自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)のチームが、原因不明で急激に聴力が低下する「突発性難聴」の患者を対象に、聞こえにくい耳を使ってクラシック音楽を聴き続けてもらう実験をした結果、高い治療効果があることを突き止めた。29日、英科学誌電子版に発表した。
生理研によると、日本での突発性難聴の年間受診率は1万人当たり3人で、増加傾向にある。現在はステロイドでの治療が中心で、チームの岡本秀彦(おかもと・ひでひこ)特任准教授(神経科学)は「安価で副作用のない新たな治療法につながる」と期待している。
耳鼻科医の岡本特任准教授によると、右耳で聞くと左脳、左耳で聞くと右脳がそれぞれ活動する。片耳が難聴になると、正常な耳ばかり使うため、難聴の耳に対応する脳の働きも低下。悪循環でさらに聞こえなくなる。
実験では、発症間もない患者約50人を二つのグループに分類。片方のグループはステロイド治療のほか、正常な耳をふさぎ、難聴の耳で毎日約6時間、クラシックを聴き、日常生活音も全て難聴の耳で聞いてもらった。
約10日後に調べると、左右で25デシベルあった聴力差が7デシベルほどまで縮小。ステロイド治療だけだと15デシベルほど差が残っていた。
約3カ月後には、音楽治療を受けた患者の86%が完治し、脳活動も健常者と同等まで回復。ステロイド治療だけの患者は完治が58%にとどまり、22%は不変か悪化だった。
難聴の耳から積極的に音を送り続けたことで、対応する脳が再び活性化したと考えられる。岡本特任准教授は「安静に過ごすよう推奨されてきたが、難聴の耳をあえて使うリハビリ治療が有効だと分かった」と話した。
※英科学誌は「サイエンティフィック・リポーツ