座禅にはともすれば厳しい修行のイメージがつきまというが、寺院が主催する座禅会では若い女性の姿も目立つようになってきた。「気分が引き締まった」との感想に加え、「美容と健康にもいい」といった声も。とかくストレスのかかる現代社会。自宅での日常生活にも、座禅のエッセンスを取り入れてみよう。
自宅で座禅に取り組む場合は、多少の環境整備が必要となってくる。まず、一番静かで心が落ち着くスペースを探そう。部屋の明るさは、明るすぎるよりやや暗めな方が落ち着く。ほんのりとした明るさを確保するためにアロマキャンドルを使うのもいい。お香をたけば、座禅時間を知る時計がわりにもなる。
そして、できるだけ静かな環境をつくる。テレビやBGMはもちろんオフ。携帯電話の電源も、自分と向き合う間ぐらいは切っておきたい。気が散りそうなものは、視野に入らないように片づける。腕時計や眼鏡、指輪などのアクセサリーははずし、服装もゆったりとした着心地のいいものを。冬の寒いときでも、ストッキングや靴下を脱げばスッキリした気持ちになれる。
座禅の前の食べ過ぎはよくない。睡魔を呼び込んでしまうからだ。逆に「おなかがすいた」と雑念がわくのも困りものなので、腹具合はほどほどに。寝不足も要注意だ。
一通り用意が整ったら、座る前に合掌一礼。顔の前で合掌し、へそから腰を折るような形でお辞儀をしよう。「いよいよ本番」と、気持ちが引き締まる。
座る際にはまず、お尻の位置を高くすることがポイント。その方が背筋をまっすぐ伸ばせるからだ。座布団が2枚あれば、1枚は折り曲げたりして尻の下に敷くといい。
足の組み方は2通り。理想的な「結跏趺坐(けっかぶざ)」と呼ばれる座り方は、左右それぞれの足の甲を反対側の足の太ももの上に乗せる座り方。どちらの足が上でも構わない。足を組んだら、背筋を伸ばし、腹を前に突き出すようにして姿勢を整える。
「体が固くて結跏趺坐は難しい」という人なら、片方の足だけを組む「半跏(はんか)趺坐」でもいい。要は安定した座り方ができればいいのであり、足を組めなければ正座でも構わないし、イスに姿勢を正して腰掛ける「イス座禅」もある。
手は組んだ足の上で、両方の手のひらを上に向けて、左手と右手を上に重ねる。親指と親指を軽くくっつけ、ヒジは体から離す。あまり姿勢のことを意識するとかたくなるので、肩の力を抜いてリラックスしよう。
目線は半眼だが、無理に半分閉じる必要もない。1メートルほど先に視線を落とす。凝視せずぼんやりと眺めるようにすれば、おのずと半分閉じた状態になる。目を完全に閉じた方が集中できるよに思えるが、実は逆。かえって様々な考えが浮かんでしまうので、己と向き合うという座禅本来の目的にはそぐわない。
口は意識して閉じ、座禅中の呼吸はすべて鼻でする。呼吸法は複式呼吸だ。下腹部に力を込める丹田呼吸ともよぶもので、ヘソ下の丹田を中心に意識する。体中の空気を全部出すつもりでゆっくり息を吐いた後、さっと静かに息を吸う。このときに肩を上下させないように意識するのがコツだ。普段の呼吸回数は1分で17、8回だが、上達すると5、6回になるという。
「ふーっ」と長い息や深呼吸をすると不思議と心が落ち着くのは、普段でもよくあること。大量の空気を送り込むため、基礎代謝が高まって血の巡りもよくなる。冬場の道場での座禅でも「不思議と寒さを感じない」というのは、実は丹田呼吸のたまもの。ストレスが原因で肌が荒れたり便通が滞ったりする人は少なくないが、ちょっとした時間を見つけて丹田呼吸に取り組むだけでも、効果を期待できるときがあるので試したい。
座禅の時間は初心者なら10分、上級者なら30分ほど。といってもこれはあくまで目安。頑張りすぎはよくない。「座禅はガマン大会ではありませんから」と臨済宗龍源寺(東京・港)の松原哲明住職も言う。
体を整えて息を整えたら、心を整える――。これが座禅の手順だ。雑念を払い無心の状態に心を持っていくことは決して簡単ではないが、「あせらず続けてほしい」と松原さん。コツをつかむためにも、寺院の座禅をたずねてみるのもいいだろう。
・半眼で1メートルほど先に視線を落とす
・口は閉じる
・背筋は伸ばす
・肩の力は抜いて
・丹田呼吸は下腹部に風船があるイメージで
・手のひらを上に向け、左手を右手の上に。親指どうしを軽くくっつける。 |
@あぐらをかく
A両手で右足を持ち、下腹部に近づける
B足の裏が上を向くように、右足を左足の太ももに乗せる
C同じように左足を右太ももに 左右逆でも可。難しいなら半跏趺坐(イラスト下)でも
お尻の位置は高く。折り曲げた座布団を尻の真下に敷くといい |
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