一部で血糖モニタリングされないケースもあったが、それも改善されるだろう」と西村氏は話しています。  
「Freestyleリブレを使った臨床研究を進めているが、参加を希望する患者から2日に1件ほどの問い合わせが来ている」と話す糖尿病・内分泌内科クリニックTOSAKIの戸崎貴博氏。同院のウェブサイトでは患者向けに臨床研究への参加を呼びかけている。
「Freestyleリブレを使った臨床研究を進めているが、参加を希望する患者から2日に1件ほどの問い合わせが来ている」と話す糖尿病・内分泌内科クリニックTOSAKIの戸崎貴博氏。同院のウェブサイトでは患者向けに臨床研究への参加を呼びかけている。

薬剤の効果を1回の測定で確認できる

FreeStyleリブレProのその他の利点として、実際に使用した医師が挙げるのがモニタリング期間の長さです。 CGMのデバイスは、これまでは約6日間測定する製品が主流でしたが、FreeStyleリブレProでは最長14日間の計測が可能になっています。糖尿病・内分泌内科クリニックTOSAKI(名古屋市天白区)院長の戸崎貴博氏は、「例えば、モニタリング期間が2週間の場合、薬剤の投与量や種類を1週間ごとに変えて血糖値の結果を分析すれば、患者ごとに最適な処方を検討するのに役立つだろう」と話しています。また、数日間分の測定結果から血糖値の変動範囲をパーセンタイルで表示するため、長い期間測定できると、より精度の高い結果が得られるメリットもあるといいます(図1)。  
図1 パソコンソフト上で見る血糖値変動チャートイメージ(写真提供:アボットジャパン)医師が所有するリーダーでセンサーに保存されたデータを読み取れば、24時間(横軸)の血糖値の変動範囲をチャート化して確認できる。
図1 パソコンソフト上で見る血糖値変動チャートイメージ(写真提供:アボットジャパン)医師が所有するリーダーでセンサーに保存されたデータを読み取れば、24時間(横軸)の血糖値の変動範囲をチャート化して確認できる。
  患者がリアルタイムで血糖測定できる新製品も
写真2 患者が血糖値を随時測定可能な持続血糖測定器(商品名:FreeStyleリブレ、発売準備中)(写真提供:アボットジャパン)
写真2 患者が血糖値を随時測定可能な持続血糖測定器(商品名:FreeStyleリブレ、発売準備中)(写真提供:アボットジャパン)

FreeStyleリブレProとは異なるタイプの“新型”の持続血糖測定器も近々発売予定です。これは持続血糖測定のモニタリング期間中に、患者本人が随時、非観血的に血糖値を測定できるというものです。既に欧州を中心に発売されており、日本ではアボットジャパンが糖尿病の専門医に日本語版のデモ機を配布。発売に向けた準備を進めています(写真2)。 このデバイスでは、血糖値を14日間採血なしでリアルタイム測定し、その結果を患者が確認できます。FreeStyleリブレProと同様にセンサーを装着して血糖値を測定しますが、医師ではなく患者がリーダーを管理する点で異なります。患者がセンサーにリーダーをかざすと、リーダーにその時の血糖値が表示されます。 西村氏は同製品について「これまでの糖尿病治療を一変させる可能性がある」と期待します。その時点の数値だけでなく、血糖値が上昇中か下降中かも表示されるため、低血糖を防ぐ目的で食事を摂ったり、血糖値の上昇を抑えるために運動するといった臨機応変な対処を患者自身の判断で行うことができるためです。 戸崎氏のクリニックでは、海外からの個人輸入により使用しているケースもあり、「何回でもストレスなく測れるので、患者は食事や運動の前後など、興味のままに様々な場面で血糖値を測るようになる」(同氏)。血糖管理の動機付けの効果があり、食後の散歩を自発的に行うなど患者の行動も変わってきているといいます。 「糖尿病患者だけでなく予備軍と考えられる人にも医師の側から勧められるようになれば、自発的な食事療法や運動療法につながり、発症予防の効果も期待できるのではないか」と戸崎氏は話しています。