疲れていても眠れない

同じ病院で働く看護師から睡眠について相談を受けることがある。交代勤務にまつわるものが多い。病院では夜に働くという大変な仕事をみんなでシェアしようという考えから週1−2回夜勤に入るが、これがなかなか厄介だ。

人間は昼行性哺乳(ほにゅう)類に属する。数万年以上も前から日中に活動し夜間に休息をとる生活を続けてきた。このような生活を決定づけ支えてきたのが体内時計の機能だ。通常の生活では意識しないが、体内時計は夜の一定時刻になると休息の準備を始め、早朝の一定時刻には活動の準備を始める。体内時計が心身の状態をコントロールしているおかげで、われわれは夜にぐっすり眠り、日中にしっかり覚醒して活動できる。

夜勤だと通常は眠っている夜の時間帯に仕事し、仕事を終えた翌朝から昼に睡眠をとらなければならない。夜間起きていたことで睡眠への要求は高まっているが、朝の時間帯には体内時計の働きで体が活動に適した昼の状態になっていくため、疲れて眠たいのによく眠れない状態になる。
夜勤の前に通常よりも早くに仮眠を取る場合も同様だ。体がまだ夜の状態ではなく体内時計による眠りの準備が始まっていないため、なかなか眠りにつけない。

週1−2回夜勤が入る場合、通常の日勤を中心とする生活リズムを重視しつつ、夜勤後の休息を効果的にとる対処法が求められる。しかし、とても難しい。体内時計の順応には時間がかかるからだ。
少しでも寝つきをよくしたいなら、夜勤後帰宅する時にサングラスなどをかけ強い太陽光が目に入らないようにするといい。朝の光を取り入れないことで活動準備を始めようとする体内時計を少しだまして、まだ夜の状態であると思わせることができる。

夜勤後に眠るのが困難なら、医師と相談し体に長く残らない睡眠薬を少量使用することも、対処法のひとつだ。

体内時計と睡眠の仕組みについてさらに研究をすすめ、夜勤システムの問題に対する解決策を考えていく必要がある。
(日本大学医学部精神医学講座教授  内山 真)

2007.2.25 日本経済新聞