ぜんそく改善 風邪にも強く

鼻から吸って鼻から吐く。この呼吸の基本スタイルを忘れてしまった人は意外と多い。口呼吸だと細菌やウイルスへの抵抗力が弱り、風をひきやすくなる。鼻呼吸法をマスターして、病気になりにくい丈夫な体に鍛えよう。

「元気に走り回る孫と一緒に遊ぶことができるようになった。泊りがけの旅行ももう平気」と語るのは岡山県真備町に住む主婦の松田美子さん(仮名、58)。約10年前から、発作が起きると家事ができなくなるほどの思いぜんそくに悩まされてきたが、児島市民病院(倉敷市)への入院治療をきっかけに、症状が大きく改善した。

3週間の入院期間中に松田さんが特訓させられたのが、鼻呼吸だ。まず、点鼻薬を使って鼻づまりを解消。その後、日中は食事や会話中を除き意識して口を閉じるよう教わった。背筋をピンと伸ばし姿勢をよくして腹式呼吸を心がけると、意識しなくても比較的簡単に鼻呼吸が身につくことがわかった。就寝時は紙の立体マスクやぬるま湯で軽く湿らせた布製マスクをし、あおむけで寝るようにした。

児島市民病院の斎藤勝剛院長によると「重症なぜんそく患者の8−9割が口呼吸している」。松田さんのように鼻呼吸を正しくできるようになるだけで、発作がほとんどなくなるケースも少なくないという。約120人を対象とした同病院の追跡調査で、退院後も鼻呼吸ができていればぜんそく治療で一般的な吸入療法で発作はほとんど出なくなることもわかった。

鼻呼吸の効用は、ぜんそく患者だけにとどまらない。日本人の場合、気づかぬうちに口呼吸している人が多いと言われており、健康を損なう一因になっている。どうして口呼吸はいけないのか。

鼻から入った空気は鼻腔(びこう)にある粘膜や鼻毛を通過することで、細菌やウイルスなどの異物が除去されてきれいになる。冬場の冷たい空気でもセ氏30度以上に温められるほか、湿度も90%程度と「人体にとってほぼ最適な状態になる」(斎藤院長)。人間にとって鼻はにおいをかぐだけでなく、気管や肺に対する空気の悪影響を最小限にとどめる機能を果たしている。

ところが口で呼吸すると、異物を含んだ冷たく湿度の低い空気がそのまま気管や肺に取り込まれてしまい、細菌やウイルスが増殖しやすくなる。ぜんそくの発作が起きやすくなったり、風邪にかかりやすくなったりするのはこのためだ。

鼻呼吸によって花粉症やアトピー性皮膚炎などの症状が緩和すると主張する元東京大学医学部講師の西原克成・西原研究所(東京・港)所長は、口呼吸の弊害に@のどが痛くなるA口の中が乾き細菌やウイルスが侵入しやすいBだ液が出にくくなり消化機能が低下、歯周病なども起きやすくなる――をあげる。

一度身についてしまった口呼吸を直すにはどうすればいいのだろうか。

常に口を閉じるよう意識するのが第一歩。口呼吸だとどうしても口の回りの筋肉が緩みがちになるが、ガムを1回1時間、1日3回かむことで口を開けずに済む癖がつくようになる。

睡眠時は市販の矯正器具の助けを借りるのが得策だ。シリコンゴム製の大人用おしゃぶり(価格は5千円前後)を口の中に入れておくと、睡眠中も口を閉じたままでいられる。鼻孔を大きくする鼻に装着する専用器具(同2万円前後)もある。雑貨店や通信販売で購入できる。薬局で売っている紙製の粘着テープを、閉じた唇の上から張って寝るのも1つの手だ。

最近は、小さな子供の間でも口呼吸が増加中。茨城県日立保健所(茨城県日立市)が実施した調査だと、2歳−未就学児の2割以上が日常的に口を開けていた。同保健所は、歯科医師らの指導のもとで、鼻呼吸を呼びかけるパンフレットを作製し啓発活動を始めた。自分の呼吸が正しいかどうかは、なかなかわかりづらいもの。鼻呼吸か口呼吸か。健康維持のためにも、家族みんなでチェックし合うのが大切だ。

口呼吸を見分ける10のチェックポイント

1 朝起きた時、のどがひりひり痛む
2 食べる時、くちゃくちゃと音をたてる
3 いつも唇がかさかさしている
4 下唇が上唇より分厚い
5 他人からよく口が開いているといわれる
6 片側の歯でかむ癖があり、かみ合わせも悪い
7 前歯が出ていたり、歯にすき間が多い
8 上下の歯のかみ合わせが逆になっている
9 いびきをかいたり、歯ぎしりをする
10 横向きやうつぶせで寝る

(西原所長の資料より作成。1つでも当てはまると要注意)

ひとくちガイド

≪本≫
◆呼吸法も関係する体の免疫機能を知るには
『究極の免疫力』(西原克成著、講談社インターナショナル)

≪ホームページ≫
◆鼻呼吸の利点と口が開く弊害を記したパンフレットを見るには
茨城県日立保健所(http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/hoken/hitathc/)
2005.3.20 日本経済新聞