体温下げしっかり休む

講義や診察のあと「睡眠とは一体何ですか」と聞かれることがよくある。

約10年前、本格的に睡眠の研究を始めたころは、ただ「睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠からなる」と答えていた。しかし、これでは本当の答えにはなっていない。

東京医科歯科大学名誉教授の井上昌次郎博士の著書を読み、変温動物と恒温動物の休息を比較し系統発生の観点から睡眠をとらえなければならないことを知った。睡眠が脳を休ませるだけでなく全身の休息であることもわかった。眠っている間の内部温度をきちんと把握することが、眠れない人を理解するのに役立つのではないかと考えるようになった。

哺乳(ほにゅう)類に属する人間は恒温動物である。爬虫(はちゅう)類などの変温動物は外界の温度が下がると体内の温度も次第に下がり活動できなくなってしまう。恒温動物は外界の温度が下がっても体内の温度を保つことができる。休息をどうとるのかというと、体内の温度を積極的に下げることでしっかりと休むようにできている。睡眠はまるで変温動物のようになって脳と体をしっかり休息させるシステムだ。

人間は手先や足先から熱を逃すシステムが作動すると、体内の温度が下がり始めだんだんと眠くなる。冷え性で手が冷たくなりやすい人は、熱を逃がすのが下手で不眠になりやすい。

1日の中での眠気の変動は体内の温度と連動している。徹夜で帰宅した後、昼間に眠ろうとしてもぐっすりとと眠れないのは体温が上昇したままの状態だからだ。時差ボケで目がさえるのも同じ理由だ。

秋田大学精神科の睡眠研究チームは睡眠薬をボランティアに投与、体内の温度を下げる作用があることを発見、この作用が睡眠誘発に重要であることを突き止めた。

最近、ある科学雑誌で恐竜が大きくなったのは体の内部の熱をさめにくくして活動時間帯を夜にまで延ばすためだったという話を読んだ。恐竜は寝つきが悪かったのかもしれない。
(日本大学医学部精神医学講座教授  内山 真)

2007.1.21 日本経済新聞