転ばぬ先のフレイル予防…体操で筋力維持、介護費抑制

参考:読売新聞  2019.11.25
 

 年齢を重ねて心身が弱るフレイルの予防や回復に取り組むことは、本人や家族の生活の質を高めるだけでなく、介護費用の伸びを抑える効果も期待されています。課題はフレイルの兆しに気付かない人が多いことで、早期の対策には、一人一人の意識改革が欠かせません。(社会保障部 大広悠子、小野健太郎)

 

 ◆「兆候なし」に

 「……68、69、70。さあ、心拍数を測りましょう」

 今月上旬、愛知県大府市の文化施設では、そろいのポロシャツを着込んだ70~80歳代を中心とする約30人が、ももを上げる動作を70回こなし、脈を数え始めました。

 このグループは、2011年から国立長寿医療研究センターが行っているフレイル調査に協力した高齢者らが、「せっかく学んだのだから、体力の維持や向上に役立てたい」と、自主的に体操をするようになったのをきっかけに結成されました。

 メンバーの女性(73)は、65歳の時に「筋力が落ち、フレイルの兆しがみえる(プレフレイル)」と判定されました。「転びやすくなった」と感じていたが、結果に驚き、対策を始めました。「運動するようになり、階段もスムーズに上り下りできるようになった」といい、判定は「兆候なし」になりました。

 フレイルは、適切な運動や食事の改善によって、回復することが多いとされています。厚生労働省は対策を強化するため、市町村などで別々に行われていた介護予防と、高齢者の健康作りの事業を一体的に行う取り組みを来年度から本格化させていきます。

 ◆地域全体で

 フレイル対策などに取り組むことで、介護費用の伸びを抑制している自治体もあります。

 大阪府大東市は05年から、筋力維持を目的とした「大東元気でまっせ体操」を実施。立った状態でも、椅子に座ったままでも筋力を鍛えることができる体操が広まったことで、フレイル改善や介護予防につながったといいます。介護サービスの費用は、何も対策を講じなかった場合と比較して、18年度までの3年間で約7億円の削減効果があったと分析しています。

 神奈川県大和市は13年度から、低栄養予防のための訪問指導を開始しました。18年度には、管理栄養士だけで構成する「地域栄養ケア推進担当」を設置。介護給付費を18年度に約6760万円削減する効果があったと試算しています。

 三菱総合研究所の松下知己主席研究員は「フレイル対策で介護が必要な状態になる年齢を遅らせることができれば、本人や家族の生活の質を高めることは間違いない。対策を地域全体に根付かせることで、結果的に介護給付費の抑制にもつながる」と指摘しています。

 ◆衰え自覚前に

 ただ、フレイルになりかけているのに、そうとは気付かずに生活している高齢者も多くいます。国立長寿医療研究センターのフレイル調査でも、参加した高齢者約1万4100人の初回調査では、フレイルが約10%。プレフレイルが約52%、兆候なしが約38%でした。

 フレイル対策は早いほど、効果が出やすい特徴があります。自身の衰えをはっきり自覚しないうちから予防を意識する必要があり、同センターの荒井秀典理事長は「遅くとも50歳になったら、運動や食事の習慣を見直してほしい」と強調しています。

 対策のポイント

 ▽たんぱく質を多く含む肉や魚などを食べる

 ▽スクワットなど筋力を高める運動をする

 ▽普段から階段を使ったり、坂道を歩いたりする

 ▽歯科で口の働きの衰えをチェックする

食事 みんなと肉や魚/趣味で気持ちに張り

 フレイルは加齢など複数の原因が重なって起きます。75歳から急に増え始めます。

 国内外の近年の研究で分かってきたのは、筋肉を作るのに不可欠なたんぱく質の摂取量が少ないと、フレイルになる可能性が高いということです。食材の種類の偏りも一因となります。

 民間調査によると、75歳以上の8割近くは、小食が大切だと考えています。一人で食べると気持ちが沈み、食欲も落ちやすくなります。食べる量が減り、栄養状態が悪化すると、筋肉量は低下します。

 硬いものをかみづらい、むせることが増えた、といった口の働きの衰えも、栄養摂取に悪影響を及ぼします。東京大の田中友規特任研究員(老年医学)らが65歳以上を対象に、4年後に要介護になる可能性を分析したところ、口の働きが衰えてきた人は正常な人の2倍強でした。

 対策として、たんぱく質を含む肉や魚などを積極的に取り、野菜や果物などもまんべんなく食べるようにする。口の衰えをチェックできる歯科健診を受けるのも良いでしょう。

 運動習慣がない人ほど、フレイルになりやすいことも分かってきました。改善するには、スクワットや片足立ちなど、筋肉やバランス能力を鍛える運動が有効とされます。普段から意識して坂道や階段を選んで上ることも大切です。

 糖尿病や腎臓病を患う人や、使う薬の種類が多い人も、フレイルの危険性が高まるので注意が必要です。

 高齢者は社会とのつながりが薄れがちです。趣味や地域の活動に参加し、交流を図ることも、気持ちに張りが出て、フレイルの予防・改善に効果があります。

 杏林大の神崎恒一教授(老年医学)は「家族や友人と食事や運動をするのが望ましい。地域活動を通じて仲間を見つけるのも良い。誰かと一緒だと食べるのが楽しくなり、運動も長続きする」と助言しています。(医療部 米山粛彦)