ビジネスピープルのセルフメディケーションを考える

気持ちのいい薫風の5月も過ぎ、梅雨から夏にかけ、体調を崩しやすい季節がやってくる。夏バテ対策には、事前にバテない体を整えておくことが一番。そのために毎日の生活習慣を見直してみたい。

生活習慣というと、生活習慣病のイメージから「よくない生活習慣」が思い浮かびがちだが、それを正して「いい生活習慣」を積極的に取り入れることで、健康な体という財産を築くことができる。そのために身近なところから改善すべき点を、銀座医院の濱本恒男院長にうかがってみた。

肩こり解消のために10分間ストレッチを

「風邪は万病のもと」といったのは昔の話。いまは「運動不足は生活習慣病のもと」だ。しかし多くの人が車や電車による長時間通勤のうえ、仕事の比重はデスクワークにあるという毎日。どうしても運動不足になりがちだ。
そこで、休日にゴルフに行く、釣りに行く、ジムに通うという選択肢もあるが、じつは「たまにハード」な運動をするより、「毎日軽め」の運動を続けたほうが、健康増進には役立つ。たとえば通勤の1駅分を徒歩に切り替える、オフィスビルではエレベーターを使わず階段を使用、といった具合だ。
ビジネスピープルには「肩こり」に悩む人が多いが、その原因も姿勢の悪さ、ストレスに加え、運動不足が大きいといわれる。その解消には、肩を上げ下げしたり、ゆっくり回すなど、デスクサイドでできる10分程度のストレッチが有効。手近なところから始めてみたい。加えて時間がとれれば、プールでクロールや背泳ぎを。水の浮力に助けられる水泳は肩こりの予防と解消に役だつうえ、無理なく全身を鍛えるのに最適だ。

コレステロール対策は脂肪だけ気にしてもダメ

「最近太り気味」「コレステロールが気になって」という会話がよく聞かれる。コレステロール対策というと「脂っこい食事を避けること」と考える人が多いが、じつはそれほど単純ではない。脂肪の種類は複雑で、善玉コレステロールを増やして悪玉コレステロールを減らす働きをもつものや、その反対の働きをするものがあるわけだ。
では、どうすればいいかというとき、よく例にあげられるのがかつての日本の食生活。ごはんを中心に、動物性タンパク質と脂肪は主に魚からとり、野菜は根菜類を含めたっぷり、豆や海藻もたくさん食べる。そうした組み合わせなら自然とコレステロールをコントロールもしやすくなる。
現在の日本人の食生活は、気づかないうちに外食や加工食品をとる頻度が増し、野菜、海藻類の摂取率が落ち、以前はとくに気にせずとも食事から十分にとれていた微量栄養素(ミネラル)が、不足がちな傾向にあると指摘されている。毎食とはいかなくても、できる限り食生活を日本型に戻していくことで、そうしたミネラルも補いやすくなる。体調を整えるのに関与する成分だけに、3大栄養素やビタミンだけでなく、こうしたミネラルバランスにも気を配って、ヘルシーな食事を心がけたいものだ。

心臓と肌に優しい温泉風のふろ健康法


日本人のストレス解消および健康増進に大きな役割を果たしているのが、おふろ。体を洗ってさっぱりし、疲れをとるだけでなく、血行をよくし、新陳代謝を高めるのに役だつ。そのためには江戸っ子好みの「熱湯・カラスの行水」式でなく、ぬるめの湯にじっくりつかる温泉スタイルが効果的だ。
温泉スタイルの入浴法というと、まずかかり湯。おけに何杯かの湯を体にかけ、それから湯船につかることで、急激な血圧の上昇が避けられる。かける順番は手足の先から始めて徐々に心臓に近いところへ、というのが基本。さらに、少しつかっては上がって体を洗い、またじっくりつかるという反復浴をすると、のぼせることなく、体がしんから温まる。
体を洗う順番も、やはり手足の先から、心臓に近いところへ。心臓への負担を軽くしながら、血行促進を高めるためだ。洗い方もヘチマやブラシでゴシゴシこするのでなく、天然素材のスポンジやタオルを使い、せっけんを泡立てて優しくマッサージを。ゴシゴシ洗いだと必要な皮脂まで落とし、逆に肌を傷めることがあるからだ。最後に入浴後は忘れず、水分補給したい。

夏風邪に負けない毎日の生活防衛を

新型肺炎SARSの世界的流行で、ウイルス性疾患の流行時におけるマスク着用の重要性がよく理解されるようになった。これまでは「風邪をひいてからマスクする」が常識だったが、「ひかないためにマスクする」。これは1回のせきで10万個、1回のくしゃみで1万個は飛散するといわれるウイルスを、吸い込まないようにするためだ。
加えて外出から帰ったらうがいをすることが大事。うがいに用いるのは、水よりもぬるま湯が効果的。市販のうがい薬もいいが、殺菌力をもつ緑茶でうがいするのも有効。
さらに、忘れてならないのが手洗い。ウイルスは電車のつり革やビルのドア、自動販売機などあらゆる場所に付着している。外から持ち帰ることのないよう、不要なところに触るのを避け、帰ったら丹念に手を洗おう。風邪に負けない体づくりのためには、ふだんから免疫力と抵抗力を高めるビタミンエース(A・C・E)を心がけてとる。とくにひき始めには、ビタミンCをしっかりとりたい。 

(2003.5.24 日本経済新聞)