ピロリ菌除菌療法
2014日本消化器病学会
オーストラリアのロビン・ウォレン(J. Robin Warren)とバリー・マーシャル(Barry J. Marshall)により発見されたヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)菌は、胃に生息する細菌で、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALT リンパ腫、胃癌などと密接な関係のあることがわかっています(表1)。この菌の発見で、彼らは2005年、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
現在、日本人の半数程度がピロリ菌に感染しているといわれています。菌に感染して一部の人が潰瘍やがんになります。菌の種類と感染した人の体質により、起きてくる病態が違うからです。2013年2月より、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎全体に保険適用が可能となりました。
ピロリ菌の感染を調べる検査には、大きく分けると胃内視鏡検査で粘膜を採って調べる方法と、胃内視鏡検査をせずに、血液や尿、呼気(吐いた息)で調べる方法があります。
実際の除菌にはプロトポンプ阻害薬(胃酸分泌を抑える薬)と抗生物質を1週間服用します(表2)。プロトポンプ阻害薬で胃酸の分泌を抑えておいてから抗生物質でピロリ菌を除菌します。使用される薬や似通った薬、特にペニシリン系の薬にアレルギーのある方は、この方法では除菌できませんので担当医にご相談ください。服用終了後から約1ヶ月後以降に除菌療法の効果の判定を行いますが、1ヶ月程度だと検査結果が偽陰性(菌がいるのにいないと判定されること)になることがあり、半年以降に判定したほうがいいという意見もあります。この方法による除菌率はわが国では、70〜90%と報告されています。最初の除菌療法でうまくいかなかった場合は、違う薬を使って再度除菌療法を行うことができます。この方法により、さらに90%以上の方で除菌が可能であったと報告されています。
除菌療法の薬を服用中、軟らかい便や下痢、口内炎、味覚異常などの副作用が約10%の人にみられます。症状の軽い場合は、そのまま除菌療法を続行しますが、発疹、発熱、強い腹痛、血便など、症状がひどい場合は処方医との相談が必要です。これらを考慮し、安全に除菌が行われれば、除菌療法は今まで再発に苦しんできた潰瘍患者に多いなる利益をもたらすとともに、維持療法(潰瘍が治った後も、再発予防のために薬を飲み続けること)が必要でなくなるなどの効果があります。 また、胃癌の発生も低く抑えられることが知られております。 ただし、除菌治療を中途半端でやめたりすると、ピロリ菌が薬に対して耐性をもち、次に除菌しようと思っても薬が効かなくなるおそれがありますので、必ず医師の指示通りに薬を飲むことが必要です。
除菌が成功した場合、必ずしもいいことばかりではないといわれています。わが国で、除菌後に逆流性食道炎が新たに発生、または増悪する方が10%前後いるという報告があります。また、除菌成功後に、肥満やコレステロール上昇など、生活習慣病の出現が危惧される病態の発生も報告されていますので、注意しましょう。
A: ピロリ菌除菌治療が勧められる疾患
● 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
● 胃MALT リンパ腫
B: ピロリ菌除菌治療が望ましい疾患
● 早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)後胃
● 萎縮性胃炎
● 胃過形成性ポリープ
C: ピロリ菌除菌治療の意義が検討されている疾患
● 機能性胃腸症(FD)
● 胃食道逆流症(GERD)
● 消化管以外の疾患(特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹、レイノー現象、虚血性心疾患、偏頭痛、ギランバレー症候群など)
表2. ピロリ菌除菌療法の処方
初回除菌療法
1. ランソプラゾール(30mg) 1Cap
もしくは、オメプラゾール(20mg) 1 錠
もしくは、ラベプラゾール(10mg) 1 錠
もしくは、エソメプラゾール(20mg) 1 錠を1 日2 回
2. アモキシシリン(250mg) 3Cap(錠)を1 日2 回
3. クラリスロマイシン(200mg) 1 錠または2 錠を1 日2 回
以上1-3 の3 剤を朝、夕食後に1 週間投与する。
上記が不成功であった場合の再除菌療法
1. ランソプラゾール(30mg) 1Cap
もしくは、オメプラゾール(20mg) 1 錠
もしくは、ラベプラゾール(10mg) 1 錠
もしくは、エソメプラゾール(20mg) 1 錠を1 日2 回
2. アモキシシリン(250mg) 3Cap(錠)を1 日2 回
3. メトロニダゾール(250mg) 1 錠を1 日2 回
以上1-3 の3 剤を朝、夕食後に1 週間投与する。
提供:日本消化器病学会