患者と医者と薬の悩ましい関係
  


患者と医者と薬の関係 

香山リカ 

 患者さんにとっても医者にとっても悩ましいもの、それは薬。医療の現場にいると、つくづくそう思う。

 もちろん、薬全般が患者さんにとって悪い影響を与えるという意味ではない。「毒にも薬にもならない」ということわざがあるが、薬自体が「毒にも薬にもなる」場合があるのだ。

 例えば、今の医療の世界では「なるべく処方はシンプルに」というのが常識になりつつある。私が若い頃は、「気持ちが落ち込む?それでは抗うつ薬を4種類、少しずつブレンドして出しましょう」という“合わせワザ”がよく行われていたのだが、今はそれよりもなるべく1種類、多くても2種類を十分な量で処方することが推奨されている。

 しかし、患者さんによってはあまりに単純すぎる処方に、「医者の手抜きなのでは」などと不安を抱く人もいる。「4種類を10ミリグラムずつ」なら抵抗がなくても、「1種類を50ミリグラム」と聞くと「そんなに大量に出して『薬漬け』にされるのでは」と警戒心を持つ人もいる。こういう不安や警戒心が、時として薬の効果を帳消しにしてしまうこともあり、「やっぱりあの医者の出す薬は効かなかった」とか、「かえって具合が悪くなった」ということにもなりかねない。

 「えっ、『これ大丈夫?』と不安を抱くことで薬の効果が落ちるなんて事があるの?」と思う人もいるかもしれないが、実は薬が効く、効かないには飲む側の「こころの問題」も結構関係する。「イワシの頭も信心から」ということわざほどではないが、医師と良い関係が築けている時と不信感がいっぱいの時では、明らかに効果が違うのを感じる。

 ということは、まずは「薬を処方してくれる医師を信頼できるかどうか」が大切なのだろう。話をよく聞いてくれるか。病気や治療についてわかりやすく説明してくれるか。別の医師にも意見を聞いてみる。セカンドオピニオンを希望した時に快く紹介状を書いてくれるか――。信頼の判定ポイントはたくさんある。

 そんな話を、長年の付き合いになった患者さんとしていたら、こんなことを言われた。「でも、その先生を信頼できるか、処方された薬を安心して飲むことができるかって、結局は患者と先生の相性の問題だと思うんですよ」

 「じゃ、その相性はどう決まるのか」などと考え出すとキリがない。患者と医者と薬の関係は、とても大切だけれど、やっぱり悩ましいものなのだ。

2013年12月17日 提供:毎日新聞社