スマホアプリで生活習慣改善を支援

参考:2016/12/17 佐藤 千秋=日経メディカル開発

パイロット研究ではHbA1cが有意に改善

スマートフォンを活用した糖尿病患者・糖尿病予備群の生活改善支援システムのパイロット研究では、HbA1cの値が有意に改善しました。

そしてこのほど、患者が誤解や依存をせずに自己管理ができるシステムの開発と効果の検証を目的に、本格的な臨床試験が立ち上がりました。


東京大学医学部附属病院22世紀医療センターの脇嘉代氏
東京大学医学部附属病院22世紀医療センターの脇嘉代氏

 今年3月、2型糖尿病患者・糖尿病予備群と診断された20歳以上の日本人を対象にした臨床研究の開始が発表されました。対象者は最長5年間にわたって、スマートフォンアプリ「GlucoNote」に日々の食事内容や運動量、体重、血圧、血糖値などの測定データを記録し、この記録行為が自己管理に寄与し生活習慣を改善するかを確かめます。と同時に、食事・運動・睡眠などの生活習慣と、血糖値・血圧・体重・活動量などの在宅測定データの関係を明らかにします。登録者数の目標は2万人から3万人。

発表したのは、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター健康空間情報学講座/東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻特任准教授の脇嘉代氏と、同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻教授の相澤清晴氏。

スマートフォンによる通信やサーバーアプリを利用するため、NTTドコモ、日本電信電話メディアインテリジェンス研究所の協力を仰ぎます。また開発には、Appleが医学研究をサポートする目的で提供しているResearchKitが用いられています。

パイロット研究で有意性を確認
脇氏らは2009年からパイロット研究として、66人規模のランダム化比較試験を行っています。試験開始の5年以上前に2型糖尿病と診断された患者が対象で、インスリン治療を行っておらず、血清クレアチニン値1.5mg/dL未満、網膜症の発症なし(単純性網膜症は可)、運動療法を実施可能であることを参加資格としました。

まず、この試験用にスマートフォンアプリと、データ判定や患者とのコミュニケーションなどを行うサーバーソフトを組み合わせた「DialBetics」というシステムを開発しました(図1)。血圧計、体重計歩数計、血糖値測定器からBluetoothやNFC(Near Field Communication)でスマートフォンに測定結果を送信します。食事や運動の内容は文字や音声を使ってスマートフォンに入力します。これらのデータはスマートフォンからサーバーに送られます。

図1●糖尿病自己管理支援システムの概要(*クリックすると拡大表示します)
図1●糖尿病自己管理支援システムの概要(*クリックすると拡大表示します)

このシステムを2週間試用し、スマートフォンの操作などが困難な対象者12人を除いた54人が試験に参加しました。この参加者を、測定群(「DialBetics」利用、27人)と非測定群(「DialBetics」を利用しない、27人)の2群に無作為に割り付けて3カ月間、HbA1cの変化を比較しました。

結果、試験に参加した測定群(24人)は非測定群(25人)に対して有意にHbA1cの値が改善しました。さらに、測定群のうち歩数計で日々の歩数を記録した23人を、HbA1c改善群(16人)と非改善群(7人)に分けて試験開始前後の行動変容を比較したところ、HbA1c改善群は有意ではないが平均歩数が多いことが分かりました(表1)。

表1●パイロット研究におけるHbA1c変化の比較
表1●パイロット研究におけるHbA1c変化の比較

脇氏は「試験前後で食事内容にも変化があったようだ」といいます。試験が進むにつれ、炭水化物に偏っていたメニュー構成からタンパク質や食物繊維などが増えていき、バランスが改善されている印象を持ちました。

継続しやすい工夫を凝らす
冒頭の臨床研究開始に先立って、スマートフォンアプリなどの改善が進められました。パイロット研究の3カ月間でも脱落者が出ましたが、今度の研究では利用期間を最長5年としているので、継続的に利用したくなるようインターフェースなどに工夫を凝らします(図2)。

図2●スマートフォンアプリ「GlucoNote」の画面
図2●スマートフォンアプリ「GlucoNote」の画面

例えば、食事内容の入力では料理をスマートフォンで撮影するとメニュー名の候補が表示されます。その候補から該当するメニュー名を選択する仕組みになっています。この表示候補を増やすことで、より入力ストレスを減らそうとしています。

「日本人の食事は家庭料理に限っても和、洋、中と多岐にわたっている。何を加えていけばよいか、なかなか難しい」と脇氏。一般的な外食産業や給食サービスのメニューから選定していく方針です。

記録した各種データに対するメッセージも検討対象です。現状では、食事内容についての判定結果として「バランスがいい食事」「カロリーを摂取し過ぎなので少し減らす工夫を」といったアドバイスがスマートフォンに送られてきます。

歩いた歩数や体重、血糖値に対しては、日ごとの変化がグラフ化されて表示されます。一方、継続的に利用させるには、各データの変化傾向に対するメッセージの発信が有効だと思われますが、安全面の確認ができていないため採用は決めていません。

「このシステムでは、血圧や血糖値などが一定の範囲から外れると自動的にアラートを出す仕組みを備えている。メッセージもソフトがデータを分析して自動的に出すので、どんな内容なら患者の誤解を生まないかを検討する必要がある。患者がこのシステムに頼ってしまい、医師の診察を受けなくなるかもしれないと指摘する医療関係者もいるため、システムが自己管理を支援する役割から逸脱しないように配慮しなければならない」と脇氏は語ります。

食事療法や運動療法の継続が、糖尿病の治療や予防に重要なことは患者にも明白です。そして今回の研究では、飽きさせずに自己管理を続けさせるために必要なスマートフォン経由のコミュニケーション術の開発と、その効果が検証されることになります。