生活習慣病との関係 Dr.中川のがんの時代を暮らす/35
 

 今月から、厚生労働省の健康局に「がん対策・健康増進課」が設置されました。これまでわが国のがん対策は、健康局総務課の下に設けられていた「がん対策推進室」が中心となって進めてきました。ただし、「室」といっても職員は10人に満たず、法令ではなく内部規約によって設置される「訓令室」と呼ばれる省内でも立場の弱い組織でした。

 国民の2人に1人が生涯にがんになる時代にもかかわらず、がん対策の「要」となる国の組織がきちんと整備されていなかったことには、首をかしげるしかありません。

 今回、がん対策推進室と、同じ総務課内にあった生活習慣病対策室、保健指導室、地域保健室の四つの室を再編する形で、約50人体制の新たな「課」が誕生しました。再編された4室のうち、地域保健対策を担当する地域保健室と保健指導室は、引き続き新しい課の中に「室」として置かれ、この課の主要な課題は、がんと生活習慣病についての政策立案となります。今回の組織改編には、原因の多くが共通するがんと生活習慣病の対策を、効率的に推進しようという意図も感じられます。

 たしかに、がんの予防には生活習慣の改善が欠かせません。たばこは吸わない、お酒はほどほどにする、塩分を控えて野菜や果物を欠かさず、運動を心がけて、太りすぎないことが大切です。これらは、生活習慣病の予防にもつながります。

 国立がん研究センターが7万8548人を対象に、生活習慣とがんの発生率との関係を調べた研究によると、禁煙、節酒、減塩、運動、体重管理の五つの習慣のうち、二つを実践しているグループは、ゼロまたは一つだけ実践しているグループに比べ、がんのリスクが男女とも14%低下しました。さらに実践している生活習慣の数が多いほど、男女ともリスクが直線的に低下し、五つすべてを実践すると、男性で43%、女性で37%も低下することが分かりました。

 しかし、がんは完全な生活習慣病ではありません。理想的な生活をしたとしても、がんになるリスクは半分程度残ります。がんを防ぐ生活習慣とともに、がんの早期発見のためのがん検診が欠かせない理由です。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

2012年4月23日 提供:毎日新聞社