“普通の人”が100歳以上生きるために必要なこと

参考:日経Gooday 2018/2/23 梅方久仁子=ライター

第2回 要注意!「内臓脂肪」と「腸」の関係が病気の連鎖を招く

 100歳以上の人口が7万人に迫り、今生まれた子供の半数は100歳以上生きられるといいます。人口が減少し超高齢社会に突入した日本では、人生後半の生き方が大きく変わろうとしており、政府も「人生100年時代構想会議」を立ち上げて盛んに議論しています。
 長寿の謎に挑む医学研究の第一人者である、慶應義塾大学医学部教授伊藤裕氏に、臓器間連関、腸内細菌、長寿遺伝子など、鍵を握るトピックについて聞きました。

 

要介護の原因は1位認知症、2位脳卒中

 今、生まれた子供は、その半分が100歳以上生きると予測されています。

 現在、日本人の死因の第1位は「悪性新生物(がん)」であり、第2位は「心疾患(心臓病)」です(平成28年「人口動態統計」より)。第3位は長らく「脳血管疾患(脳卒中)」でしたが、2011年に「肺炎」にとって代わられました。高血圧に効果的な薬が多く開発され、血圧が下がり、脳卒中が減っていったのに対し、寝たきりなどになって肺炎を併発する人が増えたためです。特に最近は「誤嚥性肺炎」が話題になっています。

平成28年「人口動態統計」(厚生労働省)より
平成28年「人口動態統計」(厚生労働省)より

 今後、がんなどの病気の新しい治療法が登場することで、平均寿命は延びていくかもしれません。ですがいくら長生きできても、寝たきりなどの要介護状態になる期間が長ければ、人は幸せだとは言えないのではないでしょうか。

 それでは、寝たきりになる原因は何でしょうか。平成28年「国民生活基礎調査」によると、要介護になった原因は第1位が「認知症」、第2位が「脳血管疾患(脳卒中)」、第3位が「高齢による衰弱」でした。

高齢者が要介護になる原因 平成28年「国民生活基礎調査」(厚生労働省)より
高齢者が要介護になる原因
平成28年「国民生活基礎調査」(厚生労働省)より

 寝たきりの原因となる認知症や脳卒中も、ある日突然、そういう状態になるわけではありません。長い時間をかけて、体の中が変化していく。時間をさかのぼって見れば、認知症や脳卒中の原因の大本の1つは、「生活習慣」に行きつきます。

 これを図式化したのが、前回も紹介した、「メタボリックドミノ」です。メタボリックドミノは、2003年に慶應義塾大学医学部教授の伊藤裕氏が提唱したもので、生活習慣が原因の肥満が、やがて「食後高血糖」「高血圧」「脂質異常」を招き、時間の経過とともにそこからさまざまな病気が連鎖的に起こる様子を表しています。

生活習慣病から連鎖的に危険な病気が起こる「メタボリックドミノ」 日本臨床 2003;61:1837-43をもとに作成
生活習慣病から連鎖的に危険な病気が起こる「メタボリックドミノ」
日本臨床 2003;61:1837-43をもとに作成

慢性疾患は、基本的に完治しない

 いくら体に不調があったり、健康診断の数値が悪かったとしても、生活習慣を改めるのはなかなか難しいです。食事に気を使ったり運動を始めたとしても、すぐに症状が改善するわけではありません。逆に、やらなかったからといって、あっと言う間に悪化するわけでもありません。

 「慢性疾患は基本的には完治しません」と伊藤氏は言います。ですが、早期に生活習慣を改めれば、メタボリックドミノの進行を食い止め、自立して生活できる「健康寿命」を延ばすことも可能なはずです。

 伊藤氏の所属する腎臓内分泌代謝内科では、「患者の体全体に起こっていることを把握する」「生涯に渡って患者と付き合う」ことを心がけているといいます。そうしなれけば、患者に生活態度を改めてもらうことが難しいからです。

 つまり、メタボリックドミノの進行と食い止め、健康寿命を延ばすためには、医療の進歩だけでなく、「医師と患者がどう向き合うか」も重要というわけです。伊藤氏に詳しく聞いていきましょう。

メタボでは臓器と臓器の“間”が問題になる

 伊藤さんが「患者の体全体に起こっていることを把握する」ことを心がけているのは、研究テーマとして「内分泌代謝学」を選んだことも関係しているのでしょうか。

慶應義塾大学医学部教授の伊藤裕氏
慶應義塾大学医学部教授の伊藤裕氏

 伊藤 内分泌代謝は、ホルモンや体の中の化学反応を扱う領域です。さまざまな臓器から分泌されるホルモンは、体の中を巡っていろいろな臓器に影響を与えます。私は「体全体の中で何が起こっているのかを知りたい」という思いがあったので、ホルモンを研究することにしました。

 ただ、私が医師になった当時は、臓器別に専門分野が分かれていて、それぞれの臓器ごとに“権威”がいる時代でした。自分で興味を持って選んだとはいえ、「このままでは特定の臓器の専門家になれない。将来は大丈夫だろうか?」などと悩んだこともあります。

 それが変わったのは、メタボリックシンドローム(いわゆるメタボ)という概念が出てきてからです。

 前回もお話しましたが、メタボという状態では、心臓、脳、腎臓といったいろいろな臓器が同時に悪くなり、しかも臓器同士が複雑に関係しています。私はホルモンをテーマに研究をやってきていたので、自然と「臓器間連関」(臓器の間にある複雑な関係)に取り組むことになりました。

 2005年にメタボリックシンドロームの診断基準ができて、ますますメタボや臓器間連関が注目されるようになりました。その直後の2006年に私は慶應義塾大学病院で腎臓内分泌代謝の教室を担当することになりました。

 腎臓と内分泌(ホルモン)と代謝(糖尿病)を1つの教室が担当するのですが、内分泌と代謝はもともとメタボリックシンドロームの大きな要素ですし、最近ではCKD(慢性腎臓病)が、メタボリックドミノを進行させることが分かってきています。多様な分野の人材が集まって、非常に興味深い研究ができていると思います。

腸は、臓器間連関の中でも特に重要

 臓器間連関で、特に注目していることはありますか?

皮下脂肪は問題ないのに、内臓脂肪はなぜ問題を起こすのか長らく分かっていなかった (c)pejo-123RF
皮下脂肪は問題ないのに、内臓脂肪はなぜ問題を起こすのか長らく分かっていなかった (c)pejo-123RF

 伊藤 さまざまな臓器が互いに影響を与えあっています。例えば、腎臓が悪くなると、心臓が悪くなる患者さんが多い。そうした中で、特に「腸が重要だ」というのが、私たちの主張です。

 皮下脂肪はいくらたまっても問題なけれども、内臓脂肪がたまるとよくない、と以前から言われていました。そして、メタボでは内臓脂肪に炎症が起こることが分かっていました。ただ、なぜ内臓脂肪に炎症が起こるのかは、10年以上誰も答えられませんでした。私たちは、2016年に、それは腸に問題があるという答えを出しました。

 内臓脂肪は、腸のすぐそばにあるのです。悪いものをいろいろ食べて腸が荒れると、その周りにある内臓脂肪が荒れて炎症が起こる。だから、腸は臓器が悪くなっていく流れの中で最上流にあると考えています。

 これは、動物実験では非常にわかりやすい結果が出ています。遺伝的に腸管で炎症が起こらない実験動物を作り、高カロリーの餌をたくさん与えると、ブクブク太って内臓脂肪がいっぱいたまります。ところが、その動物は腸管で炎症が起こらないので、内臓脂肪で炎症が起こらず、メタボの症状が起こりません。

 腸は重要ということですが、「腸内細菌」についても積極的に研究していますね。

 伊藤 実は、ホルモンと腸内細菌はとても良く似ています

 今、腸内細菌がいろいろな病気に関わっていることが分かってきて、非常に注目されています。なぜ腸内細菌がいろいろな病気に関わっているのかというと、腸内細菌が作った物質が私たちの体に吸収されて、いろいろな臓器に影響を与えるからです。腸から血液中に入って全身を巡ったり、腸の周りの神経に作用して信号を脳に伝えたりしています。その作用の仕方は、ほとんどホルモンと同じです

 最近は、ホルモンの作用で人の性格が変わったり人間関係に影響を与えたりすることが分かってきました。腸内細菌も同じようにある種の神経の病気に関わっていることが分かってきています。どの程度の関わりかはまだ分かりませんが、私たちの性格を腸内細菌が決めているのかもしれません。

腸内細菌に長寿のヒントが

 腸内細菌に関しては、かつては「善玉菌を増やすのがよい」などと言われていました。

腸内細菌が重要な役割を担っていることが分かってきた (c)Christos Georghiou-123RF
腸内細菌が重要な役割を担っていることが分かってきた (c)Christos Georghiou-123RF

 伊藤 今は、この菌は善玉で、この菌は悪玉、といった区分けはしていません。それよりも、健康のためには、腸内細菌の種類が多くてバリエーションに富んでいることが、とても重要です。腸内細菌はそれぞれが違った個性を持っているので、種類が多い方が、我々ヒトは得をすることが多いんです。

 例えば、今は肥満がよくないとされるので、私たちを太らせない菌は良い菌だと考えがちです。でも、太らせない菌というのは、私たちが食べた物を自分たちがたくさん使ってしまう菌です。もし食糧事情が悪くなったら、逆に栄養分をとらない菌の方がありがたいと思うかもしれません。

 また、抗生物質を飲んで腸内細菌のバランスが変わることが、病気につながっているのではと考えています。

 20歳までに抗生物質を処方された回数と、糖尿病の発生率が相関関係にあるという報告もあります。また、腸内細菌は免疫システムに影響を与えることが分かっていますが、花粉症が多くなってきたのは抗生物質が登場してからです。抗生物質が腸内細菌を殺したために体質が変わったと考えると、とても腑に落ちます。科学的な証明はこれからですが、関係があるに違いないと思っています。

「長寿遺伝子」の可能性

 伊藤さんは慶應義塾大学医学部の「百寿総合研究センター」の副センター長も兼務しています。長寿について、研究ではどのようなことが分かっているんでしょうか。

 伊藤 体の状態を全体的に眺めようとすると、「老化とはなんだろう」と考えざるを得ません。

 米国マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ博士らは、活性化すると体がどんどん良い状態に変わっていくサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を発見しました。

 メタボリックドミノでは、1つが倒れるとどんどん悪いことが広がっていきます。長寿遺伝子は、1つが活性化すると、逆に良いことがどんどん広がっていきます。起こることは全く逆ですが、広がり方はとても良く似ています。

 ガレンテ博士らの研究で、サーチュイン遺伝子は細胞のエネルギー代謝、特にミトコンドリアの機能を大きく変えることが分かってきました。サーチュイン遺伝子が活性化するとエネルギー代謝が活発になって、そこから良い状態が広がっていくのです。

 私は代謝に興味を持って研究を進めてきたので、エネルギー代謝が長寿に関わっていると聞いて、強い関心を持ちました。そこで、現代米国ワシントン大学と共同でサーチュイン遺伝子に関する研究を行っています。

 ニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)という物質が、サーチュイン遺伝子を活性化することが分かっています。私たちは健康な人にNMNを摂取してもらって、体内でNMNがどう変化するか、また摂取を続けても安全かを調べる臨床研究を行っています。臨床研究は世界初の試みなので、とても注目されています。

“普通の人”が100歳以上生きるために必要なこと

 医療が進歩すれば、私たちも100歳まで生きられますか。

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 伊藤 今、生まれた子供の半数は、100歳まで生きると予測されています。医療が発達すれば、普通の人が100歳くらいまでは生きるようになるでしょう。

 でも、110歳以上は難しいと思います。日本では現在100歳以上の人が7万人に迫っていますが、110歳以上の人は150人くらいです。世界最高齢記録は122歳ということですが、今までの歴史の中で110歳を超えた方は数えるほどです。110歳は人間の寿命の限界だと思います。

 百寿総合研究センターでは、高齢の方、特に100歳以上の方にご協力いただいて、普通の人とどこが違うのかを調べています。

 例えば、便を調べると、普通の人とはだいぶ違います。老年期になると、一般的には、ビフィズス菌が減り、大腸菌が増えていきます。ところが、100歳以上の方の中で、驚くべきことにビフィズス菌がほとんど減っていなくて、大腸菌があまり増えていない方もいるのです

 110歳まで生きた人は、最後は病気になるのではなく、生が尽きるように亡くなります。花を育てていると、病気になって腐るものもあるけれど、最後は枯れてしまいますよね。それと同じです。途中で腐らないように、つまり病気にならないように生き尽くすにはどうしたらいいのか。それが課題です。

 一度でも重大な病気になると、その時は回復しても、どこかに腐った痕跡が残ってしまいます。110歳まで生きようと思ったら、若いときからずっと健康を保っていく、あるいはちょっと病気になりかけてもすぐに戻すということが必要だと思います。

 健康を保ち、健康寿命を延ばす秘訣はなんでしょうか?

 伊藤 生活習慣に気をつけたほうがいいことはみんな分かっていますが、なかなか変えられませんよね。まずやっていただきたいのは、病院に行く習慣を持つことです。

 病院に行くことは、とても重要です。名医にかかるかどうかよりも、ともかく病院に行くかどうかで、はるかに結果が違ってきます。よく一病息災と言いますが、一病あったほうが息災にできるのは、病院に行くからです。無病息災を目指すにしても、定期検診をきちんと受けるようにしましょう。

(図版制作:増田真一、写真:菅野勝男)

 

「百寿社会の展望」シンポジウム

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 今回のインタビューに登場した伊藤裕氏が代表世話人を務めるシンポジウムが開催されます。

会期:2018年3月17日(土)12:50~17:30(開場:12:30)
会場:東京大学伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール

※ご参加には事前参加登録が必要です(参加無料)
※応募者多数の場合は抽選になります

参加申込締切:2018年2月28日(水)正午まで
お申込はこちら

 


 

伊藤 裕(いとう ひろし)さん
慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授
1957年、京都市生まれ。1983年京都大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科博士課程修了。ハーバード大学医学部、スタンフォード大学医学部にて博士研究員、京都大学大学院医学研究科助教授を経て、2006年から現職。現在、日本内分泌学会代表理事。専門は糖尿病血管合併症、高血圧、再生医学、抗加齢医学と多岐にわたり、“内臓のプロフェッショナル”として活躍。メタボリックシンドロームと糖尿病などの生活習慣病、心臓病、慢性腎臓病、脳血管障害の関連を明らかにした「メタボリックドミノ」を世界で初めて提唱する。主な著書は『なんでもホルモン』『臓器の時間』『健康は「内臓さん」で決まる』など多数。