診療中に確認を!「お口の中」の3つの質問

参考:日経メディカル 2018/1/11 横林賢一(広島大病院総合内科・総合診療科)

加藤千季(加藤歯科医院 院長[広島市中区])
かとう かづき氏。2009年広島大学歯学部歯学科卒。戸田歯科医院(山口県柳井市)、二木歯科医院(広島県江田島市)など訪問診療に尽力する歯科医院勤務を経て、2016年より現職。日本摂食嚥下リハビリテーション学会員、日本老年歯科医学会員。地域医療において、『最期まで口から食べる』を支えるために口腔ケアや摂食嚥下リハ、多職種連携に注力している。 

ヨコバン 皆様、あけましておめでとうございます! 「ヨコバン」こと横林賢一です。今年も「ホンマでっか症例帳」をよろしくお願いいたします。今回は、初めて歯科の先生にお話を伺おうと思います。お願いするのは、いつも在宅診療などで僕やクリニックのスタッフがお世話になっている加藤千季先生です。
 プライマリ・ケア医は、どんなことでもまずは相談に乗るスタンスを持つ必要があります。しかし、口の中のことは全く詳しくありません。患者さんに積極的に尋ねることも、患者さんから歯に関する質問をされることもほぼありません。在宅療養中の患者さんから「歯が痛い」と言われたら、「では訪問歯科診療をお願いしましょう」、とするのが関の山でしょう。
 もちろん口の中のことは歯科の先生にお願いするのが一番です。一方、積極的に歯科の先生に診てもらうためにも、私たちプライマリ・ケア医は歯の最低限度の知識は把握しておくべきだと思っています。
 そこで今回は、プライマリ・ケア医が把握しておくべき歯と口の健康に関する知識をご教示いただこうと思います。なんだかやけに恥ずかしがっている加藤先生に、少し無理を言ってご登場いただきました。皆様お手柔らかにお願いします。では加藤先生、お願いします!

Dr.加藤 けんさ……ヨコバン先生、よろしくお願いします! いつもと呼び名が違うので少し違和感がありますが、かとう歯科医院の加藤です。よろしくお願いします! ではさっそく、本題に入りましょう。突然ですが、ヨコバン先生。ご自分の口の中に歯は何本ありますか?

ヨコバン 歯の本数!うーん。1本も抜いたことがないので、32本あるとは思うのですが……。何本だろう。1、2、3……。

Dr.加藤 親知らずを含め、成人に歯が32本あることをご存知なのはさすがです。ただ、もしかしたら生まれつき何本か歯がなかったり、親知らずがまだ生えていなかったり、という可能性もあるので、32本あるかどうかは見てみないと分かりません。

ヨコバン えっ! そうなんですか。気になるなぁ。僕、何本ありますか?

Dr.加藤 そんな! いつでもお待ちしていますから、大きな口を開けて迫ってこないでくださいよ(笑) 鏡で見れば自分で確認できるにも関わらず、ご自分の口の中にある歯の本数を知らないところに、先ほどの「歯のことは全く詳しくない」理由があるように思います。

ヨコバン 言われてみたら気になっちゃって…。確かに、直接目に見えない心臓や腎臓などの臓器の数は知っていても、目に見える歯の数を知らないのは、無意識のうちに「口のことはよく分からないもの」と避けているのかもしれません。

Dr.加藤 では、ヨコバン先生が口の中に関する疾患でご存知のものは何ですか?

ヨコバン むむっ。意外と難しい質問ですね。ぱっと思いつくのは、むし歯、歯周病、舌癌などの腫瘍や膿瘍、舌炎や舌痛症……などでしょうか。

Dr.加藤 素晴らしいです! むし歯と歯周病に言及してくださり、ありがとうございます。この2つは歯を失う要因の第1位(歯周病)と第2位(むし歯)ですから、我々歯科医師が最もよく診る疾患と言えます。それぞれの病態について、どのようなことをご存じでしょう?

ヨコバン うわぁ。皮膚科や耳鼻咽喉科など勉強したことのある診療科についてはある程度答えられますが、歯科はまったく自信がありません……。不勉強ですみません……。

Dr.加藤 いえ、逆に言えば僕は皮膚科や耳鼻咽喉科の質問をされても見当もつきませんから、大丈夫です。むし歯は、簡単に言えばむし歯の原因菌が出した酸によって歯が溶けてしまう疾患。歯周病は、歯周病の原因菌が出した毒素などにより、歯を支えている歯槽骨が溶けてしまう疾患です。

ヨコバン ほぉ。どちらも、菌によって硬組織が溶けてしまう疾患なのですね。勉強になるなぁ。確か、口腔内にはかなり多くの細菌がいるんですよね。

Dr.加藤 はい。唾液1mL当たり1×106~108CFU/mL、歯垢1g当たりだと1×1011CFU/mLと、糞便1g当たりの細菌数より多いんです。

ヨコバン えっ! う〇ちよりも多いんですか!! それは衝撃的な事実……。

Dr.加藤 う○ちって(笑) この話は患者さんにとってもなかなかショッキングなので、よくお話しさせていただいています。もしも、お食事中の方がいらっしゃったら、すみません。

このように、口腔内には細菌が多く繁殖していて、歯科疾患は細菌感染によるものが多いことをまず覚えて頂けたらと思います。では、現場でよくある症例をお示しします。

症例1

87歳、女性。独居。脳梗塞の既往あり。肺炎による入退院を繰り返している。BMIは18。半年前から顕著な体重減少が認められる。

Dr.加藤 こうした患者さんに初めて訪問診療に行くとき、まずどのような所見をとられますか?

ヨコバン そうですね。体重減少があるので、バイタルを含む身体所見を一通り取って、患者さんが今何に困っているかを確認します。認知機能の低下がないかや、入退院歴や治療歴、生活の自立レベルを確認したり、介護サービスの利用状況などを確認したりします。

Dr.加藤 見るべきところはたくさんありますよね。勉強になります。ではもし、口腔内について気に掛けるとしたら、どういったことが挙げられますか?

ヨコバン 肺炎による入退院を繰り返していますから、誤嚥性肺炎の再発を疑い、口腔内が清潔かどうかは確認すると思います。

Dr.加藤 さすがです! 確認されているのですね。

ヨコバン ちなみにこうしたとき、加藤先生なら何が気になりますか?

Dr.加藤 そうですね。まずはヨコバン先生と同様に誤嚥性肺炎を疑い、お口の清掃状態を確認します。脳梗塞の既往もあるため、もし利き手に麻痺が残っていればブラッシングがかなり困難になっていると予想されます。また、足に麻痺があれば洗面所まで歩くのが億劫になり、口腔ケアをしたいと思ってもできない状態になっている可能性も考えます。

ヨコバン なるほど。ブラッシングができなくなって、口腔内の細菌が増え、それを誤嚥して肺炎になっている可能性を考えると。

Dr.加藤 はい。次に顕著な体重減少があるので、食事がうまく摂れていない可能性を考えます。例えば、むし歯や歯周病で歯が痛む、義歯が合わずに歯ぐきに痛みが生じている、義歯がすぐ外れてしまう、飲み込む時のむせ込みが怖くて食べられない――などが考えられます。

ヨコバン 確かに、摂食嚥下障害の可能性はありますね。

Dr.加藤 あらゆる角度から食べられない原因を考えます。もちろん、口腔内だけの問題とは限らないため、必要に応じて言語聴覚士や栄養士、理学療法士の方などに相談をすることもあります。多職種連携は大事ですよね。

ヨコバン 職種間で知識を共有する機会をなかなか持てないので、お互いに「あの職種は一体どんなことができるんだろう」なんて思っていたりするんですよね。正直、訪問歯科診療についての知識は全然ありませんから……。
 そうそう。2011年の東日本大震災の際に、歯科医師の方が仮設住宅で入れ歯を作られていて、衝撃を覚えました。被災地でプライマリ・ケア連合学会の災害医療支援チーム(PCAT)として活動していたときですね。

Dr.加藤 そうでしたか! 僕は東日本大震災があった2011年3月に歯科医師になり、岩手県陸前高田市の仮設住宅で歯科検診をさせていただきましたよ。

ヨコバン うっそ! 僕がPCATで活動していたとき、まだ研修医だったんですか……

Dr.加藤 えっと、つまりは、、いつもは偉そうに見えるってことでしょうか。意外と年齢差あるんですよ(笑)

ヨコバン 知ってますよー。ちょっとからかっただけです(笑)

Dr.加藤 ヨコバン先生…! で、歯科検診をしているとき、ある被災者の方が「震災のちょっと前に入れ歯を入れたのだけれど、入れ歯を入れて咬むと痛いんです。でも今はみんな大変な時期だから、そんなこと言っていられないし今まで我慢していました」と訴えていました。その相談を受けたのは、震災から半年も経った頃でした。

ヨコバン えっ……半年も、痛いまま我慢されていたのですか。

Dr.加藤 そうなんですよ。なので、同行していた先輩の歯科医師は、その場で義歯の歯ぐきに当たる部分を少し削って調整していました。 ちょっと調整するだけで痛みは取れて、すぐお菓子を食べて笑顔になられてました。そのとき、この患者さんみたいに口の中のことで困っていても、きちんと伝えられなかったり、我慢したりしている患者さんがたくさんいるんだろうなと思ったんです。そんな経験があって、訪問歯科診療を志したんです。

ヨコバン そうだったんですか! 僕は加藤先生と出会ったことで、初めて歯科の先生との連携の重要性を実感しました。日常診療の中で、歯科の先生がどのようなことを考え、どんな処置をするのか、それによりどんな症状がどの程度緩和できるかなど、知らないと紹介もしにくいですし。

Dr.加藤 先入観もありますよね。歯科は痛いとか、高いとか。

ヨコバン そうそう。もう、機器の音からして僕……苦手で。歯科に紹介するメリットもあまり分かっていないこともあり、患者さんも歯医者さんには行きたくないだろうな、なんて思ってしまい……。言い訳ですね。

Dr.加藤 もちろん処置内容にはよりますが、我々歯科医師もなるべく患者さんに苦痛の少ないような治療をするよう努力していますし技術も進歩していますよ。

ヨコバン そうは言っても、麻酔……痛いですよね。

Dr.加藤 えー、医科と同様に技術は進んでいますよ! 麻酔針も細くなっていますし、表面麻酔もできます。様々な工夫で少しずつ麻酔の痛みも軽減しています。

ヨコバン あと、入れ歯を作るのって保険外診療なんですよね。

Dr.加藤 いやいや。もちろん、保険外で作る義歯もありますが、基本的には義歯は保険診療でできます。

ヨコバン そうだったんですか! 知らないことばかりです……。少し話は戻りますが、摂食嚥下障害も診られるんですか?

Dr.加藤 はい。介護予防という観点で診ることも多いです。口の中の機能を保つことは、要介護状態にならないよう、栄養、運動と共に取り組むべきことが強く推奨されています。口腔内の機能が低下すれば食事の摂取はできなくなりますから、栄養状態はもちろん、疾患の治療効果にも影響します。
 歯や入れ歯の問題だけでなく、口腔周囲筋や舌の動きが悪くなっていないか、唾液の量は減っていないか、ムセはないかなど、歯科医は「食べる機能」の視点からも口腔を考えています。

ヨコバン なるほど。口腔機能の低下について、プライマリ・ケア医はどのような点に気付けるべきでしょうか。

Dr.加藤 例えば口の中が乾いていたら、口唇もカサカサに荒れています。口腔内が不潔であれば独特の口臭がしますし、歯がなくなり奥歯に噛むところがなくなれば顔がくしゃっとなって老人様顔貌になってしまいます。ぱっと見て分かる点といえば、これらの所見でしょうか。

ヨコバン 口唇の乾燥や口臭なら気付ける気がします。問診で聞いておくべき点はありますか?

Dr.加藤 単純に、「お口のことで困っていることはありませんか?」と聞いていただけるだけでも十分だとは思います。でも、意外と患者さんが我慢されたりご自身で気づいていないこともあるので、以下の3項目を聞いてみるのもよいと思います。

  • 半年前に比べて固いものが食べにくくなっていませんか
  • お茶や汁物などでむせることがありますか
  • 口の渇きが気になりますか

 固いものが食べにくくなっていたら、むし歯や歯周病で歯が痛かったり、入れ歯が合っていなくて歯ぐきが痛かったりという原因が考えられます。ムセがあれば、舌や口腔周囲筋の動きが悪くなっていたり、嚥下反射に問題があるかもしれません。口の渇きは口腔衛生状態の悪化を招きますし、義歯の安定にも嚥下にも消化にも関わります。
 これら3つの質問をして、1つでも該当したら歯科に相談する、と覚えていただけるとよいかもしれません。

ヨコバン なるほど! ちなみに、口腔内を確認するときに、診るべきポイントってどこでしょう? ただ口を開けてもらって、ひどいむし歯や腫れがないかを確認するくらい……?

Dr.加藤 そうですね。まずはお口に興味を持っていただき、大きな異変があるかどうかを確認してもらえるだけでも最初は十分だと思っています。僕たち歯科医師も最初から小さな病変を見つけられるわけではありません。1つアドバイスできるとしたら、ライトで口腔内を照らして奥歯の方まで異変がないかを確認してもらえると、なお良いかもしれません。前歯も奥歯も大事ですが、食べ物を咬みつぶすのは奥歯なので。

ヨコバン ふむふむ。ライトを使って確認すれば良いのか。なるほど! さっそく実践してみます!

Dr.加藤 嬉しいです! ぜひ、よろしくお願いします。

ヨコバン 歯科は、適切に評価をして、むし歯の治療をしたり入れ歯を入れることで「咬む機能」を取り戻したり、「食べる機能」を取り戻すことができるのが魅力ですよね。失った機能を取り戻せるのが羨ましいです。プライマリ・ケア医は現状の機能を維持することはできても、なかなか症状が現れる前の状態に戻すというところまではできないですから。

Dr.加藤 そう言っていただけると、歯医者冥利に尽きます。完全に元通りになるわけではありませんが、できるだけ元の状態に近い状態にする努力を歯科医師はしています。
 そうはいっても、予防に勝るものはありません。プライマリ・ケア医の皆さんも予防に向けた視点を持たれていますよね。この予防の観点は、医科と歯科の親和性は高いと僕は思っています。

ヨコバン そうですよね! と言いながら、予防という視点を持ちつつ、歯科の分野を疎かにしていたことは反省します……。

Dr.加藤 いやいや、これからですよ! 今後、高齢化に伴い、在宅診療のニーズが増えることが想定されています。住民の日常生活圏域で医療、介護、予防などを一体的に提供する地域包括ケアが推進されていく上で、医科と歯科をはじめとする多職種連携が進んでいくと思います。特に生きていくのに欠かせない「食べる」ことを一つの専門職種だけで支えていくのには限界があります。互いの専門知識・経験を共有できれば、患者さんが最期まで自分の口で食べることができ、介護予防やQOLの向上に寄与できると思っています。

ヨコバン はい! 今後もぜひ、一緒に頑張りましょう! 非常に勉強になりました。ここで、Take home messageをお願いします。