車載モーター戦国時代

参考:日本経済新聞電子版 2018/2/1

車載モーター戦国時代 4兆円市場狙い新規参入続々

 2020年ごろを境にして、急速に進むとされる自動車の電動化。それに伴い、電動車両の「走る」「曲がる」「止まる」といった足回りの性能やコストを左右する駆動システムも急成長する見込みです。メガサプライヤーからデバイスメーカーまで、さまざまな立場の企業が、激しい主導権争いを始めました。

■相次ぐ新規参入

 まさに戦国時代――。ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV)といった電動車両向け駆動用システムを巡る開発競争は、そんな様相を呈しています。駆動システムは主に、「モーター」とモーターを制御する「インバーター」、モーターと組み合わせて大きなトルクを生む「減速機」からなります。「メガサプライヤー」と呼ばれる巨大な電装品メーカーから、モーターやインバーターなどを手掛ける大手車載部品メーカー、パワーデバイスや受動部品を扱う大手デバイスメーカーまで、さまざまな企業が駆動システムに向けた新製品の開発や開発・生産体制の強化に乗り出しています。

今後の市場拡大が見込まれる、電気自動車やハイブリッド車といった電動車両に向けた駆動システムを巡る開発競争が激しさを増している。巨大な電装品メーカーから大手車載部品メーカー、大手デバイスメーカーが入り乱れて製品開発に注力している
今後の市場拡大が見込まれる、電気自動車やハイブリッド車といった電動車両に向けた駆動システムを巡る開発競争が激しさを増している。巨大な電装品メーカーから大手車載部品メーカー、大手デバイスメーカーが入り乱れて製品開発に注力している

 競争激化を象徴するのは、新規参入が相次いでいることです。中でも鼻息が荒いのが日本電産です。

 同社はこれまで、車載分野では電動パワーステアリング用モーター(EPSモーター)や電動ブレーキ用モーターなどの中小型モーター、短距離の搬送に利用する低速な商用EVの駆動モーターを手掛けてきました。今後は、駆動システム事業に本格参入します。その「先兵」として送り出すのが、2017年9月に発表した、小型軽量をウリにする新製品「E-Axle」です。

 日本電産はそもそも、小型精密モーターを武器に成長してきました。中でもハードディスク駆動装置(HDD)用スピンドルモーターの数量ベースの世界シェアは80%と大きいです。小型精密モーターで培った加工・製造技術を生かすことで小型軽量の駆動システムを実現し、この分野でも「HDD用モーターのような大きなシェアを握りたい」(日本電産専務執行役員で車載事業本部副本部長の早舩一弥氏)と意気込んでいます。その結果、駆動モーター関連の事業を、売上高がほぼゼロの状態から、2025年度に1000億円規模に急拡大させることを目標に掲げます。

■デバイスメーカーは「川下」に

 駆動システムにおけるサプライチェーンの「川上」側にいるデバイスメーカーも、より「川下」側のインバーター事業へ参入すべく動き出しています。例えばTDK東芝と共同で、インバーターを開発・製造・販売する合弁会社を2016年に設立しました。2018年にも本格的に製品を拡販するもようです。

 TDKは、車載分野ではモーター向けネオジム磁石や、HEV用DC-DCコンバーター(直流電圧の変換回路)に強みを持っています。これにインバーターを加えることで、車載のパワーエレクトロニクス関連事業を強化する狙いがあります。

 インバーターに必要なパワーデバイスを得意とする富士電機や、インバーターの入力側に配置する平滑用のフィルムコンデンサーで大きなシェアを握るパナソニックも、インバーターの事業化を伺います。パナソニックはインバーターに加えて、車載充電器(AC-DCコンバーター)とDC-DCコンバーター、電力の分配や駆動/回生時の電力経路の制御などを担うジャンクションボックスの4つで構成した「電源システム部」とモーターを一体にした駆動システム(電動パワートレーン)を開発しています。このうち、電源システム部を2018年から量産予定です。

■”電動化市場”の旧拡大でチャンス到来

 このように、駆動システム分野における主導権争いが活発なのは、電動化の波が急激に押し寄せていることが背景にあります。調査会社の英IHS Markit(IHSマーキット)の予測によれば、2020年ごろから電動車両が急速に増え始め、2029年には全自動車の出荷台数のうち、およそ半分を占めるとみています。

IHS Markitの予測によれば、2020年ごろから電動車両が急速に増え始め、2029年には自動車の出荷台数のうち、およそ半分を占めるとみている(図:IHS Markitの資料を基に日経エレクトロニクスが作成)
IHS Markitの予測によれば、2020年ごろから電動車両が急速に増え始め、2029年には自動車の出荷台数のうち、およそ半分を占めるとみている(図:IHS Markitの資料を基に日経エレクトロニクスが作成)

 電動車両向け駆動モーターといえばこれまで、大手自動車メーカーがHEVやPHEVに向けて内製するのが主流でした。

 今後、電動車両が増加する中で、自動車メーカーの「外部調達が増える見込み」(自動車部品産業に詳しい立命館大学大学院 経営管理研究科 准教授の佐伯靖雄氏)で、その体制づくりが進みます。例えばホンダは、日立オートモティブシステムズ(日立AMS)とタッグを組み、電動車両向け駆動モーターの開発・製造・販売を行う合弁会社を2017年7月に設立。ホンダはこの新会社から調達する姿勢を見せています。

 中でも、数量とコスト削減を強く求められる普及価格帯の電動車両向け駆動モーターを調達するようです。資本金の過半(51%)を日立AMSが出資することで、ホンダだけでなく、自動車メーカー各社からの受注を取りこむ狙いです。これにより大量のモーターを製造し、コスト削減を図ります。

 加えて、2019年の「NEV法」(自動車の販売台数全体に占める新エネルギー車NEVの比率を定めた中国の法律)の実質的な施行が中国で決まり、今後大幅な需要拡大が見込めます。地場の自動車メーカーの多くが、「駆動モーターやインバーター、減速機の開発経験が少ないため、部品メーカーに一任する『ほぼ丸投げ状態』」(多くの自動車部品メーカー)にあるためです。

 この結果、駆動システムの市場は今後大きく成長する見込みです。日本電産の予測によれば、パワートレーン系の車載モーター、つまり駆動モーター関連の市場は、2030年に3兆9000億円になるとみます。これは、2016年(1兆5000億円)の2.5倍以上に相当します。

日本電産の予測によれば、パワートレーン系の車載モーター、つまり駆動モーター関連の市場は、2030年に3兆9000億円になるとみる(図:日本電産の決算資料を基に日経エレクトロニクスが作成)
日本電産の予測によれば、パワートレーン系の車載モーター、つまり駆動モーター関連の市場は、2030年に3兆9000億円になるとみる(図:日本電産の決算資料を基に日経エレクトロニクスが作成)

■新製品や増産体制で迎え撃つ

 モーターを中心とした駆動システムでは自動車メーカーの内製品が主流なだけに、「大きなシェアを持つメーカーが不在で、メガサプライヤーから新規参入組まで含めて、ほぼ同じスタートライン」(複数の電装品/部品メーカー)に並んでいます。

 それだけに、ひたひたと新規参入が押し寄せる中、これまで駆動システムに向けたモーターやインバーター、減速機などを手掛けてきたメーカーも、新製品の投入や生産体制の強化で迎え撃ちます。

 例えば、ドイツのメガサプライヤーであるRobert Bosch(ボッシュ)は、モーターとインバーター、減速機の3つを一体にして小型化した駆動システムを開発し、2019年から量産します。同システムを武器に、10億ユーロ(約1300億円)規模の事業に成長させるとぶち上げました。

 車載インバーターで強みを持つ三菱電機も、HEV向けのモーター/インバーター事業の売上高を2020年に2017年の5倍に引き上げると宣言。その実現に向けた製造設備の増強を始めた。具体的には、約70億円を投じて、姫路製作所広畑工場に新棟を建設し、2018年5月に稼働させます。

■「機電一体」で小型化やコスト削減

 駆動システムにおける主導権争いの競争軸は、高効率化と小型・軽量化、コスト削減などです。これらをモーターやインバーター、減速機といった単体でなく、駆動システム全体で実現しようというメーカーが多いです。

 中でも、モーターと減速機だけでなく、インバーターまでも1つにした「機電一体」化に向けた動きが盛んです。さらに、駆動システムを車体ではなく車輪のホイールに収めた「インホイールモーター」の研究開発も加速しています。実際、「第45回 東京モーターショー2017」(2017年10月27日~11月5日、東京ビッグサイト)では、機電一体型の駆動システムやインホイールモーターの提案が相次ぎました。

(日経エレクトロニクス 根津禎)

[日経エレクトロニクス2017年12月号の記事を再構成]