軽い負荷でも成長ホルモン促す
自己流禁物、理論学ぼう


腕や太ももの付け根を専用のバンドで締めて運動する「加圧トレーニング」をご存知だろうか。関節に負担をかけない程度の軽い負荷をかけることで、短時間の運動でもきついトレーニングをしたのと同等の効果が得られるという。その謎を解く1つのキーワードが「成長ホルモンの分泌」だ。

「がんばって、29、30。はい、1セット終了」。スポーツジムコスモス自由が丘店(東京・目黒)でダンベルを手にアームカールをするのは会社員の村松亜子さん(33)。腕の付け根には指導者が適正圧に調整したベルトを装着、使っているのは1キロの軽いダンベルだ。

通常なら楽なはずの運動だが、村松さんの額には汗が。短い休憩を挟んで3セットこなすと、最後には腕がなかなか上がらない。これより重いダンベルを使った時よりもつらかったという。

ベルトで血流制限
腕の運動を数種類やり最大10分たったらバンドを外し、次は足の付け根にしてスクワットなどをこなす。手足合わせ30分ほどで「加圧」は終了、後はストレッチで体をほぐす。週1回の運動でも始めて数回で服が緩くなり、「食事も変えず、ほかに何もしてないのに」と驚きの表情だ。

サトウスポーツプラザ(東京・府中)を運営する佐藤義明氏が開発した加圧トレーニングは商標で、ベルトで血流を制限するのがポイント。強く締めれば止血となり効果が出ないどころか危険。

自分でヒモやチューブで締めるなどは論外だ。体験するには本部の認定を受けた指導者のいる施設に行くか、家庭用の器具やウエアを資格者から講習を受けて購入する必要がある。持病のある人などは、事前に医師に相談する必要がある。

というとハードルが高そうだが、佐藤氏と東京大学との研究では筋肉のサイズや筋力アップが確認されている。またスポーツジムコスモスの会員にはゴルフの飛距離が20ヤード伸びた40代女性や、体重が2カ月で4キロ以上落ちた30代女性も現れ、その効果の程には興味を引かれる。

「加圧状態で筋肉トレーニングをすると、負荷が軽くても多くの筋線維が使われる」と説明するのは、東京大学医学部附属病院22世紀医療センターの中島敏明准教授。筋肉がきつい運動をしていると勘違いし、「その結果、乳酸が多く出て成長ホルモンの分泌が促進され、筋肉内のたんぱく合成も促される」。

成長ホルモンはその名の通り、筋肉や骨の成長を助ける、体脂肪の分解を促す、肌をきれいにする、内臓活動を活発にするなど働きは様々。筋肉トレーニングで分泌されることは分っていた。だが、東京大学の石井直方教授と、通常のハードな筋トレ後にも成長ホルモンの血中濃度は安静時より上昇するものの、加圧トレーニング後にはさらにその3倍も上昇したケースがあるという。

2時間後にピーク

トレーニングの効果をより高めるために知っておきたいのが脂肪分解から燃焼に至る時間の流れ。運動後約15分で分泌のピークに達した成長ホルモンの働きで、1時間後には脂肪分解のピッチが上がり始め、2時間後には最大になる。この時間帯にウオーキングなどの有酸素運動や入浴をすれば効率的に脂肪を燃やせる。一方、筋肉合成は運動後2−3時間後から始まり、2日ほどかけて進行するので、筋肉をつけたいならば運動後1時間前後に高たんぱく食品を摂取するとよい。

加圧するのは腕と足だが、「おなか回りが気になる」という人にも効果が見込める。「成長ホルモンは血液で全身に送られ、ストレス状態の部位に多く作用する。専用のウエアを使う時は、腹筋など脂肪をとりたい部位の運動を加圧前にしておくとよい」(ウエアを手がけるフェニックスの片庭裕明氏)という。

筋力をつけて脂肪を落とし、基礎代謝を上げることが美しい体への第一歩。ただ何事も性急に効果を求めても無理なもの。掃除などをしながらでもよく、まずは3カ月をめどに取り組んではどうだろう。 
(ライター  佐藤 裕理子)


自宅でできる簡単な加圧メニュー

始める前に(専用のベルト付ウエアをスポーツ用品店などで講習を受けてから購入する(シャツは1万5000円、パンツは2万円前後から)

1.グーパー運動
こぶしをギュッと握り締めてパッと開くの繰り返し
2.プッシュアップ
ひざをついた状態で腕立て伏せ
3.もも上げ
足を腰の高さまで上げて足踏み
4.カーフレイズ
つま先立ちをしてかかとを上げ下げする

それぞれ加圧時間は腕10分、太もも20分以内にとどめ、いくつかの動きを組み合わせて週に1-2回程度。運動直前の食事は避け、水分補給を十分に




2007.6.23 日本経済新聞