ストレス引き金 早めにケア・休養
ひところと異なり、年代にかかわらず陥ることがあるうつ病の方が深刻になってきた。心の健康を保つための心がけと職場でのうつ病対処法を探った。
都内に次々とできるオフィスビル。案内板には外資系や大手企業の名称に寄り添うように「メンタルクリニック」「心療内科」の文字も並ぶ。
「複雑な人間関係や仕事上の要求など、個人への負荷は高まっている」。精神科医でもある東京経済大学経営学部教授の島悟さんは会社員を取り巻く環境は厳しさを増している、と話す。
要注意なのは昇進・異動で環境が変化した後。今の時期、責任が重くなったり職種や人間関係が変わったりして、仕事がうまくいかなくなることが少なくない。ストレスがたまりやすく「昇進とうつという言葉があるほど」(島教授)という。
いわゆる「五月病」は主にフレッシュマンが入社を果たしたところで目的を見失って無気力になったり、環境に適応できずに悩んだりするもの。はやる気持ちの裏返しという面があったが、こちらの"新五月病"はちょっと違い、小さな環境の変化でも引き金になるようだ。
本来中高年に多いうつ病だがストレスの増加などに伴って若年層にもみられるようになっている。厚生労働科学特別研究事業によると、成人の14−15人に1人が生涯に一度はうつ病になっており、潜在的な数はその数倍ともいわれる。
気持ちが落ち込むだけでなく、焦燥感やひどいイライラ感、不安感、肩こりや睡眠障害、食欲不振などの身体症状も目立つ。まじめで責任感が強い人ほど滞った仕事を片づけようと頑張りすぎる。休日出勤や残業を繰り返してしまい、うつ病を発症することは少なくない。
「2週間以上睡眠障害が続いたら、受診した方がいい」と早期の受診を勧めるのは昭和大学医学部精神科教授の上島国利さん。産業医か精神科医を訪れる。
精神科に抵抗を感じる人は少なくないが、うつ病は神経伝達物質が行き来する量が減る脳の病気ととらえられ、軽症なほど早く治る。「気軽に精神のケアとして精神科を訪れてほしい」と上島教授はいう。
うつ病と診断されたら上司にきちんと報告する。「リストラの対象になる」「昇進の妨げになる」などと恐れて隠すのは論外。朝がつらくなるといった傾向があるので、上司に断って出社時間をずらしたり、仕事量を軽減したりといった対策を講じよう。
再発しないようにするには、どのくらいのストレスを受けると調子が悪くなるのか、を自己管理することが求められる。「顔色が悪いけれど大丈夫?」といった家族のチェックも欠かせない。
一方、管理職の立場にある者としては、うつ病はだれもがなりうる病で、投薬や休養、カウンセリングで治るといった正しい知識を持つことが求められる。その上で、ミスや欠勤が増えた部下がいないか、周囲に目を配る。
声が小さくなった、机上が雑然としてきたといった変化も早期発見につながるという。また、特定の部下にばかり負荷をかけすぎたり、厳しくあたったりしていないかと省みることも大事だ。
異変がみられる部下には面接と専門医への受診を勧める。上島教授は「むやみな激励やはれものに触るような気遣いは逆効果」という。仕事の負担を軽減して休養をとらせるのが重要。休職中は本人にメールや電話はしないようにとアドバイスする。用事は家族に連絡し、本人を焦らせないようにする。
職場からの離脱は本人、会社ともに大きな痛手となる。島教授の中小規模の事業場を対象とした調査では精神障害による疾病休業率は0.79%で、平均休業月数は5.2カ月だった。
また、精神障害による1カ月以上の疾病休業の総人口数は47万4千人と推定され、逸失利益は賃金ベースで年間約9,469億円にのぼるという。定期の健康診断などではとらえにくい病。早め早めのケアを心がけたい。
あなたは大丈夫? うつ病のセルフチェック
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@一日中憂うつ
Aほとんど何にも興味を持てず、今まで楽しめたものも楽しくなくなった
B食欲がない、反対に増加していた(または体重の増減が1カ月間に±5%以上あった)
C寝付きが悪かったり夜中に目が覚めてしまった。または逆に寝過ぎるようなことがあった
Dいつもに比べて話し方や動作が鈍くなった。または静かに座っていられないほどいらいらした
E疲れや気力の無さを感じた
F自分に価値がないと感じたり、罪の意識を持ったりした
G集中したり決断したりするのが難しい
H自分を傷つけるとか自殺すること、死んでいれば良かったのにと繰り返し考えてしまった
・(3以降の項目と関係なく)1、2どちらにも該当しなければうつ病ではない
・1、2いずれかを含み、合計5つ以上当てはまる場合は早めに受診を
(上島教授による監修) |
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