血糖値をあげない食べ方

参考:日経メディカル 2017/12/26 佐藤 千秋=日経メディカル開発

筋肉を作る蛋白質から食べてインスリンの分泌を促す

 糖尿病患者の高齢化が進むにつれ、治療においては血糖値の改善、低血糖の回避に加えて、単なる減量ではなく適正体重の維持が予後の改善に重要となってきました。摂取カロリー重視の”量”の食事療法は過去のものとなり、インスリンの分泌メカニズムを利用する食べる”順番”、時計遺伝子の作用を有効に使う食べる”タイミング”を重視する新たな食事療法が注目されています。


 食後の急激な血糖値上昇は心血管疾患を含む様々な糖尿病合併症の発症リスクを高めてしまいます。

 そのため糖尿病の食事療法は、摂取する糖質量を抑えることで血糖値の上昇幅を抑えることから発展しました。さらに食品それぞれの血糖値上昇度を示すグリセミックインデックス(GI値)を考慮したメニュー構成で血糖値の上昇を緩やかにするなどの工夫が凝らされてきました。

 「まず野菜から食べろ」とはよく言われることです。しかし高齢者では、筋肉量の低下によるサルコペニアを同時に予防することの重要性も強調されるようになってきました。そのためには動物性蛋白質の摂取が必要です。おなかが空いているうちに「まず肉や魚から食べろ」というわけです。

 この考え方は実際に、胃内容物排出時間を伸ばし、糖質を吸収する腸管への到達を遅らせるとともに、インスリンの分泌にも好影響を与え、血糖値の急激な上昇を抑えることが明らかになりました。

 またインスリンやグルカゴンといった血糖を制御するペプチドホルモンの作用に影響を及ぼす遺伝子の発現が日内変動していることも明らかになり、食べるタイミングも注目されています。

関西電力病院総長、関西電力医学研究所所長の清野裕氏
関西電力病院総長、関西電力医学研究所所長の清野裕氏

 こうした生理機能に着目した食事療法は、ただ量を減らすだけの食事内容の変更に抵抗感を持つ患者に対しても、より有効であると考えられています。食後の満足感を損ないにくいため、QOLに与える影響が少ないからです。

 関西電力病院総長で関西電力医学研究所所長の清野裕氏は、血糖依存的にインスリンの分泌を促進するホルモンであるインクレチンに注目し、より実践しやすい食事療法を提唱しています。それは、インクレチンを分泌しやすい食物から摂取する“順番”にこだわる食事療法です。

“量”を制限する食事療法はサルコペニアのリスクを抱える

 特に高齢者は、必要とされるカロリーを基に食事療法を行っていると筋量低下などが懸念され、筋肉に取り込まれる糖質が減少するだけでなく、活動量の減少に伴い筋量が低下していくという悪循環に陥ります。

図1●茂山翔太氏が参考にした、アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)が策定したサルコペニアの診断基準


 同研究所の茂山翔太氏は、アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)が策定したサルコペニアの診断基準(図1)を参考に、糖尿病患者の状態把握を試みました。

 この基準を基に、同病院で糖尿病治療を受けている患者を非サルコペニア群、サルコペニア群に分けました。さらに握力を基に筋力低下群、骨格筋量を基に筋量低下群に分けました。

 これらの4群のボディマス指数(BMI)の平均を見ると、筋力低下群は25.5kg/m2で、非サルコペニア群の23.6kg/m2より高いことが分かりました(図2)。一方、SMIの平均を比較すると、筋力低下群は6.4kg/m2で、非サルコペニア群の7.0kg/m2より低く、併せて考えると肥満度が高いことを示していました(図3)。握力は、筋力低下群19.2kgで、非サルコペニア群の29.1kgより低いのは当然として筋量低下群の25.0kgより低い値となりました(図4)。

図2●4群のBMI指数の平均値

図3●4群のSMI指数の平均値

 
図4●4群の握力の平均値

 高齢者の食事療法に際しては、筋量の増加を促すと同時に肥満にも気を配らなければならないことが明らかになりました。

肉・魚の先行摂取がインクレチン分泌を促す

 米飯などの炭水化物より蛋白質や脂質を先に取ることで、血糖値の上昇を緩やかにする試みは様々な研究で検討されてきました。

 例えば、乳清蛋白やグルタミン、オリーブ油を炭水化物より先に摂取すると、血糖値の上昇が有意に抑制されることが分かっています。乳清蛋白、グルタミンはインクレチンの分泌を促進することでインスリンの分泌を促し、インクレチンは同時に胃の運動を抑制し胃内容物排出時間を遅延させるためです。ただし、オリーブ油は胃内容物排出時間の遅延による効果が強く、糖質が腸管に届きにくく血糖値の上昇も遅れるため、血糖依存的に分泌されるインスリンがなかなか分泌されないという特徴があります。

 しかし、日本人には乳清蛋白やオリーブ油を先に摂取する食事はなじみにくいです。そこで清野氏らは、日本の食卓でおかずとして供される肉や魚(蛋白質、脂質)を主食の米飯より先に食べることの効果を検証しました。

 魚はサバの水煮、肉は牛肉の網焼きとし、米飯より15分前に摂取した場合と、米飯の後に魚を摂取した場合の血糖値の変化を比較しました(図5)。

図5●食べる順番別に見た食事摂取時の血糖値の変化
(*クリックすると拡大表示します)

 
 米飯を先に摂取した場合、血糖値は急激に上昇し、摂取後90分でピークを迎え、120分後から降下していきます。

 一方、肉や魚を先に摂取した場合は、米飯を摂取するまで血糖値に変化はなく、米飯摂取後の血糖値上昇は緩やかとなりました。血糖値のピークは米飯摂取120分後で、その後の下降も緩やかです。

 血糖値の変動量も魚や肉を米飯より先に摂取した場合の方が、有意に抑えられていることが分かります(図5右)。この研究で“順番”重視の新・食事療法が確立しました。

魚の先行摂取はGIPの分泌が少ない

 前述の試験では、魚と肉のエネルギー量と栄養素比率を同等に調節していますが、魚を先に摂取した場合と肉を先に摂取した場合では、ピーク値に違いが表れました。

 魚を先に摂取した場合の方が、血糖値のピーク時の値が高いのは、含まれている脂肪酸の飽和度の違いと考えられます。魚(サバの水煮)には多価不飽和脂肪酸が多く含まれています。一方、肉(牛肉の網焼き)には飽和脂肪酸や1価不飽和脂肪酸が多く含まれています。

 インクレチンには、GLP-1とGIPがあります。魚でも肉でも先に摂取すれば、いずれの脂肪酸でもGLP-1の分泌が促進されますが、GIP分泌は肉を先に摂取すると飽和脂肪酸や1価不飽和脂肪酸によって強力に促進されるものの、多価不飽和脂肪酸が多い魚を先に摂取しても肉ほど促進されません(図6)。この違いがインスリンの分泌促進に影響していると考えられます。

図6●食べる順番別に見たインクレチン分泌量の変化
(*クリックすると拡大表示します)

 
 筋肉量を増加させるための肉の積極的な摂取は血糖値コントロールの観点からも望ましいものですが、単純に肉を先に摂取することは勧められません。GIPの分泌が促進されると、その脂肪蓄積作用によって肥満に誘導されるリスクを伴うからです。

食物繊維の先行摂取は有効だが高齢者は肉・魚から

 糖尿病の食事療法では、難消化性成分の食物繊維から摂取するとよいことが広く知られています。食物繊維が糖質や脂質の吸収を抑え、腸内細菌叢にも作用することによって、糖尿病や肥満などの生活習慣病の発症予防や進行抑制といった効果が得られるからです。

 実際に野菜から先に摂取する食習慣を実践していると、食品交換表を用いた従来の食事療法より良好にHbA1cを制御できることが示されています。

 また、2型糖尿病患者だけでなく健常者でも、野菜を先に食べていると、野菜を米飯の後に食べた場合に比べて1日の中での血糖値の変動が改善されることも確かめられています。

 食物繊維はGLP-1分泌に影響しないことが示されており、魚や肉を先に摂取する場合とは異なるメカニズムで血糖値を制御していることになります。

 つまり、両者を組み合わせればより効果的といえます。脂質の吸収を抑えるという点では野菜→肉・魚→米飯の順番が推奨されます。ですが食物繊維は胃で膨潤するため、先に食べてしまうと、特に高齢者は次に食べる魚や肉などを十分に取れなくなる心配があります。そのため、清野氏は「年齢や食欲に応じた“順番”の指導が重要」と指摘します。

炭水化物の摂取は肉・魚摂取から5~10分後に

 この食べる“順番”を重視した食事療法では米飯などの炭水化物を最後に取るため、米飯の量を減らすことに対する抵抗感が少ないです。半面、インクレチンの分泌を先行させるため食事時間が長くなります。

 「朝食はできるだけ短時間に済ませたい現役世代は多いと思われるが、肉や魚を取った後5~10分してから米飯やパンなどの炭水化物を取ることが血糖値コントロールという面では理想的だ」と清野氏はアドバイスします。

 逆に、主食(パン、米飯)、おかず、牛乳を均等に1口ずつ摂取する学校給食の食べ方は「栄養不足時代の指導」だとして、清野氏は改善を訴えます。

Dr.堤より
食事の順番、糖質は、最後の15分をすぎてからはしをつけて、食べ始める先に食べるのは、おかずから