「事故から学ぶ」医療安全は限界

参考:2014年11月24日(月) 配信 m3.com

第9回医療の質・安全学会学術集会で11月23日、シンポジウム「WHOドラフトガイドライン 成功する報告システムの特性 医師法21条拡大解釈の反省から患者医師信頼関係へ」が開かれ、2015年10月からスタートする医療事故調査制度に対し、WHOドラフトガイドラインに準拠し、責任追及ではなく、医療安全に資する仕組みを作る重要性が異口同音に指摘された。
同シンポジウムにおける5人のシンポジストは、医療安全の専門家、大学病院長、弁護士、大学教授と、いずれも医師免許を持ちながらも立場の異なる顔ぶれです。 大阪大学医学部付属病院中央クオリティマネジメント部部長 中島和江氏は、異型輸血をはじめ、何度も繰り返し同じ医療事故が起きている現状を指摘しています。 「事故を調査し、再発防止につなげる」というこれまでの医療安全への取り組みについて「事故調査は、『後知恵バイアス』がかかり、犯人探しになる。失敗には原因があるという発想自体、言い換えれば、有害事象が起きるまでは、何も行動しないこと」と指摘。 これからの医療安全は
  1. 複雑系を前提
  2.     
  3. 失敗と成功は等価
  4. 必ずしもはっきりとした原因がない
  5. 安全の定義を動的(想定内の状況でも、想定外の状況でも、システムが求められた機能を果たしていること)
  6. 許容されるアウトカムを増やす
  7. 先行的
という視点での、「成功事例から学ぶ」取り組みが求められると強調しました。 医師・弁護士で、厚労省官僚の経験も持つ田邉昇氏も、医療事故の原因究明は難儀であり、院内でも、また第三者機関で調査しても用意ではないことを指摘。 そもそも医療事故が起きるのは、金(診療報酬)がなく、人手の不足が原因であり、医療事故調査に予算をつけるなら、診療報酬を上げ、人手を増やすべきであると発言しています。 昭和大学病院長 有賀徹氏と、埼玉医科大学総合医療センター病院長 堤晴彦氏は、10月25日の読売新聞による、「交通事故訴訟10年で5倍に」という記事を紹介。 医療事故調査の報告書が、民事訴訟などの責任追及に使用される懸念を指摘し、医療事故への対応は、日常診療の延長線で行うものであり、「医療の外」で行う紛争処理とは次元が異なる。医療事故に、弁護士など「対立を煽ろうとする人たち」が加わることによった「喧嘩の構図」を持ち込む事をけん制しました。 また現在、医療事故情報等の収集事業を行う『日本医療機能評価機構』と、「診療行為に関連した死亡に関する調査・分析モデル事業」を行う『日本医療安全調査機構』といった類似の組織が二つもある必要はないことを指摘、医療事故関連の組織は一本化すべきとしています。 浜松医科大学医学部法学教授 大磯義一郎氏も、医療事故調査に当たっては「不可罰性」と「秘匿性」が重要と強調し、「悪者を作り上げて、徹底して責任追及するのではなく、医療安全を進めていくことが、一般国民の最大の利益」と指摘。 医療事故について遺族に対し、何を説明、報告、通知するのかがポイントになるとし、報告する者に対する「不可罰性」、患者や報告者の個別情報の「秘匿性」を厳守する重要性を述べました。 今シンポジウム後のディスカッションで議論になったのが「秘匿性」。 特に医療事故のマスコミへの発表において、医療は行為と結果との因果関係がわかりにくいシステムであり、中島氏は「誰が、ではなく、どのような状況で仕事をし、事故が起きたのかを把握するのが重要」と指摘し、個人を特定するような報道を問題視しました。 いずれのシンポジストも、厚生労働省が11月より着手している医療事故調査制度の詳細な制度設計に対し、同制度が責任追及に繋がる懸念を指摘しています。
Dr.堤より 医療技術の進歩ダイナミズムをそぎ落とすことのない、医療安全の考え方が大事なんだ。