花や樹木の心地よい香りで心身を癒すアロマセラピー。緊張緩和や鎮痛、抗菌などの薬効が科学的に証明され、医療機関でも治療時に活用している。なじみの薄い人には手ごろな値段の香りから試してみてはと専門家はアドバイスする。
ラベンダーの香りで薬いらず――。静岡県西部公立森町病院(同県森町)では白内障手術の前に、植物から香り成分を抽出して作った精油を薄めて患者の足をマッサージし緊張をほぐしている。
目に麻酔を注射するため、緊張から血圧が上昇する人が多い。手術前の精油マッサージを始めてからは「200例の手術で血圧を下げる薬を一度も使わずに済んでいる」滝下江利子看護師長は話す。
患者は平均70歳以上。大半がアロマセラピー未経験だが、「リラックスできた」「寝てしまい手術のことは覚えてい」など好評だ。効用を実感し退院後も自宅で楽しむ人が少なくないという。
アロマセラピーは精油を使う自然療法。古代エジプトに起源を持つといわれる。1920年代に本格的研究が始まったフランスでは医学応用が進み医師の指示のもと精油を薬のように処方している。
日本には80年代に入ってから紹介され、美容やリラックスを目的とした英国流が普及した。病院へは香りの効能に注目した看護師らが導入を進めた。医師らが97年に専門の学会を発足させたのがきっかけで、大学病院やがん病棟などにも広がり、効用の科学的研究が活発になった。
例えばラベンダーの精油には酢酸リナリルという成分が多く、気持ちの高ぶりを抑える鎮静効果が確かめられた。レモンなどかんきつ類の精油はリモネンが主成分で、血管を広げ血行をよくする。
「グレープフルーツの香りには、かいだだけでやせる効果もある」と話すのは資生堂土師信一郎副主幹研究員。交感神経を刺激して基礎代謝を高め、中性脂肪の分解を促進する効果を大阪大学などが確認している。大手化粧品会社は香りの研究に力を入れ、ストレスの軽減による美肌や美白の効果を調べている。
アロマセラピーは若い女性の間で人気だが、「男性支持者も増えている」と語るのは看護師らでつくる日本アロマケア学界の市野さおり会長。市野さんが勤める統合医療ビレッジ(東京・千代田)では心療内科の一環として不眠やほてりといって更年期障害に悩む中高年男性にアロマセラピーを実施している。
女性は閉経がきっかけになるが男性では仕事などのストレスが原因になることが多い。香りによる快眠やリラックス効果で症状を緩和する。
大型百貨店では専門コーナーを設け、様々な精油を扱っている。価格は幅があるが、5ミリリットルの小瓶で1000−2000円程度が一般的だ。精油を温めて香りを広げる専用キャンドルやライト、入門書も並ぶ。
専門店のグリーンフラスコ(東京・目黒)を経営する林真一郎社長は「売れ筋はリラックス効果のあるラベンダーや血行を改善するゆず。初心者は手ごろな値段の商品をいくつかそろえた方が楽しめる」と提案する。開封後は劣化しやすいので一年以内に使い切るようにしたい。精油を原液のまま塗ったり、飲んだりするのも厳禁。肌がかぶれ、胃や食道を痛める。
アロマケア学会の市野さんが勧めるのはラベンダー、ユーカリ、グレープフルーツ、ローズマリー、ティトリー、サイプレスの6種。「ティッシュやお湯にたらして香りを吸うだけで不眠解消やたん切りなど様々な効果がある」。
肩こりや足のむくみの解消には専用オイルで薄めてマッサージすると効果的という。
英国に留学して香りの専門家であるあるアロマセラピストの民間資格を取得した元フジテレビアナウンサーの大橋マキさんは、放送本番前の緊張をフランキンセンスの甘い香りでほぐしている。「効能だけに注目するのでなく、まずは好きな香りを選んでみては」と話している。
アロマセラピーの活用法
不眠 |
ティッシュにラベンダー4滴吸い込むか枕元に置く |
鼻づまり
(花粉症) |
ティッシュにユーカリ4滴、口を閉じて鼻から深く吸い込む |
吐き気 |
グレープフルーツかレモン 4滴ティッシュにたらし胸ポケットにでも |
肩こり |
ローズマリーとラベンダー 2滴ずつ10ccのベースオイルで薄め、肩をマッサージ |
深酒 |
グレープフルーツとレモン 2滴ずつ10ccのベースオイルで薄め、背中やおなかをマッサージ |
むくみ |
バケツに足元から20cmくらいの高さまでお湯を入れ、ウオッカ5ccとグレープフルーツ5滴を入れ足浴 |
水虫 |
洗面器にお湯を入れ、ウオッカ5ccとティトリー4滴を加え足浴(15分) |
2004年5月2日 日経新聞
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