突然死につながる狭心症・心筋梗塞、動脈硬化がなくても油断は禁物

参考:日経Gooday 2018/2/22 田中美香=医療ジャーナリスト

狭心症・心筋梗塞の最新事情【前編】

 がんに次いで、日本人の死因第2位にランクインする心疾患(*1)。その多くを占める狭心症・心筋梗塞は、心臓に栄養を送る血管(冠動脈)が狭くなったり詰まったりして血流が途絶えることで起こる病気です。狭心症・心筋梗塞を招く誘因は何か、突然死という最悪の事態を避けるためにはどう対処すればいいのか、千葉西総合病院(千葉県松戸市)病院長・心臓病センター長の三角和雄氏に聞きました。

 

血管が狭くなる狭心症と、完全に詰まってしまう心筋梗塞

― 狭心症や心筋梗塞がなぜ起こるのか、原因を教えてください。

三角 狭心症・心筋梗塞の多くは、血管が硬くなる動脈硬化をベースに発症します。動脈硬化を引き起こす要因はいくつかありますが、なかでも関係が深いのは、コレステロールです。食生活の欧米化や運動不足などさまざまな要因により、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールが血液中に増え、過剰になると血管の壁にくっついて、血管が硬く、厚くなっていきます。この状態が動脈硬化です(*2)。

 動脈硬化になると、血液の流れが滞ります。4車線の道路に例えると、土砂崩れが起こった時、土砂が押し寄せて4車線が3車線へ、3車線が2車線へと狭くなって車の流れが悪くなるように、心臓に栄養を送る3つの動脈(冠動脈)がコレステロールの蓄積によって詰まりかけ、酸素が足りなくなった状態が狭心症です。さらに動脈硬化が進んで、コレステロールが詰まった「プラーク」というコブが破裂して血栓ができ、冠動脈が完全に詰まって心臓の筋肉が死んでしまうのが心筋梗塞です(図1)。道路に例えると、4車線が土砂で完全に寸断されて、車が通れなくなってしまった状態ですね。

心臓のイラスト原図:(C)Peter Lamb-123rf 画像をクリックして拡大
心臓のイラスト原図:(C)Peter Lamb-123rf 画像をクリックして拡大

 動脈硬化は一種の老化現象で、肌にシミやシワができるように、年をとるにしたがって増加します。特になりやすいのは、コレステロールのバランスが崩れた脂質異常症(*3)の人です。また、糖尿病高血圧喫煙なども動脈硬化の原因となり、狭心症・心筋梗塞の進行を加速させるため、注意しなければなりません。

*1 厚生労働省「2016年人口動態統計」
*2 悪玉のLDLコレステロールが血管にたまると動脈硬化のもとになる。これに対し、血管から悪玉LDLを引き抜く役割を果たすのが善玉のHDLコレステロールで、両者のバランスを保つことが大切だとされる。
*3 脂質異常症:血液中に含まれるコレステロールや中性脂肪などの脂質が一定の基準値を超えている状態のこと。

 

― 狭心症は、どのような時にどのような症状で発症するのでしょうか。

三角 狭心症の症状は、心臓が痛いというより、胸が重くギューッと締めつけられるような圧迫感です。胸とは限らず、歯や首・肩(特に左肩)・背中に響くこともあります。

 狭心症は、運動している時に発作が起きているかどうか、症状が安定しているかどうかなど、状況によっていくつかのタイプに分かれます。最も多いのが「労作性狭心症」で、普段は何ともないのに、体を動かすと発作が起こり、少し休めば治まるのが特徴です。具体的にいえば、早歩きやジョギング、階段や坂道を上がる、電車に乗ろうとして駆け出す、布団の上げ下げや買い物中に重い荷物を持つ、といった状況下で発作が起こります。

 心臓は24時間、常に拍動し、全身に血液を循環させています。安静時はそれほど多くの血流を必要としませんが、運動する時は多くの血液を全身に送らなければなりません。この時、ポンプの役割を果たす心臓自身の筋肉も、より多くの血液を必要とします。ところが、3つの冠動脈のうち1本か2本、時には3本とも狭くなっていると、短時間に大量の血液を供給することができず、心臓が一時的に酸欠状態に陥り、狭心症の発作が起こるのです。

 このほか、安静にしていても起こる「安静時狭心症」、狭心症発作が頻回に起こり、プラークが破裂する一歩手前の状態になっている「不安定狭心症」などがあります(表1)。

表1 狭心症のさまざまなタイプ

労作性狭心症重い物を持つ、階段を上がる、小走りするなど、ちょっとした運動をした時に、心臓に負担がかかって発作が現れる。しばらく安静にすれば治まるのが特徴。一定の条件下で起こるため、安定狭心症とも呼ぶ
安静時狭心症
(冠攣縮性狭心症)
深夜や早朝などの安静時に冠動脈がけいれんし、血管が狭くないのに発作を起こす。ストレス、寒さ、飲酒、喫煙などが誘因とされるが、原因は不明
不安定狭心症血管内のプラークを覆う膜が薄く、破裂しやすい不安定な状態。プラークが破裂して血栓ができると発作を起こし、心筋梗塞に移行することもある

 

― 血圧は冬場に高くなると聞きますが、狭心症や心筋梗塞はどうでしょうか。

三角 一般に、気温が低いと血管は収縮して血圧が上がります。この現象と関連して、狭心症や心筋梗塞の患者さんも、冬になるとおおむね夏の2倍くらいに増加します。例えば、冬場に熱いお風呂から寒い脱衣所へ移動したら、急激な温度差で血管が収縮して血圧が跳ね上がります。血圧が急上昇する現象を「血圧サージ」といいますが、こうなると血管への負担も急増します。ベースに動脈硬化がある人は、もともと狭い血管がさらに狭くなって血流も悪くなり、狭心症の発作へとつながっていきます。

 また、狭心症の発作は月曜日や朝方に多いともいわれます。週末ゆったり過ごしている時は体を休める副交感神経が働くのに、仕事が始まる月曜日になると、血圧や心拍数を上げる交感神経へとスイッチが急に切り替わり、バランスが崩れるからです。ちなみに24時間の時間帯の中では、朝の起床時にも同じことがいえます。

 

カチカチの血管より、ドロドロの血管の方が詰まりやすい

― 狭心症の延長線上に心筋梗塞があるということですが、狭心症が悪化して、血管が狭くなればなるほど心筋梗塞を起こしやすいのでしょうか。

倒れる直前まで心電図は正常だったという人も…。(C)Kladej Voravongsuk-123rf
倒れる直前まで心電図は正常だったという人も…。(C)Kladej Voravongsuk-123rf

三角 意外なことに、そうとは限りません。血管の詰まり具合(狭窄度)が99%の場合と75%の場合を比べると、完全に詰まりやすいのは75%しか詰まっていない場合であるとの報告もあります。狭窄度と心筋梗塞のなりやすさは、実は比例しません

 詰まる物質の性状も大切です。例えば、アスファルトと泥のぬかるみ、この2つの道のうち、歩きにくいのは水分を含んだ泥の道ですよね。同じように、コレステロールでドロドロとした血管は完全に詰まりやすく、反対にカチカチの場合は比較的詰まりにくいというデータもあります(*4)。血管が狭くなるほど心筋梗塞になりやすいとはいえない上、性状によっても異なります。

*4 血管がカチカチになりやすいのは腎臓病で血液透析を受けている患者、喫煙歴が長い人や、脂質異常や高血圧を長年わずらっている人、子どもの頃に川崎病になった人など。カルシウムが血管に沈着して石灰化する傾向がある。

― 心筋梗塞はある日突然起こるイメージがありますが、狭心症を経て発症する割合はどのくらいなのですか。

三角 心筋梗塞のうち、約60%は狭心症を経て発症します。しかし、心房細動などが原因で心臓に血液の塊が存在していると、それが急に詰まって、突然、心筋梗塞になることもあります。また、倒れる直前まで心電図が正常だった人も多く、心電図が正常なら冠動脈が正常とはいえないのが予防の難しいところです。例えば、2カ月前の健康診断で心電図が正常だった人が、10日前から胸の痛みなどの症状が出るようになり、心筋梗塞で運ばれた時には冠動脈が3本とも詰まりかけていて、うち2本は深刻な状態だった…というケースもあります。

 心電図や心エコー検査だけで狭心症や心筋梗塞を見つけることは困難です。そこで有効なのが心臓CT(冠動脈CT)です。これは、心臓を360度の方向からX線で撮影するCT検査で、得られた画像を3次元に合成し、冠動脈の狭窄や詰まり具合を詳しく把握することができます。高精度の心臓CTを導入している病院はまだ多くないのですが、もし、動脈硬化が心配で心臓ドックを受けようと思ったら、心臓CT検査の有無に注意して施設を選ぶといいでしょう。

 

みぞおちが痛くなってm胃潰瘍と間違えることも

― 胸が重苦しくなっても、少し休んで治まる程度なら受診するかどうか迷います。受診するタイミングはどのように判断すればいいでしょうか。

三角 着目すべきは、発作の頻度や長さです。以前は2分で治まったのが5分続くようになった、階段を3階まで上がると苦しくなっていたのが2階あたりで苦しくなってきた、月1回だった発作が週1回に増えたなど、発作が頻回になり、症状が重く長くなったら、「不安定狭心症」である可能性が高く、できるだけ早く受診してください。病院では表2のような検査が行われます。

表2 狭心症・心筋梗塞が疑われる時に行う検査の例

心電図
  • 安静時心電図検査…健康診断でも行う基本的な検査。横たわって手足・胸部に電極をつけて心臓の電気的な活動の様子を測定する。不整脈などの病気を拾い上げる上では有効だが、狭心症・心筋梗塞の早期発見は難しい
    ※安静時心電図検査で分からない場合や、緊急時ではない場合は以下の検査を行う
  • ホルター心電図検査…胸部に電極をつけ、小型の記録計を身につけて24時間計測する
  • 運動負荷心電図検査…ランニングマシンや自転車エルゴメーター、踏み台などで運動した時の心電図を計測する
心臓CT検査
(冠動脈CT検査)
心臓にX線を360度の方向から照射して撮影し、3次元画像に合成する検査。冠動脈の狭窄や詰まり具合を詳しく把握することができ、局所麻酔をかけて行う心臓カテーテル検査より患者の負担が少ない
心臓カテーテル検査手足の血管からカテーテルを挿入し、冠動脈に造影剤を注入してX線で撮影する。冠動脈の狭窄や詰まり具合を詳しく把握でき、治療方法を決める上で役立つが、患者の負担は大きい。緊急時はそのまま治療することもある
その他胸部X線検査、心エコー検査、血液検査(心筋マーカー)など

 初めて発作が起きた時も注意が必要です。何の症状もなかった人が発作を起こしたら、まずはその時点で受診するべきです。新たに発症した狭心症も「不安定狭心症」の一つと考えられ、一番危険な状態だからです(表1)。年のせいだろう、少し休めば良くなるから大丈夫、と自己判断してはなりません。症状が出た時には血管の70%以上が詰まっていることが多いので、「あの時、病院に行っておけば…」と後悔する前に受診しましょう。

 また、典型的な症状だけにとらわれないことも大切です。糖尿病の合併症で神経障害がある人は、神経が鈍く痛みを感じにくいため、頭がぼーっとする、疲れやすい、少し歩いただけで息が上がる、という程度の症状しか出ないこともあります。高齢者も同じで、食欲不振を訴える高齢者の心電図をとってみたら、心筋梗塞だと判明した例があります。また、みぞおちがキューッと痛くなって、胃潰瘍など消化器の病気と間違えることだってあるのです。狭心症や心筋梗塞にはさまざまな症状があることを知ってほしいと思います。

※後編(「狭心症と心筋梗塞の最新治療、負担少ないカテーテル治療が大きく進化」)では、狭心症・心筋梗塞の治療の最新事情を解説します。

 

三角 和雄(みすみ かずお)さん
社会医療法人社団木下会 千葉西総合病院 病院長・心臓病センター長/東京医科歯科大学特命教授
1982年東京医科歯科大学医学部医学科卒業後、1985年に渡米し、ニューヨーク医科大学、カリフォルニア大学、ピッツバーグ大学、UCLA グッド・サマリタン病院などを経てハワイ大学臨床助教授。1998年千葉西総合病院心臓病センター長、2000年に同院副院長に就任、2004年より現職。狭心症や心筋梗塞のカテーテル治療において日本最多の実績を持ち、特に高い技術が求められるロータブレーターによるカテーテル治療も世界トップクラス。

 

編集協力:ソーシャライズ
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