ヘルシーリポート:ピロリ菌 除菌で胃がんリスク低下
◇「感染胃炎」除菌に保険適用 LG21乳酸菌入りヨーグルトに抑制効果
日本人に多い胃がんの最大の要因は、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)であることが分かってきた。厚生労働省は2月、新たに「ピロリ感染胃炎」という病名を認め、その病名がつけば、健康保険で除菌(じょきん)治療ができるようになった。除菌治療をすればどんな効果があるのか。3月半ば、東京都内で開かれたピロリ菌セミナーに足を運んだ。【小島正美】
ピロリ菌は胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍を引き起こすため、消化性潰瘍と診断された場合は、2000年から除菌治療が保険適用となった。その後、胃の粘膜のリンパ組織(MALT)に腫瘍(しゅよう)ができる胃MALTリンパ腫など3疾患の治療も保険適用になった。
ピロリ菌はこのほかにも、萎縮性胃炎や鉄欠乏性貧血などにかかわっていることが分かり、日本ヘリコバクター学会などは、ピロリ菌が関連する各種感染症にも保険適用を認めるよう国に求めていた。その結果、国は「ピロリ感染胃炎」という新たな病名を認め、保険適用を認めた。
ピロリ菌と胃がんの関係を世界でいち早く報告した上村(うえむら)直実・国立国際医療研究センター国府台病院長は、この日のセミナーで「ピロリ菌をベースにした各種疾患を除菌治療で抑えていけば、将来医療費が削減されるのは間違いない」と指摘。除菌治療は国民経済にもメリットがあると語った。
もっとも、健康な人が単に「除菌したい」というだけで治療を受けても、保険は適用されない。あくまで「胃がもたれる」「胃が痛む」という症状があって病院を受診することが前提だ。上村院長によれば「内視鏡検査で胃炎が確認され、各種検査でピロリ菌が陽性になれば」ピロリ感染胃炎と診断され、初めて保険適用となる。
除菌の効果は大きい。上村院長は「除菌すると胃の表面の白っぽい粘液がなくなり、まるで別人のようなきれいな胃になります」と、胃のスライド写真を見せながら説明した。
除菌をしたらそれで終わりではない。胃の粘膜の様子を確かめるため、1年後に再び内視鏡検査を受ける必要がある。
50〜60歳の人が除菌に成功すれば、その後の胃がんの発症率は20分の1程度に下がるという。20歳以下の若い人が除菌をすれば、ほとんどの胃がんが予防可能になる。全年齢層を平均すると、胃がんの発症リスクは約3分の1に下がる計算だ。ただ、除菌をしたからといって、胃がんがすべてなくなるわけではないことは知っておきたい。
セミナーでは「除菌で胃が健康になれば、胃酸が増えるため、胃酸が食道に逆流して起きる逆流性食道炎のリスクが高くなるのではないか」という質問が出た。上村院長は「除菌で逆流性食道炎が増えることはない」と、これまでの研究報告をもとに話していた。
どんな治療にもリスクとベネフィット(便益性)が伴う。仮に除菌で逆流性食道炎のリスクが高まるとしても、胃がんと比べてどちらのリスクが大きいかといえば、もちろん胃がんだ。「除菌で逆流性食道炎を心配するのはナンセンスです」(上村院長)
除菌の重要性に対する理解は進んでいるが、課題もある。抗生物質を使った除菌の成功率が少しずつ下がっているのだ。クラリスロマイシンなど、抗生物質に対して耐性を示すピロリ菌が増えているためだ。
セミナーで講演した高木敦司・東海大学医学部内科学系総合内科教授によると、成功率は以前は80〜90%近かったが、最近は70〜80%前後に下がってきたという。治療は繰り返すことができ、1次除菌に失敗しても、2次除菌も保険適用になるが、3次除菌は適用外だ。
高木教授らは、以前からピロリ菌の抑制効果が指摘されていたLG21乳酸菌を含むヨーグルトを併用する試験を実施した。通常の除菌治療に加え、LG21乳酸菌入りのヨーグルトを4週間にわたり1日2個食べたグループは、除菌治療だけのグループに比べ、ピロリ菌の除去率が約10%高かった。
高木教授は「ヨーグルトがピロリ菌を減らしたために除菌率が高くなったのではないか」と指摘。LG21乳酸菌入りヨーグルトが除菌治療の補助療法として有用だと指摘した。
胃がんとピロリ菌の関係では、ピロリ菌がいて、同時に塩分の摂取が多いと胃がんになりやすいことも分かっている。塩分の取り過ぎにも注意したい。