突然片手に力が入らなくなる。片目だけが見えにくくなる。しかし、すぐに治ってしまう……。運転中に限らず、日常生活でこんな症状があったら要注意。脳梗塞の前ぶれかも知れません。今回は、そんな一過性脳虚血発作についてお話をうかがいました。
一過性脳虚血発作とは、どんな病気なのでしょうか?
内山 一過性脳虚血発作は、病名(transient ischemic attack)を略してTIAと呼ばれています。脳梗塞の前ぶれのような病気ですね。脳梗塞は脳の動脈が血栓によって詰まり、脳に血液が流れなくなって酸素が脳細胞に供給できず、最終的には脳の機能が失われる病気ですが、TIAはいったん血栓で詰まってもそれが自然に溶け、血流が再開する状態をいいます。
●それで一過性なんですね。症状にはどんなものがあるのですか?
内山 脳梗塞と同じで、手足に力が入らなくなり、しびれが出ます。また、言葉が出なくなったり、ろれつが回らなくなったり、視野の半分が見えなくなる、片目だけ幕がかかったようになる、などの症状が現れます。急に身体のどちらか片側に症状が現れ、そして急に回復するのがTIAの特徴です。症状は2分から15分くらいで消えてしまうことが多いので、「変だ」と感じても見過ごしがちなんです。
ところが、脳梗塞患者の30%が以前にTIAを経験していたというデータがあり、TIAを放置すると脳梗塞の危険性が高くなります。脳梗塞は40歳以降は10年ごとに危険度が増すと思ってください。それから高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満の人。喫煙や大量飲酒も要因になります。
●運転中にTIAが起きたら大変ですよね。もし運転中に起きてしまったら、どうしたらいいですか?
内山 運転中、片手や片足に力が入らないような気がしたら、すぐに元に戻ってもただちに運転をやめて病院へ行ってください。同乗者がいれば運転を代わってもらい、一人なら誰かに迎えに来てもらうといいでしょう。というのも、TIAの直後に本格的な脳梗塞が起こる場合も多いんです。すぐに受診すれば、脳梗塞にならないための適切な治療をうけることができます。
●TIAの治療中は、運転ができませんか?またその後の脳梗塞の確立は?
内山 TIAには手足のマヒといった後遺症はないので運転への影響はありませんが、やはり運転はストレスになってアドレナリンが増え、血圧も上がりやすくなります。長距離運転の場合は、頻繁に休憩して疲れないようにすることと、血液が濃くなって血栓ができやすくならないよう、こまめに水分を摂ることが必要です。たとえTIAを起こしても、処方された薬を飲んで、ふだんの生活に気を付けていれば、脳梗塞の発症をかなり防げます。
●不幸にも脳梗塞になってしまったら、どのような治療がおこなわれますか。
内山 主に薬による治療とリハビリですね。最近は脳動脈に詰まった血栓を溶かして血流を再開させる新しい薬(t−PA)もありますが、発症後3時間以内に治療を始めなければならづ、また患者さんの状態によっては治療を受けられない人もいます。
どちらにしても、脳梗塞やTIAにならないためには適度な運動をし、ストレスをためない生活を心がけてください。映画や音楽を楽しんだり、お笑い番組を見るのもいいでしょう。
●インタビューを終えて
「TIAや脳梗塞になりやすい人は負けず嫌いでせっかちな人に多く、このような人をA型性格と言うそうです。私の血液型はA型なんですが、血液型とは関係ないとのこと。ちなみに、多忙な内山先生の一番のストレス解消法は、2匹の愛犬レオ君とルイ君との散歩だそうです」(小林美紀)
今月の名医
内山真一郎
東京女子医科大学医学部神経内科教授
日本脳卒中学会認定専門医。
日本脳卒中学会理事、日本血栓止血学会理事、米国心臓学会脳卒中法議会評議員。
脳卒中研究・治療の第一人者。長嶋茂雄読売巨人軍終身名誉監督の主治医でもある。
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