肩の力抜き、おなかから
説得力出て話に自信


営業やプレゼン、電話応対など、声は仕事上、重要なコミュニケーションツール。のびやかで疲れない発声法を身につければ、ビジネスの強い味方になる。
電機メーカー勤務の浅沼真由美さん(42)は、電話でよく「声が暗いね。体調悪いの?」と言われるのが悩みだった。ボイストレーニングのレッスンに通って発声法を学んだところ「元気がいい」と言われるようになり、自信がついたという。

浅沼さんは人材開発部門で社内研修を担当しており、人前で話す機会も多い。「大声を出さなくても多くの人に注目してもらえる声の出し方が分かった。楽に声が出せるようになり、長時間話すのも苦じゃなくなった」と効果を実感していた。

具体的にはどんな点に気をつけて声を出せばいいのだろうか。

東京都内などでボイストレーニングを行っている歌手の楠瀬誠志郎さんは「まず体の緊張を緩めるのが大切」と話す。声を出すのに使う筋肉が固いと、うまく体に響かないからだ。

楠瀬さんのレッスンではまずマッサージから入り、ストレッチも含めてたっぷり1時間かけて体をほぐす。「声を出すときも肩の力を抜き、息を吐くのと同時に声を出すよう心がけるといい」という。簡単にできるストレッチ法は表の通りだ。

「おなかから声を出すのが基本」とよく言われるが、なかなかイメージをつかみにくいもの。楠瀬さんのレッスンでは「胸に口があるイメージで」と教えている。こう考えると、のどでなくもっと奥から発声しやすそうだ。さらに、相手の頭の上を越えて「声を飛ばす」よう意識すると、無理なく通りのよい声が出せるようになるという。

水分補給で乾燥を防ぐなど、のどを守ることも大切だ。冷えると体がこわばるので、寒いこの季節、首や背中、腰を冷やさないよう気をつけたほうがいい。

楠瀬さんは「商談をまとめたりプレゼンテーションしたりという場は、舞台のようなもの。仕事相手に信頼されるのに声の影響は大きい」と指摘。さらに「相手の話をよく聞くことも大切。誠意を持って聞く姿勢を見せれば話し方にも説得力が出てくる」と強調した。

製薬会社に努める前川智子さん(37)は、楠瀬さんのレッスンを受け、肩の力を抜いて体の下の方から声を出すよう意識するようになった。こうすることで「以前は交渉の際に強く自己主張していたのが、最近は穏やかに話すようになり、相手を説得しやすくなった」と感じているという。

発声法を身につけることで、大きな交渉の際も緊張しにくくなるなど、精神面でのメリットもあるようだ。「『こうやって声を出せばいい』と分かっていると、企業幹部の前で話すときも自身が持てる」と前川さん。

腹式呼吸での発声が通りのよい声の基本と言われるが、普段は意識するのが難しい。フリーアナウンサーの野村華苗さんに練習法を教えてもらった。

まず、あおむけにひざを立てて横になる。次に、鼻から息を吸い込んでへその下あたりから胸にかけてためるようイメージし、口からゆっくり吐くという呼吸を繰り返す。慣れてきたら吐くときにのどの奥を開き、「ハー」と声を出す。

「あおむけで腹式呼吸の発声ができるようになったら、立って鏡を見ながら練習するといい」と野村さんは勧める。立つと体が緊張してしまうからだ。鏡できちんとおなかに空気が入っているかチェックする。

しかし、実際に話をするときはなかなか呼吸を意識する余裕もないだろう。「緊張すると知らず知らずに早口になっているもの。意識してゆっくり話すようにすると、声も落ち着いてくる」(野村さん)。これなら実践もしやすそうだ。


疲れずのびやかに発生するコツ

・肩や背中の緊張をゆるめる(首、肩を回してリラックスさせる)
・胸あたりに口があるようイメージして声を出す
・のどからおなかにかけて管が通っているとイメージし、管にひっかからずまっすぐ声を出すよう意識する
・意識的にゆっくり話す
・こまめな水分補給とうがいを心がける


腹式呼吸で発生する練習

・ひざを立ててあおむけに寝る
・ゆっくり鼻から息を吸ってへその下あたりにため込む
・のどを開き、おなかから「ハー」と声を出す
・イメージがつかめるようになったら、鏡の前に足をやや開いて肩の力を抜いて立ち、おなかまで息がたまるのを確認しながら声を出す


声をかれにくくするストレッチ

・正座して首を左側に倒す(右肩が上がらないよう気をつけて)
・右腕を横に伸ばし、床と並行よりやや上まで持ち上げる
・手のひらを床と垂直に立て、指先をまっすぐ上に伸ばす
・首をうしろに大きく回す(肩が動かないよう注意)
・首を正面に戻し、右手をゆっくり下ろす
・反対側も同様にストレッチ


(注)楠瀬さん、野村さんの話をもとに作成

2006.2.25 日本経済新聞