| 主栄養素の中で足りないといわれることが多いカルシウム。不足すると、年とってから骨量が著しく減少する骨粗しょう症など、様々な病気が待ち受ける。カルシウムの専門家3人の話をもとに、その役割と上手な摂取法についてまとめた。
 話を聞いたのは、東京都老人医療センターの折茂肇院長、埼玉医科大学の須田立雄教授、日本女子大学の江沢郁子教授。カルシウムの働きの解明や骨粗しょう症の予防などで業績をあげている3人だ。
 
 成人の体内には、約1キログラムのカルシウムがあり、99%は骨と歯に蓄えられている。そのカルシウムは日々、骨と血液の間を活発に出入りしている。
 
 須田教授は「骨が1度できたら変化しないと思ったら大間違い」と指摘する。骨を溶かす破骨細胞と、新しく骨を形成する骨芽細胞という2つ細胞が作用し、毎年6%弱の骨が更新される。17年程度で全部の骨が入れ替わる計算だ。
 
 わずかながら血液に含まれるカルシウムの役割も重要。筋肉や神経の働きを正常に保つには、血液中のカルシウム濃度が一定でなければならない。濃度が下がると、副甲状腺ホルモンが分泌され、破骨細胞が骨を溶かし、血中にカルシウムを送り出す。
 
 人間は若いうちにどんどん骨が成長し、20−45歳の間に骨量がピークを迎える。その後は、破骨細胞の活動に骨形成がついていかなくなり、骨量が減っていく。ピーク時の骨量の平均値に対し、骨量が7割未満になると、骨粗しょう症と診断される。7−8割なら、同症の予備軍である「骨量減少」とされる。
 
 折茂院長は、「骨折するまで病気ではないと考えるのは間違い。骨折しやすくなった骨粗しょう症はすでに病気」と語る。国内に1千万人の患者がいるとも推定されているが、女性ホルモンには骨を守る働きがあるため、女性ホルモンの分泌が低下する閉経後の女性に症状があらわれやすい。
 
 予防策ははっきりしている。若いうちに骨量のピークを高めるとともに、年取ってからの骨量の減少を最小限に食い止めること。つまり、一生涯、カルシウムをとり続けることだ。
 
 若い女性がダイエットでカルシウム不足に陥ることが多いが、折茂院長は「そのツケはいずれ出る。特に、やせて小柄な女性は骨が少なく、リスクが高いといえる」と警告する。
 
 カルシウム不足の影響は骨以外にも出る。副甲状腺ホルモンの分泌増加が血管へのカルシウム流入を促進し、動脈硬化が進む。副甲状腺ホルモンは脳細胞へのカルシウム流入も促進するといわれる。脳細胞が死に、老人性痴ほう症を加速する可能性があるという。
 厚生労働省が定めているカルシウムの所要量は、30歳以上で600ミリグラム。これを不足なく取るには、どうすればいいか。まず、生活習慣を改善すること。カルシウムを多く含む食品を日常の食生活に取り込む。
 
 カルシウムの王者といえば、乳製品。江沢教授は「牛乳はカルシウムに加え、その吸収を助ける成分を含んでいるため、吸収効率が高い」と指摘する。カルシウムは他の物質と結合していないイオン化した状態で吸収されるのだが、リンと結びつくと、腸内で沈殿することがある。乳製品に含まれるある成分は、リンとの結合を防ぐという。
 
 江沢教授は「朝など、毎日コップ1、2杯の牛乳を飲むように習慣づける」ことを提案する。また、カレーやポテトサラダなどの料理をつくる際、スキムミルクをちょっと混ぜるのも一案。味に大きな変化はないが、効果は大きい。
 
 魚では、シシャモなど骨ごと食べられるものがいい。小松菜や豆腐、海藻など、表に記した食品をできるだけ取り込むことだ。
 
 カルシウム吸収に不可欠なビタミンDも忘れてはいけない。ビタミンDは腎臓や肝臓を通じ、ホルモンの一種である活性型ビタミンDにつくりかえられ、小腸上部でのカルシウム吸収を助ける。人間は太陽光を浴び、体内でビタミンDを作り出す。夜の仕事が多い人は、魚類などからのビタミンD摂取を心がけたい。
 
 さらに運動。骨の形成には、筋肉や重力による刺激が必要だ。長期間、宇宙にいた宇宙飛行士の骨が弱くなることはよく知られている。カルシウムをよく取り、よく動くことが、年取ってから健康に過ごすための秘けつのようだ。
 
                   
                    | カルシウムを多く含む主な食品  
                         
                          | 食品名 | 1回に食べる量
 (グラム)
 | その目安量
 |  |   
                          | 普通牛乳 | 200 | 牛乳瓶1本 | 220 |   
                          | 加工乳(低脂肪) | 200 | 牛乳瓶1本 | 260 |   
                          | ヨーグルト(全脂無糖) | 100 | 1個 | 120 |   
                          | スキムミルク(脱脂粉乳) | 16 | 大さじ2 | 176 |   
                          | アイスクリーム(普通脂肪) | 100 | 1個 | 140 |   
                          | チーズ(プロセスチーズ) | 25 | 1切れ | 158 |   
                          | シシャモ(丸干し) | 100 | 4尾 | 330 |   
                          | 丸干し(マイワシ) | 30 | 中2尾 | 132 |   
                          | 煮干し | 10 | 5尾 | 220 |   
                          | シラス干し | 5 | 大さじ1強 | 11 |   
                          | 干しえび | 10 | 1/5袋 | 710 |   
                          | アミの佃煮 | 10 | 大さじ1 1/2 | 49 |   
                          | 小松菜 | 50 | 1/5束 | 85 |   
                          | 春菊 | 50 | 4〜5本 | 60 |   
                          | 大根の葉 | 50 | 1/2株 | 130 |   
                          | カブの葉(ゆで) | 50 | 2株 | 95 |   
                          | 野沢菜(塩漬け) | 30 | 小皿1盛り | 39 |   
                          | 切り干し大根 | 10 | 1/5カップ | 54 |   
                          | ゴマ(いり) | 5 | 小さじ1 | 60 |   
                          | 木綿豆腐 | 150 | 1/2丁 | 180 |   
                          | 生揚げ | 60 | 1/2枚 | 144 |   
                          | 油揚げ | 25 | 1枚 | 75 |   
                          | おから | 65 | 1/2カップ | 65 |   
                          | 凍り豆腐 | 20 | 1個 | 132 |   
                          | 納豆 | 50 | 1/2パック | 45 |   
                          | コンブ | 5 | 5cm角 | 36 |   
                          | ヒジキ(乾燥) | 5 | 1/10カップ | 70 |   
                          | ワカメ(乾燥) | 3 | 1/5カップ | 29 |  
                         
                          | (注)日本女子大学栄養学研究室が五訂日本食品標準成分表より作成 |  |  |