食いしばり癖が強い人や片噛みをする人は要注意!|アゴと頭蓋骨の危険な関係

参考:サライ.jp 2019.6.28

食いしばり癖が強い人や片噛みをする人は要注意!|アゴと頭蓋骨の危険な関係

文/藤原邦康

 

 

前回、睡眠サイクルを正常に保つサーカディアン(概日)リズムについて触れました。概日リズムをつかさどるのは「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という神経の中枢です。

整顎の観点から筆者は、

この視交叉上核が位置するポジションと蝶形骨(ちょうけいこつ)という骨の位置関係に注目しています。

 

食いしばり癖が強い人や利きアゴで片噛み(偏咀嚼)をする人は、要注意!

 

ここで解剖学を少し解説しましょう。眼球に繋がって視覚情報を脳に送る視神経は、目の奥の方で左右にクロスしています。この交差点を「視交叉(しこうさ)」と呼びます。「視交叉上核」は、文字通り視交叉の上に位置する神経の核というわけです。

視交叉は頭蓋骨の一部、蝶形骨の上を通っていますが、蝶形骨の下には「内側翼突筋(ないそくよくとつきん)」、そして、蝶形骨の後ろには「外側翼突筋(がいそくよくとつきん)」という2種類の咀嚼筋が付着しています。これらの筋肉が「悪さ」をすると、視交叉上核の機能を妨げ睡眠のリズムが狂ってきます。

前者の内側翼突筋は、頬の内側、奥歯の脇に位置し、口を閉じるときに他の閉口筋と共に収縮します。顔の正面から見ると、鼻の奥から下アゴのエラの辺りに口の中で左右一対の内側翼突筋が「ハ」の字に繋がっている構図です。食いしばり癖が強い人や利きアゴで片噛み(偏咀嚼)をする人は、左右一方に偏った強い緊張がかかっています。

例えば、左の頬の内側にできた口内炎を避けるため、右側で噛んでいるというケースを想定してみましょう。むろん、たった1日や2日、片噛みをしたとしても大した問題ではありません。でも、この口内炎がきっかけになって無意識につい右ばかりで噛む癖が生まれることがあります。毎日2,000回以上と言われる咀嚼運動の左右の偏りが積もり積もっていくと、ボディーブローのように顎関節に悪影響を与えていきます。右ばかりで噛み続けると右の内側翼突筋が徐々に拘縮していき、「ハ」の字に沿って蝶形骨を右斜め下に傾けるベクトルが強くかかってきます。

 

右の内側翼突筋の緊張が強いと蝶形骨(薄ピンク)を右下に傾けるベクトルが働く。

 

後者の外側翼突筋は口を開くときに働く筋肉です。本来、外側翼突筋が収縮すると、蝶形骨の後ろに位置する下顎頭を前方に引き出す働きをします。下顎頭は閉口時には側頭骨の「下顎窩(かがくか)」というくぼみに収まってロックがかかっています。口を開こうとすると、外側翼突筋の張力によってアゴのロックが解除され、顎関節が回転運動をするしくみになっています。

 

この外側翼突筋は、頭の内部を俯瞰で見たときに前後方向に「ハ」の字の構図になっています。蝶形骨から顎関節の「下顎頭(かがくとう)」という部位にちょうど馬の手綱のように繋がっています。

外側翼突筋は蝶形骨(ピンク)と下顎頭を前後方向に繋いでいる。

 

さて、医学の世界では、蝶形骨は翼突筋の「起始点(きしてん)」と呼ばれています。起始点は動かないポイントで支点のように働く部位です。
一方、てこの原理で作用点の役割をするのが「停止点(ていしてん)」と呼ばれる骨だと定義されています。翼突筋では、起始点である蝶形骨は不動のポジションで、停止点である下顎骨のみが開閉口の際に動くことになっています。つまり、蝶形骨はアンカーポイントであり、要石のように動かないという前提です。これが人体解剖に基づく見解であり西洋医学的な「常識」です。私もカイロプラクティック留学中に人体解剖実習を数年に渡って受けましたが、確かに検体(ご遺体)の頭蓋骨は骨化し石灰化しており、動いたりずれたりするようには到底思えません。ところが、生きている人間の頭蓋骨の場合は柔軟性があり、また蝶形骨を含めた頭の各パーツ間に適度な遊びがあるのです。材木でできた電柱と風にそよぐ生きた樹木との対比になぞらえられますが、亡くなった直後の検体では蝶形骨には段ボール紙ほどの柔軟性があることが報告されています。

 

頭蓋骨の断面(水平面)の俯瞰画像。ピンク色が蝶形骨。円内に視交叉(上核)が位置する。右の外側翼突筋の緊張が強いと蝶形骨に時計回りのベクトルが働く。

片方ばかり強く噛んでいれば、頭蓋骨にも徐々に力学的なひずみが生じてくる

 

もし、今までの医学の常識に逆らって、要石とされている蝶形骨が動くとしたらどんな結果が待っているでしょう? 蝶形骨にわずかな動きやずれが認められるのではないかという推論のもと、片噛みに話を戻しましょう。片方ばかり強く噛んでいれば、毎日の口の開け閉めによる反復運動によって左右一方の翼突筋の過緊張が蓄積してきます。左右の下顎頭から蝶形骨につながる外側翼突筋は、まるで両手から馬の轡(くつわ)に伸びる手綱のように働きます。例えば、右の外側翼突筋に慢性的な過緊張が起きれば、右手の手綱で蝶形骨を常に右に引いて右ターンさせるのと同様の状態が生じます。また、先述のとおり、内側翼突筋の偏った緊張は蝶形骨に「傾き」を生じさせます。

さらに、蝶形骨には14の頭蓋骨ピースが隣接して周囲を取り囲んでいます。頭の中央に位置する蝶形骨を中心に、各パーツがまるで大陸移動のように徐々に位置関係をシフトさせてくるのです。頭蓋骨にも徐々に力学的なひずみが生じてきます。

実際、脳スキャンなどで頭部の画像検診を受けると頭が左右にいびつに歪んでいたり、鼻中隔の変形が認められたりするのは以前にお話ししたとおり、紛れもない事実です。

「蝶形骨がちょっと歪んだからと言ってもどうってことはない」とお思いかもしれませんが、脳腫瘍や血腫などの頭蓋内占拠性病変(せんきょせいびょうへん)であれば、わずか数mmサイズであっても深刻に扱われます。概日リズムをコントロールしている視交叉上核は約1mm極小サイズに4万5000個の神経細胞が収まっている神経核です。そんなデリケート組織が収まっている蝶形骨の変位を軽視して良いとは思えません。

文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。