便通を改善、心疾患予防も

肥満や生活習慣病の元凶の1つとして、油は悪者扱いされがち。しかし、コレステロールを減らし、便秘や心臓病予防にいいとして人気が高まっているのが、オリーブオイルだ。5千年前から地中海の人々に愛用されてきた自然の油で、健康増進のヒントを探ろう。

「油をオリーブオイルに変えて多めに使ったら、10日ほどで便秘が治った。心なしか肌の調子もいい」と話すのは東京都在住の主婦、菊池晴枝さん(仮名、39)。「オリーブオイルは小腸を刺激して腸のぜんどう運動を促進するため、便通がよくなる」と松島病院大腸肛門病センター松島クリニック(横浜市)の松生恒夫診療部長。実際、腸を内視鏡で見ると、オリーブオイルを多く使っている人の腸はポリープが少なく、きれいなことが多いという。

オリーブオイルは古代ギリシャの時代から、下痢や風邪の“薬”としても使われてきた。その高い健康効果に現代医学が注目したのは、1950−70年代に世界で実施された心疾患の発症率調査がきっかけ。米国や北欧に比べて、地中海沿岸諸国では心疾患の発症率が3分の1以下と少なかった。

食べる食材を比較すると、米・北欧、地中海諸国とも脂肪摂取量は同程度なのに、地中海の国々では主にオリーブオイルからとっていて、動物性脂肪は少なかった。その後の研究で、悪玉コレステロールを減らす、アレルギーや炎症の原因となる物質の生成を抑える、といった様々な効用が明らかになってきた。

血管のさび防止
オリーブオイルに含まれる脂肪酸の7割は、酸化しにくいオレイン酸で占められている。酸化した脂肪は血栓をつくりやすく、炎症を引き起こす原因になるが、オリーブオイルは酸化しやすい脂肪酸が少ない。

また、オリーブオイルにはビタミンEや葉緑素といった抗酸化物質が含まれている。このため、血管や内臓などの活性酸素によるさび付き(老化)から守る。「オリーブの実を搾ったままの“果実のジュース”だから」と、地中海食の健康効果に詳しい東京慈恵会医科大学内科学の横山淳一・助教授は解説する。オリーブオイルには、実や皮に含まれる抗酸化物質が多く入っているのだ。「エキストラバージンオイル」と表示されたものが、このジュース。ピュアオイルという種類もあるが、これは精製しているため、抗酸化物質が少ないオリーブオイルだ。横山教授は「普通の油に比べて、高温で調理した場合の酸化が少ないので、料理に使う油はエキストラバージンオイルが理想だ」と薦める。値段も500ミリリットル、1000円以内で良質な商品を選べる。

オリーブオイルを熱すると独特の香りが立ち込める。このため、「いため物などの油料理に使うのはちょっと」と尻込みする人もいる。その場合は店員などに相談して、香りや味がマイルドなものを選ぶといい。イタリア産、シチリア産、スペインのアンダルシア産にはこのタイプが多い。
保存は日光の当たらない所で。日が当たると、中に含まれる葉緑素が反応して酸化が進むからだ。口を締めて冷暗所で保存すると1年半−2年もつという。

とりすぎに注意
オリーブオイルはパスタや野菜、豆、魚介の料理によく合う。地中海食が健康にいいといわれる理由の1つは、肉の摂取量が少なく、パスタや野菜などの摂取量が多いため。「オリーブオイルに、赤ワインビネガーや塩、コショウを合わせてかけるだけで生野菜をおいしく食べられる。魚を焼く前にかければ、焼くとぱさつきがちな魚肉がしっとりする。健康効果の高いい魚油の酸化をオリーブオイルが防ぐ」(横山教授)

ただし、体にいいからといって、とり過ぎれば太りやすい。使う量の目安は、「1日にとる油の半分をオリーブオイルに置き換えるといい」(松島クリニックの松生部長)。オリーブオイルを使った分だけ、他の油や肉の脂身を減らしたい。
(『日経ヘルス』編集部)

(2002.9.28 日本経済新聞)