カルシウムは1日800ミリグラムを目標に 日本は21世紀、5人に1人が65歳以上の高齢化社会を迎えます。1998年には労働者の半分以上が40歳を超え、今後この傾向はさらに広がります。すなわち、高齢者も社会の担い手として働き続けなくては日本の社会を維持できない時代になってくるのです。そのなかで骨粗しょう症は1つの大きな問題です。 骨量の減少には個人差がある 日本では100歳以上の人がかなり増えましたが、そのうち女性の30%、男性の13%の人は寝たきりの状態です。そこで、それぞれが日常の生活動作や自分のやるべきことを自分でできて、社会的に活動できる健康体とならなくてはならないと思います。 ところで、骨の状態は65歳から75歳までに個人差が出てきます。女性では50歳ぐらいから、男性では60歳代の後半から骨が減り始めるのでるが、この個人差には以前から起こっていたいろいろな現象や骨の代謝の異常がかかわってきます。 健康な成人の骨の形にはほとんど個人差がありません。それは骨の量 と形を調節する非常に厳密なメカニズムが体の中にあるからです。その1つはビタミンDと副甲状腺ホルモンのカルシウム調節ホルモンです。これらが骨のカルシウムも骨の中のカルシウムも一定に保っているのです。もう1つのメカニズムは女性ホルモン。海綿骨として骨のなかにカルシウムを蓄えています。これは男性も同様で、男性の場合は骨の周りにホルモンがいくと、骨芽細胞が男性ホルモンを女性ホルモンに変えます。 骨量は、年をとってカルシウムの吸収ができなくなり、ビタミンDの摂取が不足してくると、徐々に減ってきます。それに加えて女性の場合は、閉経を迎えるということが重要なポイントになります。 女性ホルモンに依存する骨量は、全体の約20%前後です。カルシウムやビタミンDに依存するものが約20%。そして、運動機能の依存するものが約20%。つまり合計60%程度が、これらの3つの要因に依存しています。つまり、その依存している部分は調節が可能なのです。 また運動も骨量を増やす上で重要になります。骨に重力を加えると、破骨細胞による「骨を壊す」機能が弱まり、骨芽細胞による「骨を作る」機能が強まります。したがって、重力に抗して運動するというのは骨に対して非常に有益です。 カルシウムですが、1日800ミリグラムを摂取することが必要と言われています。日常の日本人の食事は、大体400−600ミリグラムのカルシウムが含まれているので、それに牛乳1本分、約200ミリグラムのカルシウムを補うことをお勧めします。 人類の進化の過程において、母親が自らのおなかの中で胎児を育て、子供をある程度成長してから産み出すという機能を獲得しました。しっかりとした背骨や骨格を持った子供を産むために、体にカルシウムを蓄えるメカニズムを女性ホルモンが持ったと考えられます。だから逆に女性ホルモンがなくなると、この海綿骨は必要なくなり、どんどん減ってくるのです。これが、閉経から起きる骨量 減少のメカニズムです。 その結果、骨量は60歳ぐらいで10%、70歳ぐらいで20%減少します。さらに運動量 の低下とカルシウム摂取量の低下とが重なって、80歳前後の女性では若いころに蓄えた骨の50%から60%近くまで減ってしまう例が出てくるのです。しかし、十分に骨量 を蓄えた人はなかなかこのレベルにまでは減りませんし、それから骨量の減り方が小さい人もこのレベルまでには減りません。 女性ホルモンの補充も有効 骨粗しょう症とは、自然な経過で骨が減ってくる状況の中で、それが極端に起こった状態です。20歳代の骨量 の70%を下回ると、骨粗しょう症としています。したがって、若い年代の70%を目安にして、自分はどの辺にいるかを知ることは、血圧を知ることと同じように、年をとっても元気で生活するための1つの重要な情報です。 70%くらいまで骨が減ることは、強度で考えると若い人の骨の半分ぐらいになるのです。骨が折れやすくなるといっても、何かをすればすぐ折れるというわけではありません。日常生活の動作では、体重の3倍から5倍の力が骨にかかっているので、急に振り向いたり、急に前かがみにしてものを取ろうとするような動作を避け、軽やかな運動を心がけ、バランスよく体を使えば、余裕が少なくなった状態でも骨を折らずに生活することが可能です。 また、骨量が減ること以外に、どうしても折れやすい「たち」ということがあるようです。これは何らかの遺伝的なものだろうと思います。 骨量が70%に近づいてきた人、あるいは「たち」で骨折を起こしやすいのではと心配されている人は、日常生活の中の運動やバランスに気をつけてください。それから栄養面 に気を配り、さらに女性ホルモンの補充をされても良いかと思います。 的確な治療で危険性を下げる 治療に関しては、近年かなり希望が持てるようになりました。骨量 が減少し、さらに減り続けていることが明らかになっても、きちんと治療を受ければ、危険性を半分までは下げることができます。そして、運動し、栄養をとる。その効果 が骨量を測ることで確認できる。また、薬物を使った場合には骨量が増えていくことも予測できるようになってきました。 確かに骨が健康であるかどうかを自覚することは極めて難しいことです。骨の健康は骨量 測定をしなくてはわからないのです。積極的に自分の骨を調べてもらい、そして安心したりあるいは注意深くなったりし、日常生活に気をつけて、65歳から75歳までの骨折の多発期を乗り越えて、健康で豊かな高齢化社会を作ってください。骨粗しょう症は決して怖くはありませんが、皆さんそれぞれが骨の健康に注意をして、骨の健康の増進と維持に努めることが一番重要なのです。 (2000.9.23日本経済新聞) パネルディスカッション |