知能は正常なのに、文字の読み書きに支障がある子どもの発達障害は大脳の2カ所の活動に異常があって起きていることを発見したと、国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)精神保健研究所の北洋輔(きた・ようすけ)研究員と稲垣真澄(いながき・ますみ)部長らが19日付の英科学誌ブレイン(電子版)に発表した。
研究チームは「読み書き障害が本人の努力不足や環境で引き起こされるという偏見を解消する成果だ」としている。
脳のどの部位が働いているかを画像で判定できる機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)で、健常な成人30人、健常な子ども15人、読み書き障害と診断された子ども14人(9〜15歳)を対象に、日本語の音韻処理をしている間の大脳活動を調べた。音韻処理とは、例えば「時計」という言葉を「と」「け」「い」に分解する脳機能を意味する。読み書き障害児はこの処理がうまくできない。
読み書き障害児では、運動調節や認知、学習機能を担う大脳深部の基底核が、音韻処理をしていない時でも活動した。健常者の基底核は音韻処理のときだけ働き、それ以外は機能していなかった。
また、言語理解に関わる大脳の左上側頭回(じょうそくとうかい)の前部が、健常な人では、音韻処理の能力が高いほど活動が認められるのに対し、読み書き障害児では活動が低下していた。
稲垣部長は「大脳基底核の『過剰な働き』ともいえる異常は、アルファベットを使う欧米では指摘されていない。日本語圏の読み書き障害の病態を解く手掛かりになる」と話している。
※読み書き障害
文字の読み書きが苦手な子どもの発達障害の一種。日本語圏で1〜2%、アルファベットを使う言語圏で5〜17%とされる。小学校低学年で顕在化するが、知的能力が正常で会話もでき、発見は遅れがちで、「やる気がない」「不真面目」と誤解されやすい。平仮名読み検査などで診断できる。脳神経の障害とみられているが、病態が分からず、特別支援学級での訓練法開発が課題になっている。