梅毒、なぜか急増 3年で倍、国が注意喚起 検査拡大が必要
古くから知られる性感染症「梅毒」の患者が近年、急増している。2013年は全国で1200人を超え、3年間で倍増した。なぜ今ごろ? その答えははっきりしないが、「昔の病気」という意識もあって自分の感染に気付いていないケースや、治療が不十分で人に広げているケースもあるとみられる。抗生物質で完治する一方、感染した妊婦が適切な治療を受けないと死産や赤ちゃんの障害などにつながるため、厚生労働省が全国の自治体に注意喚起。新たに無料検査を開始した自治体もある。
▽目立つ若年男性
国立感染症研究所のまとめによると、13年の梅毒報告数は1226人(暫定値)で前年(875人)の1・4倍。10年(621人)の2倍近くに増えた。男性が989人(80・7%)と大半を占め、中でも25〜29歳の感染率が高い。妊娠中の母親の胎内で感染し、誕生後に診断された「先天梅毒」も4人いた。
感染経路として、かつては少なかった男性同士での性交渉が急増傾向にあるのが特徴だという。感染研感染症疫学センターによると、地域別では東京、大阪、愛知など大都市圏に多い。
梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌の一種が、主に性行為によって粘膜などから体内に入り込んで感染する。2〜3週間で感染部位にしこりができるなどの症状が出た後、2〜3カ月後に全身に発疹などが出ることが多い。進行すると中枢神経に菌が移行し、後遺症が現れることもあるが、治療法が確立した現代では重症例はまれだ。
治療にはペニシリン系抗生物質が使われ、アンピシリンなどの内服薬を症状の進行度によって2〜数週間飲む。
▽実態とずれ
梅毒は感染症法で全例報告が定められている疾患だが、報告義務を知らない医師もいるため、報告は実際の数を大幅に下回る可能性が指摘されている。
また、予防についても正しい知識が広まっていないという。性感染症に詳しい国立国際医療研究センター国際感染症センターの堀成美(ほり・なるみ)看護師(感染症対策専門職)によると、コンドームの使用で梅毒の感染リスクは減らせるが、完全には防げない。また、リスクが高いことがあまり知られていないオーラルセックスによる感染拡大も懸念されるという。「梅毒が広がりつつあることをまず知ってもらい、可能性がある人に検査を受けてもらうことが第一歩」と堀さんは話す。
▽検査開始
厚労省は4月末、全国の自治体に「梅毒の発生動向を注視し、必要な対策を」と要請する通知を出した。
13年の報告数が44人と前年から倍増した宮城県は、5月から県内の保健所など9カ所で匿名での無料検査を始めた。
「原因ははっきりしないが、梅毒が急増した事実は重大。以前から実施していたエイズウイルス(HIV)、クラミジアの検査に梅毒を追加した」と県疾病・感染症対策室は話す。東京都でも既に保健所などで匿名・無料の検査が受けられる。
梅毒はHIVと一緒に感染すると、両方の症状に悪影響があることが知られている。このため、HIV対策の一環として梅毒検査を受け付ける保健所は他にもある。厚労省研究班がインターネット上で提供する「HIV検査相談マップ」(www.hivkensa.com)の画面で「その他の性感染症の検査」にチェックを入れると検索できるほか、今回の急増を受け自治体が新たに対応する可能性もあるため、近くの保健所に問い合わせてみるのもいい。(共同=吉本明美)
引用:共同通信社 2014年5月27日(火)