| 日本人のおよそ6割が疲労に悩まされている。しかも、そのうち約37%の人が、6カ月以上もの間、疲れたままの状態が続いていると訴える。肉体的な疲れよりもむしろストレスからくる心的要因が大きいのも現代人の疲労の特徴。実に厄介だ。
 「勝ち組」と「負け組」の言葉に代表されるように社会に格差が広がっている。「働いても意味がないといった無力感が、疲労を生んでいる」と防衛医科大の野村総一郎教授は説明する。リストラを言い渡す人事担当者が「自分は何のためにこんな仕事をしなければならないのか」と悩み、心的な疲労が重なっていくケースが象徴的な症例という。
 
 疲労には「健康的な疲労」と「体に悪い疲労」とがある。前者は激しいスポーツをした後などにゆっくり体を休め、十分な睡眠をとると回復する。後者は、休息してもなかなかスキッとした気分に戻らない。ストレスといった心的な負担がかかわっていることが多い。
 
 体に悪い疲労を放っておくと、うつ病になる危険性が高まる。仕事のプレッシャーや職場の人間関係からくるストレスを免れることはできないが、疲労をため込まないようにすることは可能だ。
 
 一番大切なのは、「思いこみせず、事態を立ち止まって考えるクセをつけること」(野村教授)。例えば、あいさつして相手から無視されたとしよう。「目が悪くて見えなかった」「考えごとしていたため気づかなかった」という可能性もある。頭の中でいくつかの選択肢を考えることで人間関係が原因になる心の疲労は軽減される。
 
 人間にとって疲労は、痛みや発熱と並ぶ危険を知らせる警報装置の役目も担う。体が休息を浴している状態のため、いち早くアラームに気がつかなければならないが、疲れの感じ方には個人差も大きく、発熱のように客観的に判定するのは難しい。
 
 人間に寄生して共に生きているヒトのヘルペスウイルス(HHV)。普段はおとなしくしている6型が、人間に疲労がたまってくると活動し始めることを東京慈恵会医科大の近藤一博教授は突き止めた。ゴールデンウイーク前後で被験者のだ液中に出るウイルスの量に大きな変化があった。
 
 疲労の原因物質としては乳酸が有名だ。しかし、海外の研究チームが2004年、米サイエンス誌に「乳酸はむしろ筋肉疲労を和らげている」と発表、乳酸悪玉説は大きく後退した。疲労の仕組みなど科学的に未解明なことが多いが、HHV6によって疲労度を客観的に測定できるようになるかもしれない。「HHV6を活性化させる物質がわかれば、疲労との関係も追及できる」と近藤教授は胸を膨らます。
 
 疲労解消に効果的な方法について大阪府内に住む約1200人を対象に調査したアンケートがある。疲れを感じたときにとる行動として最も多かったのが「入浴」。「コーヒーを飲む」「マッサージ」などが続いた。しかし、効果があると回答した割合は入浴で約4割、コーヒーだと5%にも満たない。
 
 総合医科学研究所(大阪府豊中市)は、科学的根拠に基づいた疲労を軽減する物質を探すプロジェクトに食品メーカーや製薬会社と取り組む。これまでの研究で、疲労と関係して血中濃度などが増減する50種類の物質がわかった。「2007年には疲労を回復できる特定保健用食品が登場するだろう」(梶本修身取締役)
 
 たかが疲労と軽く見ると、深刻な病気になることも。気分が充実し疲れを感じなくても肉体的な疲労が重なると過労死することだってある。「疲労が発するメッセージをうまくとらえてほしい」と文部科学省の疲労研究プロジェクトを率いる大阪市立大の渡辺恭良教授は力説する。
 (矢野寿彦)
 
 
                  
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                        | 最近1カ月間の自覚症状について、質問ごとに1つだけチェック(「ほとんどない」0点、「時々ある」1点、「よくある」3点
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                        | 1.イライラする | 8.することに間違いが多い |  
                        | 2.不安だ | 9.仕事中、強い眠気に襲われる |  
                        | 3.落ち着きがない | 10.やる気がない |  
                        | 4.ゆううつだ | 11.へとへとだ(運動後を除く) |  
                        | 5.よく眠れない | 12.朝起きた時、ぐったりした疲れを感じる |  
                        | 6.体の調子が悪い | 13.以前と比べて疲れやすい |  
                        | 7.物事に集中できない |  |  
                        | 合計点が T 0〜4点 U 5〜10点 V 11〜20点 W 21点以上
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                        | 最近1カ月の勤務状況について、質問ごとに1つだけチェック
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                        | 1.1カ月の時間外労働 | 「ない又は適当」0点「多い」1点「非常に多い」3点 |  
                        | 2.不規則な勤務 | 「少ない」0点「多い」1点 |  
                        | 3.出張に伴う負担 | 「ない又は小さい」0点「大きい」1点 |  
                        | 4.深夜勤務に伴う負担 | 「ない又は小さい」0点「大きい」1点「非常に大きい」3点 |  
                        | 5.休憩、仮眠の時間数と施設 | 「適切である」0点「不適切である」1点 |  
                        | 6.仕事についての精神的負担 | 「小さい」0点「大きい」1点「非常に大きい」3点 |  
                        | 7.仕事についての身体的負担 | 「小さい」0点「大きい」1点「非常に大きい」3点 |  
                        | 合計点が A 0点 B 1〜2点 C 3〜5点 D 6点以上  |  
 
                        
                          | 
                            
                              | 
                                
                                  |  | 勤務状況 |  
                                  | 自覚
 症
 状
 | 
                                    
                                      |  | A | B | C | D |  
                                      | T | 0 | 0 | 2 | 4 |  
                                      | U | 0 | 1 | 3 | 5 |  
                                      | V | 0 | 2 | 4 | 6 |  
                                      | W | 1 | 3 | 5 | 7 |  |  | 
                                
                                  | あなたの仕事による疲労蓄積度は? |  
                                  | 0〜1 低い |  
                                  | 2〜3 やや高い |  
                                  | 4〜5 高い |  
                                  | 6〜7 非常に高い |  |  
 |  (注)厚生労働省作成
 
 
 
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