感染症:猫にかまれて失明、原因はPasteurella菌

参考:m3.com編集部 2018年3月5日(月)配信

猫にかまれて失明、原因はPasteurella菌【研修最前線】

自治医科大学附属さいたま医療センター 2018年

 

 猫にかまれたことで、発熱、右手腫脹に加え、左眼の視力消失で救急搬入されてきた70歳代前半の男性。自治医科大学ジュニアレジデント2年目の木村あずさ氏らはこの症例を、Pasteurella multocida感染に起因した網膜動脈閉塞症と診断しました。Bartonella henselae感染による猫ひっかき病は比較的認知されていますが、Pasteurella multocidaとはどんな菌なのでしょうか。m3.com研修最前線、自治医科大学付属さいたま医療センター「総合回診」シリーズ第39弾の2回目は、失明を招いたPasteurella multocida感染症について解説します。

免疫機能が低下していると死亡することも

木村あずさ氏 本症例が感染したPasteurella multocida図1)について説明します。グラム陰性の球桿菌であり、ペット動物の呼吸器や消化器に常在する細菌です。

図1.Pasteurella multocida

 航空咽頭内の常在率は猫の場合で70-90%、犬では50-60%とされています。

 犬や猫にかまれてPasteurella multocidaに感染すると、早ければ数時間で受傷部位に腫脹が出現し、疼痛や発熱を伴うことになります。近傍のリンパ節の主張を認めることもあります。

 受傷部位の炎症は皮下組織まで広がりますが、これを「蜂窩織炎」と呼びます。受傷部位が関節に近ければ、関節炎を起こすこともあり、骨に達するような傷であれば、骨髄炎を起こすこともあります。

 犬や猫にかまれなくても、ペットとの接触でPasteurella multocidaを経気道的に吸入することにより、肺炎や気管支炎、副鼻腔炎を発症する場合もあります。

 免疫機能が低下症例のPasteurella multocidaへの感染は重症化しやすく、敗血症や骨髄炎のために死亡する場合もあります。気管支拡張症患者や、コントロール不良の糖尿病患者、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者、悪性腫瘍患者らは特に注意を要します。

感染後は早期の抗菌薬投与を

 治療は早期に抗菌薬の投与を開始することが重要となります。ペニシリン系、テトラサイクリン系、セファロスポリン系、クロラムフェニコールなどが有効です。ただし、まれにペニシリン系に対する耐性株も存在するようです。

 ペットにかまれた場合だけでなく、元々傷のある皮膚や粘膜表面をなめられた場合や経気道的にも感染は成立します。高齢者や重篤な基礎疾患のある人は、髄膜炎や腹膜炎、骨髄炎、敗血症性関節炎、心内膜炎、敗血症性ショックなどを呈するリスクが高くなりますが、本症例のような健常人でも発症する場合もあります。

 図2に本症例の咬傷後に発症した蜂窩織炎を示します。咬傷部位と周囲の発赤・腫脹を確認できます。

図2.猫咬傷後の蜂窩織炎

起因菌を検出できないケースも多い

 本症例はPasteurella multocida感染に伴う敗血症性塞栓症および網膜動脈閉塞症と診断しました。敗血症性塞栓症は、敗血症に伴う菌塊が塞栓子となって末梢動脈に塞栓を来す疾患で、敗血症性肺塞栓症が最も知られています。

 敗血症性塞栓症は、感染性心内膜炎や感染性静脈炎、カテーテル、心臓ペースメーカーなどが原因として知られますが、その他にも麻薬常習者の薬物注射や、扁桃炎などの頭頸部領域の感染症から内頸静脈に血栓性静脈炎を来すレミエール症候群などでも発症することがあります。

 敗血症は、あらゆる種類の微生物によって引き起こされ得る生体反応ですが、血液培養で細菌、真菌が分離される確率は、重症敗血症で20-40%、敗血症性ショックでも40-70%にすぎません。このため、臨床的には重症敗血症、敗血症性ショックと診断されても、細菌学的には陰性となる症例も少なくありません。本症例も静脈血培養では起因菌を検出できませんでした。

敗血症性塞栓症発生のメカニズム

 さて、敗血症ではなぜ、凝固因子が活性化されるのでしょうか。

 組織の食細胞が微生物を感知すると、さまざまな生体分子が発生、遊離しますが、この生体分子が感染部位の血流増加や局所血管の透過性亢進、感染部位への好中球誘導、痛みの誘発に関与します。このようにしてできる血管内血栓症は、侵入微生物を囲い込んで、感染や炎症が他の組織に拡散するのを防ぐものであり、局所性あるいは全身性の感染に対する生体反応の「証」でもあります。

 生体内では、インターロイキン(IL)-1や腫瘍壊死因子(TNF)-αなど多様なサイトカインがさまざまな役割を担っていますが、このうち凝固系に関与するのはIL-6です。

 IL-6は、単球と血管内皮細胞に組織因子を発現させ、血管内凝固を促進します。その結果、外因性および内因性の凝固経路の活性化を介して、フィブリンを形成します。敗血症に合併する播種性血管内凝固症候群(DIC)の特徴として、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター(PAI)-1の血漿濃度上昇によって線溶系が抑制されることが挙げられますが、IL-6が発現することによって、このようなメカニズムで血管内フィブリン沈着、血栓形成、出血を起こしていくことにもなります。

敗血症患者の眼症状に着目すべき

 本症例のように敗血症から失明した例をPubmedで検索してみました。私たちが調べた限りでは(1)肺炎桿菌による敗血症性塞栓症により引き起こされた分岐網膜動脈塞栓症、(2)化膿性肝膿瘍に関連した眼内炎――という2つの報告を認めるのみでした。

 いずれも原因菌はKlebsiella pneumoniaeであり、Klebsiella pneumoniaeによる眼症状は知られているようですが、今回の起因菌であるPasteurella multocidaについての報告は見つかりませんでした。しかし、敗血症または菌血症の状態であれば、どんな病原菌であっても塞栓症が引き起こされる可能性はあると思われます。

 敗血症や菌血症の患者が眼症状を訴えた場合には、内因性眼内炎や本症例のような網膜動脈閉塞症を考慮する必要があると考えられました。(続く)

※「総合回診」とは:自治医科大学付属さいたま医療センターの初期研修医が行う週1回の症例検討会。文字通りの「回診」ではなく学会スタイルで、研修医が準備したスライドを基に同センターで経験した症例報告を受け、検討を加えていく。毎回、最前列に座る実習生(主に自治医科大医学部4年生)に向けたレクチャーと質問を取り入れるのも特徴。上級医も多く参加し、活発な議論を展開する。