歯並びやかみ合わせが気になるのに、矯正治療をあきらめている大人が意外に多い。「矯正は子どものうちに」という先入観があるからだ。実際にはどうなのだろうか。
「条件次第で矯正は何歳でもできる」というのは尾崎矯正歯科クリニック(東京・豊島)の尾崎武正院長。63歳の女性の歯を治療した例もあるという。 |
歯の長持ちにも
矯正が望ましいのは、いわゆる出っ歯(上顎=がく=前突)、受け口(反対こう合)、歯並びがでこぼこの乱ぐい歯(叢生=そうせい)、前歯が閉じない開こうなどが代表的。歯並びが悪いと歯が磨きにくく、虫歯や歯周病になりやすい。劣等感を抱える人もいる。
東京医科歯科大学大学院の相馬邦道教授は「中高年でも適切なかみ合わせにすれば、歯に大切な歯根膜やあごの筋肉がしっかりして、歯も長持ちする」と話す。かみ合わせが悪いと、あごが痛むなどの顎関節症になる可能性もある。
大人と子どもの最大の違いは、子どもはあごの骨が成長過程にあること。このため、小学生に対しては骨の成長をコントロールするなど、大人とは違った対応もする。大人は歯が動き出すのが遅いが、骨の成長を見ながら治療する必要はないため、「全体の治療期間は子どもと大差ない」(相馬教授)。
大人の矯正が難しいケースも確かにある。例えば、@歯ぐきが重い歯周病にかかっているA残っている歯が少ないB歯の根の部分である歯根が短いC顎関節症が重い――などの場合だ。しかし、日本大学の清水典佳教授は「他の分野の医師と連携して対応できることが多い」話す。あきらめず医師に相談してみよう。
矯正する場合、初診で概要説明があり、次にレントゲン撮影や歯型を取るなどの検査を受ける。適切なかみ合わせにするため、あごの動きやかむ力を検査する病院も増えている。
矯正はマルチブラケットという器具を使うのが一般的。歯に装着して針金などで少しずつ力を加え、歯を支える歯槽骨を進行方向に溶かして歯を動かす。それまで歯のあった場所には新たな歯槽骨ができる。
マルチブラケットと歯の接点はこれまで金属性が中心だったが、最近は透明な樹脂やセラミックなど目立たないものが登場している。首や頭にバンドをかけて歯を引っ張る「ヘッドギア」を使う場合もある。
骨の手術や抜歯
受け口などで、あごの骨が著しく変形している場合は、あごの骨を切るなど外科手術を併用することもある。歯科矯正は基本的に健康保険が使えないが、こうした場合は保険の対象だ。
矯正のため、歯を抜くことも少なくない。清水教授は「抜歯を悪く考える人もいるが、あごに対して歯が大きすぎる場合は、歯を抜かずに治療すると、口元が前に突き出たようになりがちで後戻りも多い。抜いた方がいいことが多い」と説明する。
一方、尾崎院長は「矯正を考えている人は第三大臼歯(親知らず)を抜く前に、矯正歯科に相談すること」と促す。歯ぐきに埋まっている場合でも、矯正に利用できることがある。
矯正期間は1年半−2年半が目安。マルチブラケットの調整などで月1回程度通院する。さらに1、2年は保定装置という器具を入れ、3カ月に一回ほど通院が必要だ。
治療費は、医療機関による違いが大きい。東京医科歯科大は基本料に検査、器具などの費目を積み上げる方式で、通常は総額で70万円台。「国立の大学病院はほぼ同じ」(相馬教授)。私大の日本大学歯学部付属病院では、矯正治療費総額は75万円から。矯正開業医も地域や症例などで違うが、60万−100万円が目安という。支払い分割できる場合が多い。
大学病院は設備が充実しているほか、複数分野で連携した治療が受けやすい。開業医には、休日も開業するなどきめ細かい対応してくれるところもある。
相馬教授が会長の日本矯正歯科学会では、独自の認定医をサイト(http://www.jos.gr.jp)に掲載。開業医主体の日本臨床矯正歯科医会(植木和弘会長)はサイト(http://www.kyouseishika-ikai.gr.jp)で会員を紹介している。
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