過剰なアレルゲン除去指導をどう防ぐ? 乳児の食物アレルギー

参考:2016/3/23 加納亜子=日経メディカル

近年、食物アレルギーの発症者数は増加傾向にあり、その多くが乳児期にアトピー性皮膚炎を伴った形で発症します。非専門医であっても乳児期に食物アレルギーが疑われた患児の保護者から、離乳食を始める時にどうすればよいか相談を受けるケースは少なくありません。必要最小限の除去指導を行うための食物アレルギー診断と保護者への指導のコツをまとめました。 「検査結果だけで食物アレルギーと診断すべきではない」と強調する国立病院機構相模原病院臨床研究センター病因・病態研究室長の佐藤さくら氏。  食物アレルギーの診断をする上で、特異的IgE抗体検査は今では欠かせないツールになっています。湿疹を繰り返し、食物アレルギーが疑われる患児が来院したら、まず特異的IgE抗体検査を実施する医師は多いです。  しかし、「食物アレルギーはあくまでアレルゲンの摂取後に症状が現れて初めて診断ができる。特異的IgE抗体検査の結果だけで食物アレルギーと診断すべきではない」と指摘するのは国立病院機構相模原病院臨床研究センター病因・病態研究室長の佐藤さくら氏だ。「皮膚症状が続くからといって最初から検査をして除去指導をするのではなく、必要に応じてステロイド軟膏などを用いたスキンケアにより皮膚症状を改善し、それでも症状が継続・再燃するのであれば、そこで初めて食物アレルギーの関与を考えてほしい」と同氏は強調します。  特異的IgE抗体検査はあくまで診断の補助となる検査です。検査の結果、値が高いからといって症状が発現するとは限りません。アレルゲンを含む食品の摂取後に症状が発現するかどうかを確認せず、特異的IgE抗体検査の値が高いことだけを理由に除去指導をしてしまえば、結果的に不必要な除去指導になりかねません。過剰な除去食を続けることで、患児の成長発達を妨げてしまう恐れもあります。「一番困るのは除去指導をしてそのまま放置されているケース。特に乳幼児の場合、何もせずにただ1~2年除去を継続するだけといった指導はしないでほしい」と佐藤氏は言います。 まずは皮膚症状のコントロールから  『食物アレルギー診療ガイドライン2012』や『食物アレルギーの診療の手引き2014』でも、スキンケア指導を実施しても症状が改善しなかったり、薬物療法を止めると症状が再燃する際に初めて血液一般検査を行うよう記載されている(図1)。 FAST PIC 図1 食物アレルギー診断のフローチャート(食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎)  治療管理の基本は「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」です。必要最小限の除去とは、食べると症状が誘発される食物だけを除去し、症状が誘発されない程度の“食べられる範囲”までは積極的に食べるように指導することと両指針で定義されています。  しかし実際にはアナフィラキシーをはじめとするアレルギー症状発現リスクへの懸念から、「必要最小限」の除去指導はなかなか広がっていません。  特に1歳半までのIgE抗体検査値は変動しやすいことが知られています。哺乳期に食物アレルギーが疑われた患児が成長し、いざ離乳食を食べ始める頃になってから「何を食べさせてよいか」と保護者に尋ねられた際に、答えに窮するケースも少なくありません。  食物アレルギー症状の確認と食べられる範囲で食べさせるという2つのポイントを兼ねた取り組みを実践しているのが、長年アレルギー診療に携わってきた経験を持つ長後中央医院(神奈川県藤沢市)院長の鈴木誠氏です。同氏は自身の取り組みを「スキンケアの方法などを説明して皮膚状態をコントロールした上で、離乳食の中に少しずつアレルゲンとなる食物を混ぜて摂取させながら症状が出るかを評価する方法」と説明します。 離乳食開始時には抗原量を考慮した指導を  同院での指導は、離乳食開始時(6カ月頃)から始めることを原則としています。例えば、湿疹はスキンケアにより改善するが、卵の摂取後に症状が再燃する患児では、離乳食を作るときに1日のうちいずれか1回の食事に卵ボーロ1粒の5分の1量を溶かして与え、それを月曜から金曜まで続けて症状が現れるかを確認します。「卵ボーロ1個に含まれる抗原量はタンパク量換算で数mg程度。その5分の1量から始めることになるため、摂取する抗原量としては少ない。万が一症状が現れても、重篤にはならないタンパク量だ」と言います。原因食物として牛乳が疑われる場合は卵ボーロを使う他、ヨーグルト1滴を用いるケースもあります。小麦の場合は冷凍うどん約1gから始めているといいます。食物経口負荷試験に用いる抗原量よりも大幅に少ない量から始めるのがカギとなります。   症状が出なければ摂取量を徐々に増やし、逆に症状が出た場合はその再現性を確認するため、1日あけてから再び同量摂取してもらいます(表1)。体調不良や口の周りに付着した唾液や食べ物によって肌荒れしてしまったなど、他の要因が影響して症状が現れた可能性があるからです。その際は「できるだけ口の周りに付かないよう食べさせてもらい、食べた後に症状が現れることを最低2回は保護者に確認してもらう。症状が現れた場合には来院してもらうよう伝えている」と鈴木氏。症状が現れた時点で特異的IgE抗体検査を実施し、食物アレルギーと診断。その後は半年ごとに検査を実施し、検査結果がどう推移するかを確認しているといいます。 FAST PIC 表1 局所症状が現れた際の対応として保護者に渡す資料(提供:鈴木氏) 強い症状が現れた際や弱い症状が2回確認された場合は中止。1度弱い症状が現れた場合には再現性が得られるかを確認するため、中1日以上開けて再度同じ量のアレルゲンを摂取するよう指導しています。  鈴木氏は、1歳頃までに卵は硬ゆで卵半分程度、牛乳は25~100mL、小麦はうどん50~100g程度を食べられるようにすることを最初の目標としています。原因食物が卵であれば、2カ月ほどかけて卵ボーロ数十粒が問題なく摂取できるようにし、次に全卵1つを使って作ったパンケーキを32等分にして1切れずつ食べさせ、それでも症状が現れなければ、その翌週から摂取量をパンケーキの16分の1と増やしていきます。  この方法を進めていく上で大切なのは、万が一症状が現れたときに備え、保護者には念を入れて対処法を指導しておくことです。「発熱がある場合や体調が悪い日には摂取を避けるように伝える。症状が現れたときにできるだけ速やかに医療機関を受診できるよう、医療機関が開いている午前中に食べさせ、その後2時間は必ず様子を見るようにも指導している。また、保護者にはアナフィラキシー症状の重症度・緊急度別の対処法を細かく説明し、症状が出た場合は急いで受診するよう伝えている」と鈴木氏。念のため、離乳食を終えて通常通りアレルゲンが含まれるものを摂取できるようになってからも経過を追っているといいます。  ただし、この方法を実施するのは症状が軽かったり、検査の結果で症状の発症頻度が低いと考えられる例です。卵であれば特異的IgE抗体検査の結果がクラス3以上、もしくはそれよりも低い場合でも現れた症状が局所の皮疹で済まない場合、小麦や牛乳の摂取後に症状が現れたときには「摂取できる量を確認する目的で専門医による経口負荷試験の実施を勧めるとよい」と鈴木氏は言います。  「安全性を担保しつつ的確な診断をするために重要なのは症状が現れたときの対処法の説明と、発熱があるときには摂取を避けるなどの保護者とのルール作りだ」と鈴木氏は念を押します。同氏は初診患者には30分掛けてしっかりと説明し、視覚的に覚えてもらう目的でアナフィラキシー症状の段階が示された資料などを必ず渡しています。「日常診療の中で説明に掛ける時間を長く設けるのは困難だが、保護者に理解してもらえるよう根気よく繰り返し伝えることが大切。除去を必要最小限にし、安全に摂取をさせていく上で欠かせない」と鈴木氏は話しています。 経過を見るには同一の特異的IgE抗体検査法で  特異的IgE抗体検査の値を用いて、症状の発症頻度を考える際に、注意すべきポイントは2つ。1つは異なる特異的IgE抗体検査法を用いて検査を実施していないかを確認することです。もう1つは特異的IgE抗体検査で得られた値から症状誘発の確率を判断する際に用いる「プロバビリティーカーブ」はあくまで参考値であると認識しておくことです。  現在、特異的IgE抗体検査で主に用いられている検査法は5つ(イムノキャップ、アラスタット3gAllergy、オリトンIgE「ケミファ」、マストイムノシステムズIII、Viewアレルギー)。このうち、『食物アレルギー診療ガイドライン2012』や、『食物アレルギーの診断の手引き2014』でプロバビリティーカーブが示されているのはイムノキャップのみ。ガイドラインのプロバビリティーカーブを参考に症状の発症頻度を推定するには、イムノキャップによる検査結果を使う必要があります。  検査法によって結果の数値は大きく変わるため、実施した検査と同一の検査法で作成されたプロバビリティーカーブでなければ症状発現の頻度を見誤る可能性があるからです。「どの検査法が使われたかを気にせず、数値のみで評価してしまうと本来の症状発現頻度とは異なる結果になってしまう。特に継時的に変化を見る際は同一の検査法で得られた数値かどうかを必ず確認してほしい」と佐藤氏は言います。 FAST PIC 図A イムノキャプによるIgE抗体価を用いた卵白(左)と牛乳(右)のプロバビリティーカーブ (出典:厚生労働科学研究班による『食物アレルギーの診療の手引き2014』) データの元となった集団の選択バイアスの考慮を  検査結果から症状発現の確率を適切に判断するには、どのプロバビリティーカーブを選ぶかも重要なポイントになります。抗原や患児の年齢によりカーブの形は異なるからです(図A)。抗原特異的IgE抗体値が3UA/mLだった場合で比較しても、卵白の抗体価(1歳児)では約70%ですが、牛乳(1歳児)では約50%になります。  さらに、「ガイドラインで示されているプロバビリティーカーブを作成する元となった患者集団には、即時型のアレルギー反応を生じた経験のある患者が多く含まれている。プロバビリティーカーブは患者集団や負荷量などにより結果が異なるため、日常診療に利用する場合にはデータの背景因子を踏まえて評価しなければならない」と佐藤氏は言います。  例えば、患者の卵白の抗原特異的IgE抗体価が10UA/mLだった場合、即時型のアレルギー反応を経験したことのある患者を含む報告では症状誘発の可能性は約90%と算出されましたが(Komata T,et al.J Allergy Clin Immunol 2007 May;119:1272-4.)、即時型症状の経験のない患者を対象とした別の報告では約30%であったことも過去の研究結果から示されています(Haneda Y,et al.J Allergy Clin Immunol 2012 Jun;129:1681-2.)。  そもそも特異的IgE抗体検査は半定量法なので、高い値が出ていても症状が出ない患者がいれば、低い値であっても症状が出る患者もいます。「値だけを見るのではなく、これまでの原因食物の即時症状の有無や症状の重症度なども参考に負荷試験を行う時期を判断すべき」と佐藤氏は言います。  特に、「アナフィラキシー症状など、重篤な症状が一度でも生じた事例や特異的IgE抗体がクラス3以上の患児、3項目以上の抗原への感作が認められる場合は専門医による経口負荷試験や経口免疫療法の適応となる。加えて、食事指導が困難だと医師が感じた場合は闇雲に除去指導を続けるのではなく、できるだけ早期に専門医への紹介を考慮してほしい」と佐藤氏は話しています。 続きはこちら
Dr.堤より アレルギーを起こすのではないかという、不安から、体を作る必須な栄養素も除外しては、子供がバランス良く、成長しない、どうやって除去成分か判断の材料は?