ドライバー寿命延ばそう 57歳、現役最年長レーサー・松田秀士さん
「スローエイジング」提唱

 

ドライバー寿命:延ばそう 57歳、現役最年長レーサー・松田秀士さん「スローエイジング」提唱

◇簡単筋トレで「スローエイジング」 安全運転、目が大切

何歳になっても車を運転したい。でも年をとれば判断力も鈍るし――。そんな悩める高齢ドライバーの心強い味方が、現役最年長プロレーシングドライバー、松田秀士さん(57)だ。生活の中に簡単なトレーニングを取り入れることで老化スピードを遅らせ、「ドライバー寿命」をできるだけ延ばそうという。「スローエイジング」を提唱する松田さんに、ノウハウの一端を聞いた。【望月靖祥】

高齢ドライバーによる事故が増えている。目立つのがブレーキとアクセルの踏み間違いや、交差点での出合い頭の衝突事故。その多くは、加齢に伴う判断力の低下が主な原因とみられている。

こうした事故を防ぐために松田さんが重視しているのは「体のバランス調整」と「筋力トレーニング」の2点。「骨盤のバランスを整えれば、正しい運転姿勢を保てる。筋トレで成長ホルモンが分泌され、体の老化が遅くなる」という。

骨盤調整に最適なのが「バランスボール」。膝が90度になるよう空気圧を調整して座り、背筋を伸ばして腰を前後左右や円状に動かす。できれば毎朝5〜10分行いたい。

筋トレでは(1)上腕を鍛える「ディップス」(2)大腿(だいたい)部を鍛える「スクワット」(3)肩を鍛える「サイドレイズ」――などがお勧め。ディップスとは、体の重みを利用して腕を曲げ伸ばしする運動。椅子の肘掛け部分を利用すれば、専用器具は不要だ。サイドレイズは、伸ばした腕を横方向に肩の高さまで上下させる。

いずれも、軽い筋肉痛になる程度に体をいじめるのがカギ。「成長ホルモンは、傷ついた筋肉が再生する時に分泌される。多く分泌させるためには、大きな筋肉を鍛えるのが効率的」という。

体を整えても、運転姿勢が悪ければ話にならない。正しい姿勢とは(1)座席に深く座る(2)前に伸ばした腕の手首部分がハンドルの頂点に来る(3)ブレーキを踏み込んだ時の膝の角度は110〜130度――。実際に試すと、多くの人が「ハンドルに近過ぎる」と感じるというが、松田さんは「これが瞬時にハンドルを切り、ブレーキをドーンと踏める姿勢。ブレーキとアクセルも間違いにくくなる」と説く。


目は安全運転のための最も重要な部位。目が疲れると脳が疲れて判断力が鈍り、距離感も狂う。とっさの時に目が動かず、首を動かさざるを得ないため反応が遅れる。「パソコンや携帯電話の液晶画面を見る時は、目を保護する眼鏡をかけるなど、普段から目が疲れないように気を使うことが大切です」



松田さんは28歳でレーサーになった。00年には大クラッシュを起こして重傷を負ったが、2カ月後には早くもレースに復帰した。今も現役レーサーとして「スーパーGT」シリーズで熱い走りを続けている。なんと、浄土真宗本願寺派の僧侶でもある。

そんな松田さんが、信頼するトレーナーから学んだノウハウや自身の経験を体系化し、僧侶としての視点を加えたのが「スローエイジング」。ポイントは「老いと上手に付き合う」ことだ。医薬的手段などで老化防止を目指す「アンチエイジング」とは違い、老いを否定しない。だから、どうしても運転できない状態になった時は、運転免許の自主返上を勧める。

死と隣り合わせの危険な世界で戦っているとは思えない優しい笑顔で、松田さんはこう語る。

「老いは避けられないが、お年寄りが自力で移動できれば、介護する側の負担は軽くなる。移動の手段である車を長く運転することは、高齢化社会の中で極めて大切」

合言葉は「お浄土までぶっ飛ばせ!」。松田さんは元気なお年寄りを全力で応援している。

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◇高齢者の事故増加

警察庁によると、運転免許保有者に占める65歳以上の割合は11年末時点で16・2%(約1319万人)。02年末の10・8%(約826万人)から5・4ポイントも増えた。

高齢者ドライバーによる事故も増加。原付きバイク以上(オートバイや乗用車、トラックなど)の事故のうち、65歳以上の運転手が起こした事故は02年に8万3047件だったが、07年には10万2961件と10万件の大台を突破。その後も増加傾向にある。

警察庁などは高齢者を対象に免許の自主返納を奨励。さらに、免許更新時の高齢者講習(70歳以上)と認知機能検査(75歳以上)を義務づけている。

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■人物略歴

◇まつだ・ひでし

1954年高知県生まれ。龍谷大卒。85年に全日本F2選手権(現フォーミュラニッポン)に初参戦。F1のモナコ・グランプリ、仏ルマン24時間耐久と並ぶ「世界3大レース」の米インディ500には94年から計5回挑戦し、決勝進出4回、最高8位(96年)。ルマン24時間にも92、01年の2回出場した。モータージャーナリスト、レース解説者としても活躍中。講演会などは公式ホームページ(http://www.matsuda−hideshi.com/)を通じて受け付けている。


2012年10月17日 提供:毎日新聞社