第17回保団連医療研究集会
「医科・歯科隣接医学〜歯周病を見直す〜」
特別講演 横浜市中区開業
丸森歯科医院院長 丸森 英史氏




私が所属するスタディグループ「横浜歯科臨床座談会」では、多くの歯科医師・スタッフが共に臨床での様々な症例をディスカッションしているが、その中で歯周病と全身の関連性、特に糖尿病との相関関係について手応えを感じ、明確にしたいという気持ちが高まっていた。そのような時期にHECサイエンスクリニック所長(神奈川県保険医協会理事長・第17回保団連医療研究集会実行委員長)の平尾絋一氏よりお誘いいただき、医科・歯科共同の研究を行い、ひとまずの結果が出たので報告したい。

今回の研究目的では、歯周組織の病態が臨床症状としてどのように現れているか、またブラッシング指導後の歯周組織の変化をモニターし、血糖コレステロールの状態との関連を探ることを目的とした。

調査対象はHECサイエンスクリニックの糖尿病患者から募集、16名を選定した。調査期間は2001年1月18日から6月23日までの約半年間。月1回・1時間の口腔内診査とブラッシング指導の介入研究を行った。

幾つかの仮説の基に行われた研究であったが、Probing(歯肉ポケットの深さ)と出血点数等の歯周病の因子と、糖尿病の主要な因子との相関は罹病年数が最も寄与率が高く、出血点数はHbA1cの値との相関がその次に大きな値を示した。つまり今回の研究では歯周病の病態で見ると、出血点数はHbA1cの高い人ほど多く、HbA1cと糖尿病罹病年数が相関していることが示された。

ブラッシング指導の介入効果は歯肉のポケットの深さ、赤染め、出血点数等で顕著にみられた。血糖値の変化はないがHbA1cが7.0%以上の人の月別推移に注目すると、介入期間中に血糖コントロールの改善があったことを示している。歯周病組織の改善が血糖値の改善に繋がった可能性も考えられるが、今回はそれを直接示唆するデータは得られていない。今回は月1回の介入で半年に及ぶ期間であるので患者生活環境に与える影響は充分に考慮するべきであろう。ブラッシングの定着に従い食事習慣も規則的になる傾向があり、今回もその生活改善が血糖値の改善に繋がっている可能性は大きいと思われる。毎回の検診の折りに食生活の問診や指導が行なわれており、食生活の内容やリズムの改善に寄与していることが今回の研究のアンケート調査から推測される。これには歯科保健指導のあり方が口腔内の健康から全身への健康へ寄与しうることを示唆しているものと考えられる。その為の歯科保険指導のあり方もこれからの検討課題であり、医科と連携を強化しなければならないと考えている。

糖尿病が歯肉の色調に影響を与えているという仮説を立てたが、今回の研究では検証することが出来なかった。歯科の研究でも糖尿病において細小血管症が歯肉の微小循環系にも影響を与えている事が示唆されている。糖尿病患者における血糖コンとロールの不良が口腔粘膜の微小循環に影響を与え細小血管症を起こし初期には血管が拡張する所見が特徴的であるが、合併症が進むにつれ係蹄数が減少し低酸素状態になると推測されている(森本光明 糖尿病患者口腔粘膜における微小循環異常に関する研究 歯科学報 1997)。今回も歯肉の色調の変化は得られたが一部に止まり、仮説の再検討と研究方法の改善が必要とされた。

今回の共同研究を振り返ってみて、臨床家のレベルで医科と歯科の共同研究が行われた所に大きな意義を感じている。口腔内の病因がどのように全身の疾患に影響を与えているかとの相関関係の解明と共に、健康への取り組みへの具体的な共同歩調の取り方もこれからの検討課題と思われる。

最後に、今回の共同研究にボランティアで参加いただいた方々、またこのような機会を与えてくださった平尾絋一先生に心より感謝の意を表したい。

2003.2.5 神奈川県保険医新聞