ダイビングを始めると最初に学ぶ、絶対に避けなくてはならないこと、減圧症について触れたい。

潜水時にタンクから吸うのは、陸上で吸う組成のガス(酸素約20%、窒素約80%)である。圧縮し、フィルターをかけて乾燥させてあるので、空気がよりきれいかも知れないが。タンクに詰まったガスを圧力下で吸うと、ダイバーの血液中に溶け込む。その量 は圧力や時間と相関し、潜水が長いほど溶け込む量も増える。酸素は体内で使われるが、窒素は使われず、浮上する時に呼吸で徐々に排出される。

ところが、吸った量が過剰だったり、急速に浮上したりすると、残った窒素はコーラをよく振った時のように気泡となり、体内に残ってしまう。この気泡が減圧症を引き起こす。

症状は気泡のたまった部位 で異なる。関節や筋肉などの骨格筋系にたまった場合は「タイプ氈vと呼ばれ、強烈な痛みを生ずる。より症状が重いのが、脳やせき髄、肺、内耳などに気泡がたまる「タイプ」だ。脳の場合、脳卒中と同様にマヒや意識障害が起こり、致命的な場合もある。内耳はメニエル型と呼ばれ、めまいや耳鳴り、平衡感覚障害などで、かなりつらい。

筆者は自らのクリニックと日本医科大第一外科とで160例を治療した。再圧チェンバーという機械を使い、患者に再び圧力を加えて気泡を小さくし、酸素を与えて窒素を排出しやすくしてやる。

減圧症は恐ろしい病態だが、基準を超えた深さまで潜ったり、急浮上したり、潜水直後に飛行機に乗ったりしなければ、普通 は起こらない。それでも不安があるなら、筆者のようにインストラクターの資格を持つ医師に相談して欲しい。  ダイビングは紳士淑女のスポーツである。無謀なまねはくれぐれも慎みながら、楽しんでもらいたい。 (吉村せいこクリニック   吉村 成子)

(2000.9.16日本経済新聞)