食生活や肥満の改善によって、がんで死ぬ人の3割が予防可能とされる。脳卒中や心臓病などの循環器疾患は動脈硬化が主な原因であり、高脂血症や高血圧症、糖尿病、肥満などが動脈硬化を招く。

食事はこれらに大きくかかわっている。日本人の3大死因はがん、心臓病、脳卒中で食生活の改善が健康長寿への第一の道といえる。貝原益軒も「養生訓」で「病は口より入(いる)」と、食生活の重要性を説いている。

脳卒中や心臓病の要因である糖尿病をみると患者が急速に増えている。推計では「糖尿病が強く疑われる人」が7百万人、「糖尿病の可能性が否定できない人」も合わせると1400万人とわれる。中年になっておなかが出てくるタイプの肥満に悩まされている人は多い。おなかの脂肪は肝臓で代謝されやすく、エネルギーを蓄えるには好都合な組織だ。

人類は獲物を追って暮らす狩猟生活を長らく続けてきた。大きな獲物が捕れれば大量に食べて捕れないときに備える、飽食と飢餓を繰り返す狩猟生活では、余分なエネルギーを効率よく腹部に脂肪として蓄積できる能力が、生きるために非常に有利なものだった。

黒い髪、黒い瞳、黄褐色の肌を持つ日本人などのモンゴロイドの中には、その昔ベーリング海峡渡り極北のアラスカの地に移動した人々もいれば、アメリカ大陸を南下してアマゾンの熱帯雨林に住むようになった人たちもいる。
飢餓の時に消費エネルギーを節約できる特別な遺伝子(節約遺伝子)を持ち、おなかに脂肪をため込む能力を持つモンゴロイドは、様々な環境に耐えることができた。

日本では欧米に比べて肥満者はまだ少ない。しかし、わずか肥満でも脂肪はおなかの中にたまり、過剰に蓄積すると糖尿病の原因となる。先進国の中では圧倒的に脂肪の摂取量が少ない日本人の食事が若い世代などで欧米風に変化して、男性を中心に肥満が増えている。

糖尿病患者がさらに増えるとみられる今日、高脂肪食や食べ過ぎを避けて肥満防止に努めることが必要だ。
(国立長寿医療センター疫学研究部長 下方 浩史)

2004.5.2 日本経済新聞