矯正歯科を通じての“患者本位の医療”の視点

参考:dentwave 2017/09/19

マスコミの問題意識:矯正歯科を通じての”患者本位の医療”の視点

 医療への課題・問題は絶えず問われることから、当然ながら、医師・歯科医師は広く情報収集を視野に入れているはずです。一方で、医療に関係する学術・社会問題等を報道する側の問題意識については、特別に議論を聞くことは少ないです。特に医科・医療では散見されるかもしれませんが、歯科はないのが現実といえます。

 先ごろ開催された日本矯正歯科専門医学会学術大会で、読売新聞編集局医療部である石塚人生氏が「患者本位の医療とは?」というテーマで講演しました。矯正歯科への言及を含め興味深い内容であり、マスコミ関係者の一部問題意識を知ることになりました。要旨を以下に紹介します。

 患者が医療に求めていることは極めてシンプル。“自分の病気はどんな状態で”“どうやったら治るのか”“どこに行けば最善の治療を受けられるのか”に尽きます。ですがそれを的確に伝えるのは、医療関係者にも難しいです。専門家が持つ情報をかみ砕いて患者=読者に分かりやすくかつ正確に伝えること、橋渡しをすることが医療報道を担う我々の役目だと思います。患者が求める矯正歯科は、きれいな歯並びと適切な噛み合わせを獲得できることで、それが比較的安価で治療期間が短ければなお良いです。

 2016年10月の「医療ルネッサンス」で歯科矯正の連載を担当しました。矯正の認知度や関心が高まり、受けたいと思う人は増えていますが、矯正の専門家でない歯科医師が標榜して手を出すことが増え、結果としてレベルの低い治療が横行するようになってしまいました。また、国民医療費は右肩上がりに増え続け、15年度に41兆円を突破しましたが、歯科診療医療費は1990年代後半から2兆5000億円で横ばいしているため、虫歯の減少・少子化などで個人立歯科診療所の収入は減少が続いています。その分をカバーしようと自由診療の矯正に手を出す歯科医師が増え、矯正全体のレベルが落ちる結果を招いています。こと矯正については、自分さえ適切な治療をやっていれば良い、という時代ではなくなっていると思います。矯正の専門家こそが、問題のある治療が行われている実態を明らかにし、国民に質の高い矯正を提供する責務を果たすべきと考えます。不適切な矯正が横行する背景には、矯正歯科の団体がまとまらず、一丸となって取り組む学術面や技術向上、精度管理が十分できていないもあると指摘せざるを得ません。

 正確な医療情報を伝えることは、我々報道機関以上に医療関係者に求められるようになっています。これまで矯正歯科の分野では、エビデンスに基づいた医療が行われていないと言われてきました。その点、JSO(日本歯科矯正専門医学会)が昨年、“上顎前突の小児に対する早期矯正治療は行わない”ことを推奨したガイドラインを作成したことは特筆に値すると思います。意味のない治療、無駄にコストのかかる治療はやめるべきだという声は医学界で広まりつつありますが、歯科分野ではその取り組みが弱いです。矯正歯科の分野でJSOがその道を切り開いたのは率直に評価したいです。

 以上が矯正歯科への認識ですが、“矯正歯科の団体がまとまらず、一丸となって取り組む学術面や技術向上、精度管理が十分できていない” “JSO(日本歯科矯正専門医学会)が昨年、“上顎前突の小児に対する早期矯正治療は行わない”ことを推奨したガイドラインを作成したことは特筆に値する“と指摘しており、今後の議論の視点になると思われます。矯正歯科の分野は以前からの課題の指摘がありましたが、残念ながら改善・改革には至ってないようです。

 “矯正歯科は専門家がする”という認識が国民の間に浸透していますが、臨床現場での課題・困惑が生じていることを看過できません。厚労省の各審議会・検討会などの構成員を務める山口育子・NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長は、「専門医の議論をする時に懸念されるのが、医師・歯科医師が認識する専門医と医療受診者である患者の認識に相違があること」と指摘しています。このような現状にあることを、各分野での専門家である医師・歯科医師の自覚・問題認識が問われていることも事実のようです。