「治る病気が治らない!? 抗生物質クライシス」【11月17日放送】

参考:11月17日(火)19時30分~19時56分/NHK総合

感染症に罹った生後間もない赤ちゃん。抗生物質が効かず、一時深刻な事態となりました。今、抗生物質の効かない耐性菌が現代医療を脅かしています。耐性菌の脅威は欧米でも深刻化しており、アメリカでは年間2万3000人が死亡しました。国を上げた対策に乗り出しています。  日本で初めて使用された抗生物質はペニシリンで、70年前に登場しました。以来、新しい抗生物質が開発される度に耐性菌が生まれてきました。今、抗生物質の切り札とされているのがカルバペネムだが、このカルバペネムが効かない菌がすでに現れています。  子どもを中心に年間50万人が罹る中耳炎。ここ数年、耐性菌によるものが目立つといいます。1歳7ヶ月の男の子は抗生物質を投与してもなかなか治らず、今年1月以降に30回近く受診しています。男の子は39度の高熱が出て夜眠れない日が続いたといいます。男の子の中耳炎を引き起こしている原因菌を検査したところ、抗生物質への強い耐性を示していました。医師は、小さいころから風邪などで多くの抗生物質を飲んだ子どもに、耐性菌は特に多いと考えています。 治る病気が治らない!? 生後まもない赤ちゃんが…  耐性菌への危機感は、新生児医療の現場でも高まっています。免疫力の弱い赤ちゃんが感染症に罹ると、命の危険に晒されます。そのため外から耐性菌が持ち込まれないよう、厳重な感染対策を日々行っています。しかし今年、生後1日目の赤ちゃんが髄膜炎を発症。3種類の抗生物質が投与されたが容体は悪化し、半日も経たずに亡くなりました。病院は、赤ちゃんの死亡の背景に一般の人達の間での耐性菌の広がりがあるとみています。妊娠中に耐性菌がお腹の赤ちゃんに感染した女性は、いつどこで耐性菌をもらったか分からず耐性菌の怖さを感じています。 治る病気が治らない!? “最強”耐性菌の脅威  抗生物質の効きにくい耐性菌が身近にも広がる中、医療界は特にCREに懸念を抱いています。CREはほとんどの抗生物質が効かない最強の耐性菌です。CREは自ら増殖するだけでなく、抗生物質を分解する遺伝子を仲間の細菌に次々と渡し、CREに変えていく特殊な力を持っています。このため感染拡大しやすく、欧米では5年ほど前から急増しています。体力が低下した手術後の患者や、がん患者などが多数死亡しています。日本でも去年、初めてCREの大規模な集団感染が報告されました。「国立病院機構 大阪医療センター」では114人がCREに感染し、死亡者23人のうち少なくとも2人がCREで死亡した可能性があるといいます。  抗生物質の効かない耐性菌について、国立国際医療研究センターの大曲貴夫さんをゲストに迎えてスタジオトーク。大曲さんは、「耐性菌が出てくるといざという時に抗生物質が使えず、残念なことが起こってしまう」とコメントしました。「病院の外での耐性菌の問題を最近強く感じるようになった」と述べ、「ドクターやナースが問題を認識し始めている。医療者が注意して治療を速やかに始めることが大事だと思う」と語りました。耐性菌の広がりは、必要でないのに抗生物質を使いすぎてしまったことなどが原因として考えられるといいます。 抗生物質クライシス 不必要な投与を減らせ  耐性菌が原因で年間推計2万3000人が死亡しているアメリカ。今年3月、オバマ大統領は国家戦略を宣言し不必要な抗生物質の使用の削減などに乗り出しました。一方、日本では医師たちによる地道な取り組みが始まっています。耳鼻科医の前田稔彦さんは、耐性菌を生み出さないため抗生物質を極力使わないようにしています。抗生物質を使うのは、細菌の種類などを特定できた場合に限っています。この結果、抗生物質の処方は従来の5分の1に減り、治療期間も短縮できたといいます。 抗生物質クライシス “耐性菌”拡大を防げ  地域での耐性菌の広がりを防ぐ取り組みが始まっています。沖縄・うるまにある沖縄県立中部病院では、3年前に始めた訪問診療での感染対策に力を入れています。これまでに診療した患者180人のうち、約2割から耐性菌が見つかっています。高山義浩医師は、耐性菌を持つ患者の情報を地域の介護スタッフや訪問看護を行う看護師と共有する体制を整えています。大阪では、介護施設での感染対策に乗り出しています。施設の高齢者は医療機関への入退院を繰り返すことが多いため、病院から専門看護師が出向き感染対策を促しています。地元保健所が中心となり、病院と介護施設が連携して地域全体で耐性菌に備えようとしています。  大曲貴夫さんは、「在宅や長期療養型の施設だからこそ、絶対的に耐性菌への対策は必要。しかし生活の場の在りようを崩してはいけない。専門家の目を入れてうまく対策できる取り組みを始めていくことが重要。現場の方や家族の方などは、まず手をキレイにすることが一番簡単にできること」などと話しました。肺炎がん菌のうちCREの割合は日本では0.2%だが、今後増えていく可能性もあります。大曲さんは、「日本でも国ぐるみでの議論を始めていくことが一つの大きな課題。大事なのは薬を使い潰さないような付き合い方を患者と医療者で考えないといけない」と述べました。