血糖値の安定をえる、食事のタイミング

参考:日経メディカル 2017/12/26 佐藤 千秋=日経メディカル開発

「時間生物学」という切り口から生まれた時計遺伝子を有効に利用する食事のタイミング

日本大学薬学部健康衛生学研究室教授の榛葉繁紀氏
日本大学薬学部健康衛生学研究室教授の榛葉繁紀氏

  食事で摂取した炭水化物が消化により糖質に変わり、その後脂肪細胞に取り込まれて、中性脂肪として貯えられる代謝の流れを研究テーマの1つとしている日本大学薬学部健康衛生学研究室教授の榛葉繁紀氏。同氏の切り口は、1日周期で生物・細胞の状態が変化する「時間生物学」です。「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子は時刻によって周期的に発現の仕方が変わるため、その効果も変化します。

 そして食事を取るタイミングに気を付けると、時計遺伝子の働きによって血糖値の安定を得られるという知見から、新しい食事療法を提唱します。

時計遺伝子BMAL1が血糖値の変動を抑える

 榛葉氏が着目するのは、脂肪細胞中などで発現する時計遺伝子のBMAL1です。この遺伝子の発現によってできる蛋白質BMAL1の機能の1つは、血液中の糖質を脂肪に変化させて脂肪細胞に貯め込むこと。BMAL1は、午前2時前の深夜に最も多く作られ、午後2時あたりに最少となりますが、その後また増えていくという周期を刻みます(図7)。午前2時のBMAL1の脂肪細胞中の量を100%とすると、午後2時には約5%まで減少します。

図7●「BMAL1」の脂肪細胞中の量
(*クリックすると拡大表示します)

 
 このため、夜遅くに炭水化物などを取ると、BMAL1が多く存在するため脂肪が蓄積しやすくなります。肥満防止のために、午後8時までに食事を済ませることを榛葉氏は勧めます。

 BMAL1は、その他の作用も持っています。食事を取ることにより血糖値が上昇するとインスリンが分泌されますが、「BMAL1は膵臓のβ細胞の数を増やすことで、インスリンの量を増やし、筋肉中に取り込みやすくする作用がある」(榛葉氏)。

 食事を取らない夜間には、血糖値は下降していきます。このときは肝臓にあるグリコーゲンをグルコースに代えて血中に放出して血糖値の低下を防ぎます。BMAL1はこの代謝を増やす作用も持っています。

 BMAL1は、日中は身体を活動に適した状態に、夜間はエネルギーをため込む状態にするために働いているといえます。状況に応じてBMAL1は血糖値の振れ幅を縮小するように働き、その安定に寄与しているわけです(図8)。

図8●「BMAL1」の膵臓、肝臓への作用
(*クリックすると拡大表示します)

 
 それぞれを効果的に作用させるためには、BMAL1が残っている時刻、あるいは増加している時刻に合わせた食事の“タイミング”が重要となります。

食事を取ることで時計遺伝子のリズムをリセット

 BMAL1をはじめとした時計遺伝子を適切に発現させるためには、規則正しい生活を送ることが重要になります。BMAL1の発現周期が乱れると、インスリン分泌やグルコースの放出作用が弱まり血糖値の変動幅が正常時より大きくなってしまいます。

 BMAL1をノックアウトしたマウスの実験では、グルコースを投与してもインスリンがなかなか分泌されず、血糖値が下がりませんでした。さらにβ細胞が壊れていき、細胞数が減っていきました。「時計遺伝子が正しく働かないと、インスリン分泌に影響することが分かった」(榛葉氏)。

 時計遺伝子を適正な周期に戻すための方法として、起床時に朝日を浴びることが知られています。

 同様に有効な方法として榛葉氏は、食事を取る時刻の規則性の重要さを挙げます。「時計遺伝子のリズムをリセットするには食事を取ることが有効。特に朝食は、空腹の度合いが高い状態を解消するものなので、時計遺伝子に強く働きかける」。

 国際線旅客機内では、機内の照明調整や食事のサービスを渡航先の時刻に合わせて行っています。人によって効果は異なりますが、時計遺伝子の周期をあらかじめ到着地の時刻に適応させることを期待してのことです。

 夕食については、「身体を休息させる状態にスムーズに移行し、翌朝、空腹感を感じられるように、深夜の摂取を避けるように」と榛葉氏はアドバイスします。また、日中と比較して、夜間は血糖値が下がりにくい状態になるため、この点からも早めに夕食を取る必要があります。

夕食を済ませる時刻を決めて摂取量を合理的に抑える

 3食それぞれを取る時刻は、これまで述べてきた知見を踏まえて個々に決めればよいです。「大切なのは毎日決まった時刻に食事を取ること。日によって1時間以上前後させたり、食事を取ったり取らなかったりというのがリズムを崩す元」と榛葉氏。

 また夜型の人は、可能なら少しずつでも生活習慣を朝方に変化させていくとよいです。

 「夜更かし、朝寝坊をする夜型の人はアルコールと炭水化物をよく取る傾向にあるし、食事も抜きがちだ。早寝早起きの朝型の人は米飯も好きだが野菜や乳製品をよく取るようだ。食べる量は朝食が多めで、夕食は少なめといった傾向も見られる」(榛葉氏)。朝型に移行することによって、夜の過度の飲酒が抑えられたり、夜遅くに食事を取らなくなり、空腹で朝早くに目覚めるようになる好循環が期待できます。

 このような生活習慣の改善を実践していくことはなかなか難しいですが、食事の摂取量とのトレードオフで進めていけば、比較的容易です。

 朝食、昼食、夕食を毎日決まった時間に取るタイミング重視の食事療法に取り組みながら、朝は多めでもよいですが、夜は午後8時など早めの時間までに済ませることで量を抑えるという習慣になじんでいけば、1日の血糖値の変動が小さくなります。

 さらに、食べる順番に配慮する食事療法を併用すれば、急激な血糖値の上昇や下降を抑えられます。

 摂取カロリー重視の食品交換表を用いた従来の食事療法を「満足感を得られない」という理由で実践できない患者に対しては、“順番”や“タイミング”をキーワードにした新・食事療法を指導してみてはいかがでしょうか。サルコペニアに至るリスクを減らし、早起きの習慣から日中の活動的な生活につながるメリットが得られるなど、副次的効果も期待できます。