「ピラティス」というエクササイズをご存知だろうか。米国の有名女優が相次ぎ始めたことで評判を呼び、日本にも波及。専用の教室も増えるなど、注目を集めるトレーニング法だ。体の内側の深い筋肉を鍛え、正しい姿勢を導くことを目指しており、激しさとは無縁。マットかバスタオル1枚用意すれば、老若男女を問わず体験できる。
時に座った姿勢で、あるいはマットの上で寝ながら、1つずつ、じっくり体を動かす。フィットネスクラブ、ティップネス木場店(東京・江東)で始まった「マット・ピラティス」のスタジオは、エクササイズとは思えないほど、静かな空気が流れる。
手足を左右に広げ、汗を飛び散らせるエアロビクスに比べ、一見驚くほど動きは少ない。ただ、「内臓周辺の筋肉を使っているようで、なんとも表現できない汗が噴き出してきた」とは、初参加の南雲豊さん(32)。全34店でカリキュラムを組むティップネスは、「年齢を問わず、教室を利用する人が着実に増えている」と話す。
運動の種類500超す
ピラティスは、ドイツ人のジョセフ・ピラティスが1920年代に開発。「流派」によって異なるが、専用器具を使う方法も含め、運動の種類は500−700に上る。スタジオ経営のほか、ティップネスのアドバイザーもこなすインストラクターの石川英明さんは、「いずれも腹部の深層筋や背骨周辺といった筋肉を鍛え、自分で正しい姿勢に整える。例えるならセルフ整体」と表現する。
現代人は、長時間イスに座って仕事をするといった偏った姿勢を続けることが多く、肩が上がる、猫背になるといった"ゆがみ"が出る。左右いずれかの筋肉が強くなることもあり、中京大の湯浅景元教授は「筋肉のバランスの改善に有効」と評価する。
さて、具体的なトレーニング法だが、すべての基本となる重要な2つの点を忘れないようにしよう。まず骨盤が正しく傾き、背骨が自然なS字描く「ニュートラル」と呼ぶ基本姿勢を作る。もう1つが呼吸法。ろっ骨を広げる感覚で鼻から吸い、へそを背中につけるように、骨盤と筋肉を引き上げながら口から息を出す。
力抜いた自然体で
基本姿勢は、足などに余分な力が加わらない、あおむけに寝た姿勢で感覚を覚えるのが比較的簡単。力を抜いてイラストのような体勢を作ってみよう。多くの運動は、ここから始まる。「立っても、歩いても常にニュートラルになれば、バランスが悪いことで生じる肩こりや腰痛などが改善される」(ピラティススタジオBODYMODEのインストラクター、山口実由紀さん)
初心者が始めるなら、マットを使う一連の動きが手軽だし、家庭でもやりやすい。寝転んでも痛くないよう、マットがなければバスタオルを用意する。たくさんあるピラティスの運動の一例をイラストに掲げてみた。いずれも「力こぶが盛り上がるような体形に仕上げるのはなく、ストレッチと強化を同時に手がけることで、量は変えずにしなやかで効率的な筋肉にする」(石川さん)ことを目指しており、繰り返す回数は少ない。
効果をより発揮するには、「意識を集中し、どこを動かしているのか、常に頭の中でイメージしながら行うことが大事」と、スタジオ、ピラティスムーブメントスペース主宰の酒井里枝さんは強調する。ピラティスは本来「人によってわずかに異なる体格に合わせるため、インストラクターと生徒が1対1で行う」(石川さん)のが理想。体に鋭い痛みが走るような場合、無理せず見送ろう。
基本を守り続けて
弾みを付けて動かすこともダメで、一連の流れを意識する。ティップネスでは1つのレッスンが30分、各インストラクターは1時間程度に設定しているが、家庭ならば時間をそれほど気にすることなく、続けることが求められる。
山口さん、酒井さんは解説書を出版している。石川さんも含めホームページで情報提供しており、さらに多くの運動が分かる。(石川=http://www.hidenasu.or.tv
山口=http://www.bodymode.jp 酒井=http://www4.ocn.ne.jp/~pilates)
4カ月間レッスンを続ける内山弘子さん(20)は、「最初はとまどうかもしれないが、何度かすれば動きは覚えられます。姿勢もよくなった」と話す。自分のペースで、基本通りにすれば、少しずつが整ってくるそうだ。
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