気胸に遭遇した場合の注意点【研修最前線】

参考:m3.com編集部 2017年12月18日(月)配信
m3.com編集部 2017年12月22日(金)配信

第33週「総合回診」自治医科大学付属さいたま医療センター 2017年

誰もが起こし得る”失敗”―気胸診療で【研修最前線】

  m3.com研修最前線、自治医科大学付属さいたま医療センター「総合回診」シリーズ第33週のジュニアレジデント2年目・明畠良太氏は、自身の経験を教訓にしてほしいという思いから、自らの経験を披歴しました。明かされたのは、誰もが起こし得る失敗エピソードでした。テーマとなる疾患は、気胸。診療過程で何が起こり、そこから何を学んだのでしょうか?今回から全3回、明畠氏の経験を明日の臨床に生かしてほしいです。(全3回)

気胸の症例が搬送されてきた

明畠良太氏 ジュニアレジデント2年目の明畠です。今回は、自分の失敗と気胸についてお話します。ぜひ、皆さんの診療に生かしてもらえればと思います。

 症例は、呼吸苦を主訴とする70歳代前半の男性です。トイレのために起き上がったところ、呼吸困難感が出現し、その後も症状の改善が認められなかったために、当センターに救急搬入となりました。慢性閉塞性肺疾患(COPD)とともに、過去に2回の左気胸の既往があり、2回とも胸腔ドレナージによる保存的治療を行っています。その他の既往歴や内服薬、来院時所見を以下に示しますが、頻脈、高血圧、頻呼吸、酸素飽和度の低下が認められ、左肺野の呼吸音減弱も認められました。

症例033 70歳代前半男性

主訴 呼吸苦

現病歴 トイレに起き上がった時に出現した呼吸困難感の持続のため、当センターに救急搬入となった。

既往歴 COPD、左気胸(過去2回;胸腔ドレナージで保存的加療)、脂質異常症

内服薬 ファモチジン20mg 1T/day、フェノフィブラート80mg 2T/day、グリコピロニウム/インダカテロールマレイン酸塩吸入用カプセル1吸入/day、オロパタジン5mg 2T/day

来院時バイタル 意識清明、体温36.4℃、心拍数115回/分、血圧164/83mmHg、呼吸数21回/分、SpO2 91%(O2マスク4L/min)

身体所見頭頸部:頸静脈怒張なし 胸部:左肺野で呼吸音減弱

 来院時の胸部X線像では、肺の虚脱が認められました。肺尖が鎖骨の下まで虚脱しているため、中等度の気胸と判断しました。

 また、本日は所見の提示ができませんが、肺エコーでは左のラングスライディング消失も認められました。肺疾患の背景としてCOPDの存在もあり、本症例の気胸は「左続発性気胸」と診断しました。

まずは胸腔ドレーンを留置

 本症例に対して、まずは胸腔ドレナージを施行しました。左の第5肋間中腋窩線上から20Frの胸腔ドレーンを留置します。示指にて挿入部付近の癒着がないことを確認し、抵抗を感じることなく肺尖部に留置しました。呼吸性変動があることをしっかりと確認して固定しています。

 ドレーン留置後の胸部X線写真を示します。胸腔ドレーンの挿入により、肺の虚脱の改善を確認できます。

 処置は救急科処置室で行いましたが、私はこの時期、呼吸器外科を研修中であり、そのまま呼吸器外科カンファレンスで症例提示を行い、手術の検討をいただくことになりました。

 術前カンファレンスで、胸腔ドレーン留置後のCT像を供覧していました。そのうちの何枚か提示しますが、複数個の肺尖ブラを認めるほかに、お気づきの点はありますか?

 お分かりになったでしょうか?術前カンファレンスでドレーン留置後のCT像を供覧していたところ、胸腔ドレーンの肺内への迷入が確認されました。緊急手術も考えられましたが、出血の懸念もあったため当日は経過観察の方針となりました。

胸腔ドレーンが肺に!

 後日、皮下気腫の増大を認めたために、胸部CTの再検査を行いました。皮下気腫の増加とともに、肺の虚脱も確認できます。さらにこの画像の中に今回、ドレーンが肺に迷入してしまった原因の1つも描出されています。

 ちょうどドレーンの胸腔内挿入部に一致して、肺と胸壁との間に癒着が認められます。この癒着は、過去に2度の胸腔ドレナージに関連したものと推測されます。今回のドレーン挿入に際しては、挿入部近傍の癒着により肺の可動性が悪く、少しの力でも肺に刺さりやすくなっていたことが肺内に迷入した原因と考えられました。

 本症例での反省点として、胸部X線写真では癒着を判断できました。しかしながら、本症例のように再発気胸でドレーン留置歴がある場合は、単純X線写真で癒着がないように見えても、癒着の可能性を念頭に置く必要があるため、胸部CTなどを行い、慎重に状態の把握に努めるべきでした。

 

  過去に2度の気胸を起こし、胸腔ドレーンによる保存的加療が行われていた症例。ドレーン留置は慎重におこなったものの、結果として留置後CT画像で肺内への迷入が明らかになりました。ジュニアレジデント2年目の明畠良太氏による報告の2回目は、本症例の経過を追うとともに、改めて気胸について学び直してみましょう。

手術を施行し、無事退院に

明畠良太氏 延期していた手術を施行した際の術中写真です(下写真)。癒着の存在と、ドレーンチューブが肺に刺さっている所見が認められます。手術は癒着を剥離し、胸腔鏡下でブラの切除を行いました。空気漏れが起きないよう、慎重に操作します。

 術後10日のX線写真です。肺の虚脱は完全に消失し、胸水の貯留なども認められません。その後、無事退院となりました。

気胸は4種類に大別できる

 ここで、気胸について改めて調べてみました。胸膜に穴が開き、胸腔に空気が貯留した状態が気胸ですが、(1)自然気胸、(2)続発性気胸、(3)外傷性気胸、(4)月経随伴性気胸――の4種類に大別することができます。

 自然気胸は正常の背景肺に、主にブラやブレブの破裂によって生じます。10~30歳代前半の若い方に好発し、多くの患者で高身長・低体重、胸郭異常が認められます。続発性気胸は肺疾患の背景として肺気腫、肺線維症、肺癌などの存在の下、気胸が発症する病態で、多くの場合、患者は高齢者です。外傷性気胸は、外的圧力によって内圧上昇に伴ったり、肋骨など鋭利なもので肺が損傷したりすることで起こります。月経随伴性気胸は、肺や横隔膜上の異所性子宮内膜が月経時に破綻することで惹起されます。月経随伴性気胸は右側発症が多く、外科的治療での完治は不可能な気胸であり、ホルモン治療の適応となります。

 気胸の症状として最も多いのは胸痛です。そのほか背部痛や呼吸困難、咳嗽が挙げられます。

肺エコーの感度は検者に依存、最強はCT

 診断に移ります。気胸の診断に最も用いられるのは胸部X線です。撮像時の注意点としては臥位では感度が30%程度になってしまうことが挙げられます。このため立位ができない場合でもなるべく坐位などで撮影することが望まれます。

 X線所見により、重症度判定ができます。肺尖が鎖骨レベルより頭側にあるものを軽度(あるいはⅠ度)、肺実質の虚脱率が50%以上のものを高度(Ⅲ度)、軽度と高度の間の所見を中等度(Ⅱ度)と判定します。

 胸部X線以外には肺エコーも気胸の診断に用いられます。COPD(慢性閉塞性肺疾患)症例の場合は偽陽性となることがあるので、施行時には注意が必要です。また、肺エコーの感度は胸部X線よりも高いものの、検者間の差が大きいとされています。熟練の検者であれば見つけることもできますが、不慣れな検者が行うと検出感度は落ちてしまいます。

 正常肺と気胸の肺エコー(Mモード)の所見を示します。正常の肺では壁側胸膜と臓壁胸膜の動きのすれ違いによる「lung sliding」が確認できますが、気胸では認められません。さらに、正常の肺では、さざ波様の「seashore sign」の所見が認められるのに対して、気胸の場合にはバーコード状の像が示されます。バーコード状のエコー像は、呼吸を止めて当てると確認できるので、機会があったら、自分に当てて試してみるといいかもしれません。

 診断のツールとして最後に挙げるのはCTです。気胸を検出するには最も診断しやすい方法と言えるでしょう。

ドレーン挿入は何のため?

 次に、どのような気胸が胸腔ドレーンの適応になるかを以下にまとめてみました。

 では、これらに対してどのような目的で胸腔ドレナージを行うのでしょうか。よく「完全な肺の膨張を得るため」といわれ、確かに肺の膨張を得ることは大切なのですが、仮に肺の膨張が得られなくても、手術という選択肢を採ることもできます。このため、胸腔ドレナージの最も大事な目的は「さらなる肺の虚脱を防ぎ、肺の拡張を促し呼吸状態を改善すること」にあると考えます。

 また、肺の虚脱が大きい時には再膨張性肺水腫を起こさないように吸引圧を急に上げずに水封管理とすることが望ましい場合もあります。また、皮下気腫が一気に進む場合や、陰圧がかからない場合には、挿入後からの陰圧管理に加えて、ドレーンの追加挿入も検討することになります。

安全なドレーン挿入部位

 さて、胸腔ドレーンはどこから挿入するのが好ましいでしょうか。触診にて理解できますが、大胸筋の外側をさらにそのまま外側に進んでいくと、筋肉がない場所、すぐに肋骨が触れる部位があります。この部位が大胸筋の後縁、広背筋の前縁、第5肋骨からなる三角形の部位に相当し、ドレーン挿入部の目安となります。部位は人にって多少の個人差がありますが、腕を上げてもらってしっかりと触診することが重要になります。(続く)

※「総合回診」とは:自治医科大学付属さいたま医療センターの初期研修医が行う週1回の症例検討会。文字通りの「回診」ではなく学会スタイルで、研修医が準備したスライドを基に同センターで経験した症例報告を受け、検討を加えていく。毎回、最前列に座る実習生(主に自治医科大医学部4年生)に向けたレクチャーと質問を取り入れるのも特徴。上級医も多く参加し、活発な議論を展開する。