栄養分アップ
消化促進、肌荒れ防ぐ

ミカンやリンゴなどを皮ごと焼いて食べる――。
こんな健康法が注目されている。焼くことで皮に含まれる栄養分が果肉に浸透し、果肉の栄養分が高まるためだ。作り方は簡単であり、一度試してみる価値はありそうだ。


「貧血気味だったが、焼きミカンを食べるようになって朝の目覚めがよくなった」。都内に住む29歳のOLは明るい表情で語る。焼きミカンの作り方は、表面についているワックスを取って、焼き網やフライパンで焼くだけ。皮ごと食べられる。熱することで皮の有効成分が果肉に浸透するという。
漢方でも活用
ミカンの皮にはどんな力があるのだろう。漢方ではミカンの皮は陳皮(乾燥させた未熟果の皮)として用い、「胃のもたれやみぞおちのつかえ、消化不良などに効く健胃剤となる。陳皮を煎じるとセキ、タン、風邪、ぜんそくなどのどの病気に良い」(金成俊・北里研究所東洋医学総合研究所薬剤部副部長)という。
皮に含まれるナリンギンという成分が腸のぜん動運動を活発にし、消化吸収をよくし、中枢神経を鎮静させたり、のどの炎症を抑えるのに一役買う。
そのほか、発がん抑制作用のあるというオープラテン、β(ベータ)カロチンも含み、美肌効果で知られるビタミンCは果肉の3倍もの含有量がある。皮を焼くときに揮発され、よい香りを漂わせるリモネンには神経を鎮める効果もあるとされる。ビタミン、ミネラルが豊富な果肉に加え、皮も食べれば栄養分が増すというわけだ。
また、就寝前に焼きミカンを湯や酒に入れて飲めば、体が一層温まり、よく眠れる。お湯に焼きミカンを入れ、箸(はし)やスプーンでまんべんなくミカンをつぶし、汁を出して、ドロドロになったものを全部飲む。好みでショウガ汁を加えてもよい。一合(180cc)ほどの熱燗(あつかん)にした日本酒を同様にして飲めば、酒との相乗効果で焼きミカンの有効成分が一層早く吸収される。
「果物の皮を捨てるのはもったいない」と話すのは「焼き果物健康法」の提唱者、徳島大学薬学部助手の村上光太郎薬学博士。「皮に含まれる栄養分まで十分吸収することで、新陳代謝や血液の循環も良くなり、生理不順、貧血、冷え性、肌荒れ、腰痛などに悩む人も症状が改善されることが多い」という。
低カロリー魅力
実は、焼きミカンは健康の知恵として日本人の生活に古来から取り入れられていた。正月飾りなどを燃やす左義長の際に餅などと一緒にミカンを放り込んで焼き、皮ごと食べる風習は全国各地にある。底冷えのする京都では、参拝客に風邪封じとして焼きミカンを振る舞う神社や寺もある。
焼くと栄養分が多く摂取できる果物はミカンだけではない。ペクチン、ポリフェノール、カリウム、リンゴ酸、ビタミンCなど健康にいい成分が豊富なリンゴ。特に腸のぜん動運動を活発にするペクチンは熱を加えると分子量が小さい形に変化し、吸収力がさらに上がる。肌荒れや便秘に悩む女性には欠かせない食物繊維だ。
焼きリンゴはカロリーが低い割に満腹感もあるから、ダイエットに利用してもいいだろう。
市販の焼きリンゴは芯(しん)をくりぬき、形を崩さずきれいに作っているが、家庭で食べるには皮をよく洗って、4つ切りにして、芯を取れば十分。ミカン、リンゴとも酸味の強い種類の方が焼いたときに甘みが増す。耐熱皿に入れラップをかけて、電子レンジで5分ほど熱すればよい。
ただし、皮にはポリフェノールの一種であるアップルフェノンが多く含まれているので、むいてしまってはもったいない。
低カロリーでミネラル、ビタミンが豊富なバナナも焼くと甘みが増すだけでなく、オリゴ糖の急増でビフィズス菌が増え、腸内が清掃され、便秘や肌荒れも和らげるという。皮つきでも、皮をむいて焼いてもいい。もっとも皮自体は苦いため、食べない方がよい。
ミカン、リンゴ、バナナは日本でも一世帯あたりの消費量の多い果物。「これらを焼くことでさらに果物のパワーを引き出せる手軽な健康法となる」(村上氏)。身近な食材を一工夫することで、日常の健康管理に役立てたい。

【焼きミカンの作り方】

表面のワックスを取るため、ミカンを摂氏40−50度のお湯に1分ほどつけ、ミカンの表面を布でふく
@ガスレンジの上に焼き網をのせ、焦げ目がつくように適当にひっくり返しながら、全体をまんべんなく焼く
A焦げ目がついたら、火を止め、温かいうちに食べる
※そのほか、アルミホイルにくるんでオーブンレンジに入れて焼いてもよい。いずれも焦げ目がつくのが目安     

【焼きバナナの作り方】(2通り)

A:バナナを皮つきのまま、ガスオーブンに入れ、4、5分(電子レンジは1分程度)焼き、片側が黒くなったら、ひっくり返し、両面に焦げ目をつける
B:バナナの皮をむき、少量の食用油を熱したフライパンにのせ、両面に焦げ目をつける

 

2003.9.13日本経済新聞