●日頃から危険度把握
●食生活や喫煙見直し    
         ●症状出たら投薬急ぐ

小渕恵三・前首相の死で、改めて関心を集めているのが脳梗塞(こうそく)。脳の血管が破れる脳出血で亡くなる人は減少傾向にあるが、血管が詰まる脳梗塞で亡くなる人が増えているからだ。が、脳血管が詰まるメカニズムの研究は、1990年代に急速に進み、脳梗塞は「防げる病気」になりつつある。

応接間に行ってみると、左半身がちょっと麻痺(まひ)しているようでした。「トイレに行きたい」とか「水が飲みたい」とか、言葉はよく分かりました。だから私たちもそれほで重大な病気とは思わなかったのです。

前首相の夫人、千鶴子さんが雑誌「文芸春秋7月号」に寄せた手記「夫・小渕恵三『病室』の真実」が、脳血管障害の専門医らの間で話題になっている。

@以前から不整脈が出ていた A倒れたとき左半身が麻痺した B順天堂大学付属順天堂医院に運ばれたのが、症状が出てから3時間以内だった――などが明らかになったことから、「脳塞栓(そくせん)の治療を速やかにしていれば、命を救えたのではないか」という声が上がっているのだ。

杏林大学神経内科教授の作田学氏は説く。「一般 的に脳梗塞と呼ばれる症状には、心臓でできた血栓が脳に運ばれて血管を詰まらせる脳塞栓と、脳の動脈硬化によって血管が詰まる脳血栓とがある」

脳塞栓の場合――。心電図で心房細胞の不整脈が確認されたら、心臓での血液の凝固を予防するワーファリン剤を服用する。半身まひなどの脳塞栓の症状が出た時には、直ちにCT(コンピューター断層撮影装置)で出血の有無を調べる。発症後3時間以内に、血栓溶解剤である「t−PA」を注射すれば、血栓は血液中に溶けて流れる。

小渕・前首相も不整脈が出ていたわけだから、危機管理上、もしこの薬を常時、主治医らが保管していれば、死を免れた可能性もないとは言えない。

脳血栓の場合――。別表のような危険予測指数で、自分の数値をつかんでおきたい。6を超えたら「要注意」。とりあえず脳ドックに入り、MRI(磁気共鳴画像装置)などで、脳の血流検査をする。

血栓の兆候があったら、血小板の凝集作用を弱めるチクロピジン剤などを服用し、予防する。運動や感覚の障害など脳血栓の症状が出た時には、オザグレナトリウムの注射が有効。

脳塞栓も脳血栓も、脳の血管が詰まって起きる症状だが、そのメカニズムが目下解明されつつある。

まず血小板が血管内の皮下組織に付着し、その上にさらに血小板が積み重なって塊をつくり、血管をふさいでしまう。その際、血液中のたんぱく質であるフィブリノゲンやフォンウィルブランドといった因子が働いて糊(のり)を作り、血小板を凝集させている可能性が高い。血栓の仕組みがはっきりすれば、効果 的な予防薬も現れるに違いない。

脳梗塞を防ぐには、まず「喫煙」「脂肪や糖分を過剰に摂取する食事」「運動不足」といった生活習慣を改めたい。不整脈が出たり、脳血栓の兆しがあるようなら、夏場、十分な水分補給をして脱水症状を避ける。冬場は帽子やマフラーで急な温度変化を防ぐことも大切だ。

脳梗塞の予防の研究は刻々と進歩している。ただ、中には最新の研究情報に疎い医師もいる。兆候のある人は、この種の情報に注意し、自己防衛に努めたい。  (編集委員 足立則夫)

(2000.6.24日本経済新聞)