服の上でも効果
健康たわしの活用も


かつては住宅の庭先で冬場に上半身をはだけ、タオルや手ぬぐいで乾布摩擦をする光景が見られた。そうした姿が少なくなって久しいが、乾布摩擦の効用は色あせていない。オイルを使ったり、服を着ていてもできるなど、方法も今日的になっている。

「首や背中を摩擦し続けることで風邪をひきにくい体質になった」と話すのは、東京都に住む春木浩子さん(40)。春木さんは6年ほど前から毎日15分、風呂場で麻のタオルを使った乾布摩擦を続けてきた。春木さんの乾布摩擦のコツは、タオルを一度しばって「玉」を作ること。「こうするとツボを楽に刺激できる」からだ。

春木さんに乾布摩擦のアドバイスをした「あさいマッサージ教育研究所」(川崎市)の浅井隆彦所長は「首筋や肩甲骨の間、腰などには体に効くツボが多い。ここを布で刺激すると寒さに強い体作りに役立つ」と話す。アロマオイルを湯にたらして布を浸し、マッサージする「湿布摩擦」も効果があるという。

慶応大学名誉教授で左門町皮膚科の西川武二院長は「乾布摩擦は自律神経を刺激し、血液の循環を良くする」と効用について解説する。冬場にしもやけになり、病院を訪れる若い女性も目立つが、「こうした場合も冷温水に交互につけるとともに、乾布摩擦をすると効果がある」という。

南多摩病院の村田高明医師は「乾布摩擦は冷え性などにも効果がある」と指摘した。人は自律神経が血管を収縮させたり拡張させたりして体温を調節すると、自律神経失調による体温調節の異常があると冷え性になったり痛みが生じたりする。「乾布摩擦は自律神経を刺激して身体の変調を正常化する働きがある」と村田さん。摩擦による刺激が皮膚を強くして外気から身を守るとともに、血流をスムーズにして新陳代謝を促す仕組みだ。

関節ほぐす効果
一方「服を脱いで乾布摩擦をするのには抵抗がある」とためらう人に対し「服の上からでも摩擦の効果はある」と話すのは、大阪府吹田市で鍼灸(しんきゅう)院を開く田上克男さん。長時間机に向かう際にタオルや細ひもをそばに置いておき、折に触れて背中をこするのも1つの方法だ。「伸びの動作と同様、腕や肩の筋肉や関節をほぐす運動にもなる」という。背中のほかに、冷たいと感じる手先や足先をタオルでこするのも効果的だという。

冷え性に関する著作が多く、鍼灸師資格を持つ山口勝利さんは「かつては入浴時にヘチマや目の粗いタオルなどで体をこする習慣があったが、今は肌を刺激する機会が減った」と指摘する。これを解消するのが乾布摩擦というわけだ。山口さんは背中のほか、足指を布でマッサージすることもすすめる。「足の指の間には多くのツボがある。刺激するとツボマッサージになるほか、足先を暖めることにもつながる」とすすめる。背中を中心に毎日乾布摩擦を行い、足指は1日に2−3回摩擦するのが効果的という。

硬さは4種類
たわしを使う乾布摩擦にも根強い人気がある。「亀の子束子西尾商店」(東京都北区)は毛の硬さを段階的に分けた健康たわしを販売して20年あまり、固定ファンをつかんだ。最も軟らかいタイプから、ヤシの実の繊維を使った最も硬いものまで、健康たわしの硬さは4種類。価格は630円から。

同社でマーケティングを担当する企画部の浜田久美子さんは「初めての人は、まず軟らかいたわしを使ってほしい」とすすめる。最初は肌を軽くなでる程度に手先、足先をこすり、徐々に体の中心部に向かうと良いという。同社に勤める長沢文恵さん(63)は2番目に硬いタイプを愛用中。「健康たわしは少し使うと毛先の鋭さが取れて体になじむ。そうやって大事につかうと1年はもつ」と話す。

布や道具選び、乾布摩擦の方法(写真参照)に気をつけながら、生活の中で試してみる価値は今日でも十分あるだろう。


乾布摩擦の方法

(1)タオルで首筋や肩甲骨の間、腰などを5−10分程度摩擦する。タオルをしばって玉を作ると刺激が強まる。薄い衣服の上からでもOK
(2)たわしで摩擦する場合、軽く回すようにして皮膚を傷つけないようにする。心臓から遠い足先、手先から徐々に体の中心に向かうようにするのがコツ
(3)小さめの布か、使い古した木綿の靴下を切ったものを足指に通し、1本ずつマッサージする。朝晩、片足につき2分ほど行うとよい




2007.1.27 日本経済新聞