体も思考もすっきり 悩み事があるなら走ろう

参考:日本経済新聞電子版 2018/3/1

 県庁職員として15年間働き、さまざまな部署を経験しました。その中でも県が主催する全国的なイベント事務局にいた当時の上司が印象に残っています。仕事には厳しいですがどんな時でも部下を思いやり、器が大きい人。後ろ姿で仕事を極める楽しさを教えてくれました。海外の大会出場で長期休暇を取ることにちゅうちょしていると、「めったにできない経験なのだから」と理解を示してくれ、いつも感謝の気持ちでいっぱいでした。

 この部署は連日困難な問題が生じみんな多忙で疲れ切っていました。職場にもよく重い空気が漂っていました。ある日、とりわけ大きな問題でみんなが頭を悩ませていると、昼休みにその上司はおもむろに「走ってくる。こんな時こそ走らなければだめなんだよ! カブちゃんも行くぞ」と告げ、飛び出していきました。

■ランニング中は脳の血流が改善

 みんながあっけにとられました。それでも帰ってきた上司はランニング中に起死回生の打開策を思いついたらしくすがすがしい顔です。

 ランニング中は前頭前野とよばれる思考や創造をつかさどる脳の最高中枢部分の血流が良くなり、思考が活性化するといいます。だとすると、高いレベルでビジョンを模索したり決断したりする企業経営者や政治家、創造性豊かで高度な思考を伴う文筆家や研究者といった人々にランニング好きが多いのも納得がいきます。

阿蘇の外輪山を走るクリックで画像の拡大
阿蘇の外輪山を走る
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 自分もランニング中に懸案事項を解決したことがたびたびあります。公務員を辞めプロトレイルランナーになるという大きな決断をしたのは紅葉に染まる秋の山でのこと。阿蘇山の外輪山を走っていた時には、アキレスけんをひどく痛め選手生命が絶たれかねない状況で悩み苦しんでいました。走っているうちに「それならできる範囲でやればいいではないか」と心を整理できました。

 決して順風満帆とは言えませんが、50歳近くになる現在まで競技者として心を平静に保てるのは、ランニングを通して困難を乗り越えるすべを見いだせたからだと思います。

 選手のかたわら日本トレイルランナーズ協会のトップとして普及に努めています。多くの人々の意見を集約し、新しいスポーツを社会に認めてもらおうと試行錯誤していると、時には大きなストレスを感じます。それもいざ駆け出すと気分も軽く晴れやかになります。

 走ることはタイム更新により自己達成感を得ること、ダイエットや循環器官の機能を高めて体を整えること、などが一般的に注目されます。さらに、精神状態を整え、困難な状況を打開する鍵も隠されているのを知ってほしいです。ビジネスマンも重責ある立場になるほど時間は限られるでしょう。それでもランニングによる心身のリセットから得られるものは大きいです。時間に追われストレスがかかりがちな現代だからこそ、ランニングがあなたの人生の大切なパートナーになるはずです。

(プロトレイルランナー 鏑木毅)