立件に高いハードル 解剖、検体なく証明困難
「大型サイド」6人死亡ノロ集団感染
高齢の入院患者6人が死亡した宮崎県日南市の医療法人春光会東病院のノロウイルス集団感染。病院側の衛生管理の不備と対応の遅れが被害を拡大した疑いがあり、県警が関係者の事情聴取を始めたが、死亡患者の司法解剖はできず、吐瀉(としゃ)物や血液などの検体も残っていない。6人のウイルス感染を直接証明するのは困難で、刑事事件としての立件には高いハードルが課されている。
病院によると、男性(78)が12日、嘔吐(おうと)と発熱の症状を示して最初に発症し、14日に死亡。病院が初めてノロウイルスをうたぐったのは2日後の16日。発症者が4人から16人に急増したためだ。
17日の簡易検査で患者5人の陽性を確認、県に通報したが、17日に2人、19、21日にもそれぞれ1人が死亡。死亡者が出たとの報告は22日になってからで、その日の夜には6人目の患者が死亡した。発症者は6人を含め44人に膨れ上がった。
立ち入り検査した県によると、患者の嘔吐物や便の処理に着用する手袋とエプロンは、院内感染を防ぐため1回の使用で捨てるのが常識だが、1人の患者に同じ物を一日中使い回していた。素手で汚れたエプロンに触れるケースもあった。
病院の常勤医師は院長1人。その院長も15日から4日間、症状を訴え、患者を直接診察できない状態だった。
病院は23日、県庁で集団感染を公表。宮路重和(みやじ・しげかず)理事長は「患者に接触した職員を介して感染拡大した可能性が高い。報告も遅れ、申し訳ない」と謝罪。県の幹部らも「排せつ物などの処理方法の不手際が感染拡大の一因」「対策が完璧ではなかった」と指摘した。
17日に亡くなった男性(85)の妻(78)には当日、病院から院内感染の説明はなく、報道で初めて知った。妻は「きちんと対応してくれていたら、もう少し長く生きられたかも...」と話す。
今回の集団感染は「人災的側面」が色濃く、県警も23日、捜査員を病院に派遣し、関係者の事情聴取に乗り出したが、死亡患者の検体が残されていないことが判明した。
6人は嘔吐物などが誤って肺に入り発症するご誤嚥性(ごえんせい)肺炎が死因と診断された。業務上過失致死容疑での立件には、ノロウイルス感染が嘔吐の原因になったことを証明する必要があるとみられるが、鑑定などで直接立証するのは困難な状況だ。
医療事件を専門に扱う谷直樹(たに・なおき)弁護士(東京)も刑事事件には発展しにくいとみる。「病院の対応が遅く問題はある。しかし『もっと早く対応していれば感染は拡大せず、死者数も減らすことができた』と証明するのは難しい」と分析した。
宮路理事長は会見で「高齢者を預かる中、感染力の極めて強いノロウイルスの感染を根絶するのは不可能だと思う」と本音も漏らした。