まずアレルギー源特定
体質改善へ免疫療法

スギ花粉などによる花粉症に毎年苦しむ人には、春からの飛散シーズン到来が今から憂鬱だろう。目のかゆみやくしゃみなど症状が悪化してからでは打つ手が限られる。それだけに、対症両方ではなく、体質改善によって症状を緩和させる通 年治療が注目されてきている。

例年、春先になると国民の10人に1人ぐらいがスギ花粉によるアレルギー症状に悩まされる。秋のブタクサなどによる花粉症も知られ、今や国民的な病気といっても過言ではない。半ばあきらめている人も多いようだが、1964年にスギ花粉症の症例を報告した神尾記念病院(東京・千代田)の斎藤洋三顧問は、「スギ花粉症は予測のもとにきちんと対応できる病気になった」と強調する。

季節ごとの花粉症治療(スギ花粉の場合)
前年10月までに
検査でアレルギー源を特定
免疫療法(減感作療法)
鼻中隔湾曲症や粘膜肥厚を直す
1月(発症前)
花粉飛散前の抗アレルギー薬投与
2月(発症後)
症状を緩和する内服薬や点鼻薬

まず必要なのは、検査を受け、花粉症を引き起こしているアレルギーの原因(アレルゲン)を特定することだ。耳鼻咽喉科で血液検査を受ければ、一週間程度で結果 が分かる

本人が自覚している以外に、ヒノキやヨモギといったスギ以外の花粉、家のほこり、ダニなどをアレルギー源としてあわせ持っていることがわかるかも知れない。原因がはっきりすれば、対策をとりやすくなる。

原因が特定されると、その花粉が本格的に飛散する約2週間前から抗アレルギー薬を用い、備える。関東地方のスギ花粉なら1月上旬から薬を服用し始める、といった具合だ。最近は内服薬や点鼻薬の開発が進み、持続性、即効性に優れ、眠気などの副作用も少ない薬が増えてきた。

薬を使っても日常生活に支障を感じるほどの人には「減感作(げんかんさ)療法」と呼ばれる免疫療法が有力だ。検査で特定したアレルゲンのエキスを少量 ずつ体内に注射し、体を徐々に慣らしていく方法だ。

花粉飛散期に薬を使う対症療法に対し、「免疫療法は根治療法に近い。これで50−60%の患者が根治に近づく」(東京・練馬の小山耳鼻咽喉科医院の小山英明副院長)という。

免疫療法は、治療開始当初は週1回以上は注射を打たなければならない。また、効果 が表れ始めるのには少なくとも3ヶ月かかるので、来年春のスギ花粉シーズンに向けて治療を始めたい人は、すぐに耳鼻科に相談したほうがいい。

注射の費用は1回当たり数百円程度で、頻度は次第に3週に1回ぐらいで済むようになるが、根本的に直すには「治療は3年以上の長期にわたると考えておいたほうがよい」(小山医師)。小学生以上なら治療を始められるが、取り組んでいる医療施設は大きな病院や一部耳鼻科医院などあまり多いとは言えない。

また、日本で治療に使われている花粉エキスはスギ、ブタクサ、アカマツなどに限られる。鳥居薬品は1月、成分量 のばらつきをなくしたスギ花粉エキスの販売を始め、治療効果の向上が期待される。

このほか、アレルギー体質以外に鼻の内部構造が花粉症の症状悪化につながっているケースもある。例えば、鼻中隔湾曲症で鼻の内部の骨が変形していると、空気が通 りにくいほか、花粉が鼻の内部でたまりやすくなる。こうした人は耳鼻科で矯正手術を受け、鼻の通 りを良くしておくのがよい。その場合、通常は一週間程度の入院が必要になる。入院費を除く費用(本人2割負担分)は社会保険で約12万円だ。

鼻の粘膜が厚いことも、鼻づまりの原因になる。レーザーで粘膜を焼き、鼻腔の容積を広げることで症状を軽減させる簡単な手術がある。治療後、2、3日は安静にしたほうがよいが、外来で済む。

スギ花粉の飛散予測をまとめている日本気象協会によると、「猛暑の翌年は花粉が大量 に飛散する傾向があり、来年も飛散は多くなりそう」とみている。日本アレルギー協会の奥田稔会長(日本医科大名誉教授)は、「予報にも注意して先手の対策をとることが大切。独り善がりの対策でなく、まず医師に相談して検査と適切な治療を受けてほしい」と言っている。

(2000.10.21日本経済新聞)