誤嚥性肺炎患者は禁食が常識? 早期の口腔ケアの管理も大切

参考:日経メディカル 2017/9/13 西智弘(川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター)

誤嚥性肺炎の絶食・抗菌薬、本当に必要?

 Dr.ニシの外来は今日も忙しいです。緩和ケアの患者だけではなく、一般内科患者の診療も行っているためです。そんな外来に、地域の介護施設から急患として一人の患者が紹介されてきました。

 サトウマサルさん85歳、男性。以前、誤嚥性肺炎で当院に入院しており、2週間前に退院したばかりでした。施設の嘱託医からの紹介状には「昨日夜半から発熱を生じ、アセトアミノフェンで経過観察をしていましたが改善せず、今朝になって痰量の増加と酸素飽和度の低下を認め、経口摂取も困難となりました。貴院にて御高診のほどよろしくお願いします」とあります。

 確かに、熱は38.2℃、SpO2は室内気では89%と不良で、痰がらみも著明です。本人は重度の認知症があり、コミュニケーションは取れませんが、肩で頻回に呼吸して苦しそうにしています。

Dr.ニシ また誤嚥性肺炎を繰り返したのかな。とりあえずは入院の方が良さそうだ……

 そう考え、Dr.ニシは早速呼吸器科へ電話を入れました。ですが……

呼吸器科Dr えっ、呼吸器科で診てほしい? 誤嚥性肺炎は呼吸器じゃ診ないよ。内科のドクターに持ち回りでの担当をお願いしているよ。誤嚥性肺炎は呼吸器の疾患ではあるけれど、老衰の結果という部分もあるからね。コンサルトじゃなくて一般内科医で診てもらえませんか?

 と返されてしまいました。結局、その日に当直当番だったDr.ニシが担当することになったのですが……


Dr.ニシ 呼吸器の先生がおっしゃるように、サトウさんの症状は老衰の結果という面が強いですね。確認してみたら、前の入院は2カ月前、その前は1年前で、それぞれ誤嚥性肺炎で入院していました

Dr.ミヤモリ 入院までの間隔がだんだん短くなって、重症度も高くなっているね。確かに、全身を診ても衰弱が進んでいるよね

Dr.ニシ とりあえず食事をやめて、抗菌薬の投与を開始しました。炎症反応が落ち着いたら嚥下評価をして、食べられたら介護施設に戻っていただきますし、食べられないようであれば胃瘻を作ろうかと思っています

Dr.ミヤモリ ふむ。それだと、前の先生の方針と一緒だね

Dr.ニシ えっ、これくらいしかやることないじゃないですか。前の担当の先生は循環器内科の先生でしたけれど、誤嚥性肺炎はやることが決まっていて誰でも診られる疾患の割に、なかなか良くならないし、良くなったと思ってもまた繰り返すし、面倒くさい。興味が持てない疾患だよ、なんて言っていましたよ

Dr.ミヤモリ あらら。そんなことを言ってはいけないよ。第一、誤嚥性肺炎は本当に誰でも診られて興味がもてない疾患なのかな? 少なくとも緩和ケア医にとっては、考えるべきポイントがたくさんある、非常に興味深い疾患だと思うけど

Dr.ニシ そうなんですか?

老衰で繰り返す誤嚥性肺炎に対して緩和ケアのみを行うという選択肢

Dr.ミヤモリ 2017年に発刊された『成人肺炎診療ガイドライン』(日本呼吸器学会)は読んだかい? このガイドラインでは誤嚥性肺炎(医療・介護関連肺炎:NHCAPの多く)について「易反復性のリスク」「疾患末期や老衰の状態」では、個人の意思やQOLを考慮したケアを行うべきとされているよ。そして、その中には抗菌薬による治療を行わず、緩和ケアに専念するという選択肢も示されているんだ

Dr.ニシ 肺炎なのに抗菌薬を投与しないって…!そんなことが許されるんですか?

Dr.ミヤモリ あくまでも患者本人、または家族など代理人の意向を確認して主治医、病棟スタッフなどとよく話し合った結果として、だけれどね。そうした終末期の病態では、適切な抗菌薬治療が必ずしも生命予後を改善しない場合もあるし、症状緩和についても43%と半数以下の効果しか得られないという報告もあるんだ1)
 また、米国の介護施設で肺炎となった認知症患者225人の前向き観察研究では、抗菌薬を投与することで死亡リスクは80%減少したものの、抗菌薬治療を行わなかった患者さんに比べてQOLが低く、入院した患者ではさらにQOLが低下していたと報告されているよ2)
 つまり、抗菌薬の使用で延命ができたとしても、長期的なQOLは低下させてしまう可能性があるんだ

Dr.ニシ なるほど。患者の状態によっては抗菌薬の効果が乏しい場合もあるし、QOLの観点からは有害となる場合もあるのですね

Dr.ミヤモリ 一方で、抗菌薬を使用しないことが認知症を悪化させるとか、食事を経口摂取するチャンスを逃すとか、終末期の苦痛を増加させるといった報告もあるから、一例一例きちんと評価していくことが大事だよ3、4)。どういった状態なら回復可能で、どこからが回復不能なのか。それを適切に見極めるには高い臨床能力が求められるから、かかった医師で予後やQOLが大きく変わることにもなり得るよね。そう考えると、誤嚥性肺炎は決して「誰でも診られる疾患で、やることが決まっている」わけではないと思わない?

Dr.ニシ 確かに……。ちなみに、緩和ケアに専念するという判断をした場合、苦しそうにしている人に、どんな対処をすればよいのでしょう?

Dr.ミヤモリ そうだねぇ。急性期の症状緩和は難しいことも多いけれど、酸素の投与や抗不安薬、時にはモルヒネを少量で使用する場合もあるかな

誤嚥性肺炎患者は禁食が常識?

Dr.ミヤモリ 誤嚥性肺炎では、全身状態(performance status)の低下、低栄養、低アルブミン血症、脱水などが予後不良因子として報告されているよ。その他、予後が悪いのは経験的なものも含めると、癌などの併存疾患で予後が短い場合や、呼吸筋を含む全身の筋力低下、咳嗽反射の低下がある場合とかかな。あとは、両側性の誤嚥性肺炎を呈している場合も予後が悪い印象があるね

Dr.ニシ そうした患者さんでは、緩和ケアに専念する選択肢も検討した方がよい……と

Dr.ミヤモリ 逆に言えば、これらの要素がそれほど該当しなければ、誤嚥性肺炎を繰り返していても、長期的に安定させることが可能な場合もあるよ。例えば、ニシ君はサトウさんを禁食にしているけど、それは何か根拠があるのかな?

Dr.ニシ えっ……いや、みんなそうしているかなと思って……

Dr.ミヤモリ うん、うん。誤嚥性肺炎は嚥下障害が原因で起きるから、禁食にするのが当たり前というのがこれまでの常識だったよね。でも、禁食管理は患者に対して治療期間の延長や嚥下機能低下などの有害な効果をもたらすという報告もあるんだ5)
 もちろん、無理やり食べさせて誤嚥させるのがよいわけではないけれど、入院当初から歯科や言語聴覚士さんなどに入ってもらって、嚥下の評価と食形態の調整、経口摂取の早期開始または口腔ケアの開始、そして嚥下リハビリテーションの導入をすることには意義があると思うよ

誤嚥性肺炎への薬はどう使う?

Dr.ミヤモリ さて、あとは薬物治療をどうするかだね。ニシ君は何を選んだの?

Dr.ニシ スルバクタム・アンピシリンの静注です

Dr.ミヤモリ 根拠は?

Dr.ニシ 根拠……。前の先生が使っていて、効いているように見えたから?

Dr.ミヤモリ おや(笑) まぁ、効いていたのであれば悪くはないと思うけれど、もう少し考えよう。
 誤嚥性肺炎の治療では、嫌気性菌や肺炎球菌、黄色ブドウ球菌やレンサ球菌などを主たるターゲットに考えるけれど、ガイドラインを参考にすると、「過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴」「過去90日以内に2日以上の入院歴」「免疫抑制状態」「全身状態の低下(performance status)≧3」のうち、2項目以上当てはまる場合は緑膿菌などの耐性化リスクが高いとされているよ。その場合は、タゾバクタム・ピペラシリンやカルバペネム系の薬剤の投与が推奨されているんだ。サトウさんの場合もこの基準に当てはまるから、それらを選択してもよかったかもしれないね

Dr.ニシ そうなんですか! 勉強不足でした

Dr.ミヤモリ どちらかと言えば、抗菌薬の選択というよりも患者本人の予備能や先に挙げた予後のリスク因子の方が影響が大きい印象はあるけどねえ……。在宅診療だと、スルバクタム・アンピシリンは投与回数の面で使いにくいから、セフトリアキソンを使用したり、アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン)にアモキシシリン(サワシリンなど)を追加して投与することもあるんだよ。これは高用量のアモキシシリンを経口投与する際に、オーグメンチンを増やすとクラブラン酸の副作用が出やすくなるから、アモキシシリンを追加するという方法だね

Dr.ニシ あ! それが俗に言う「オグサワ」ですね。ちなみに、繰り返す肺炎を防ぐ方法って、ありますか?

Dr.ミヤモリ 非薬物療法では口腔ケアと嚥下リハかな。薬物療法では絶対的に推奨されるものがあるわけではないけれど、嚥下反射や咳反射に影響するサブスタンスPを増やす薬剤が試されることもある。具体的には、ACE阻害薬やアマンタジン。他に、シロスタゾールや半夏厚朴湯が嚥下を改善するという報告もある。逆に、反復する肺炎のリスクとなる薬剤として、プロトンポンプ阻害薬やベンゾジアゼピンなどの鎮静薬が報告されているよ6、7)。こういったところで薬剤の調整ができないか、試してみる価値はあると思うよ

 

ポイント

・誤嚥性肺炎は回復可能か否か臨床医としての見極めと、看護師や言語聴覚士、歯科医などとのチーム医療が予後を分ける

・誤嚥性肺炎=禁食は嚥下機能をさらに悪化させる可能性がある。早期の口腔ケア・嚥下リハが重要

・薬物療法で繰り返す誤嚥を予防できるかは確立されていないが、試してみる価値はある